忘れていた記憶
暗いトンネルを歩くようにエルピオンは先を急ぐ。遠くの方で鎖を引きずる音が聞こえる。蝋燭のようなボヤッとした光に向かうと、檻の中で一人の赤髪の少女が殴られ続けている。何度も謝罪をしながら泣きじゃくる彼女だが、殴り続ける男にエルピオンは感情が無いように見つめる。
『エル…?どうしたんだ?』
「あの女の子…私です」
『あの殴られているのがか⁈でもあの男は…?』
「あれは…父です」
男は飽きたのか部屋を出て行く。擦り傷と殴られた後を慰めながら幼いエルピオンは体を小さくする。鼻から出る血も押さえながら泣き続ける。
『お前の親、どう言うつもりだよ…⁈』
「私は、望まれて生まれていないんです。なにせ、『忌子』ですから」
エルピオンはあの鏡のことを思い出す。預言者の言葉。煉獄のように赤い髪を持つ子どもとして。だからと言ってアデルの一族だと言うことを知らずにいる。
『エル…』
「次に行きましょう」
わんちゃんは何かを言いかけたが、光の道をエルピオンは歩いて行く。その道を抜けると外は昼になっており中庭のような感じがする。エルピオンは使用人が集まっているところに向かうと幼いエルピオンが埃などで汚れた水を被せられている。それを見て他の使用人たちはくすくす笑っている。しかしすぐにエルピオンの叔父がやってくる。一部始終を見ていた彼は彼女らを怒っているが幼いエルピオンはやめさせている。彼女は汚れたその姿で屋敷に戻る。取り残された叔父はその場所で血を吐いている。体が弱いのはわかっている。だからと言っても、彼と関わってはいけない。彼が酷い目に遭うことがわかっているから。
中に戻った幼いエルピオンに待っているのは姉の虐待。一方的に殴られ続けるエルピオンだが、一人の若者が止めに入る。
「何している。有名な貴族の令嬢が、こんなことしているとわかったらどうなるか、わかっているよな?」
悪人を成敗するような声に姉は去っていく。痛む体を無理やりに起こす幼いエルピオンだが、彼はマントで後ろから見えないようにする。彼の片手には一つの飴玉がある。
「食べな、今日も朝から何も食べていないだろ?いつもこんなのもばかりでごめんね?」
小声で話す彼を見るエルピオンは「お兄ちゃん…」と声を漏らす。背後から父親と母親が怒りの籠った声をぶつける。
「お前、こんなところで何してる」
「こいつが床を汚していたから、掃除させているだけ。ちゃんと見ていないと、サボるだろ?前だってサボってたと、妹が言っていたから」
「そうか、ならきちんとさせておけ」
去って行く彼を見て、兄は舌打ちをする。実の父親を嫌っているのはその反応を見ればよくわかる。しかし、本当の不幸が来たのはこの後だった。
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次回も楽しみに
 




