人型生物 アイデイリア
ヘルズはひどく怯えた表情をする。今まで彼らの手から逃げるために人として認められる場所で生きてきた。その人体実験によって生み出された生物だとわかれば彼らに連れ戻されなければらない。
「あら、もしかして当たり?」
「ち、違う…!俺は………………!!!!」
「もしもあなたが望めばネーシア様が助けてくれるよ?もちろん彼も助けてあげる。私たちと協力してくれるならね?」
「助けて…くれる?」
「もちろんよ、アタシが保証するわ」
ヘルズはその手に触れる。しかしすぐに振り払いアルディの腕を切り落とす。酷い声にヘルズは見下げるだけ。まるで心を持たない機械兵のように。
「お前ッ…!!」
「俺は…サンデスと契約している。あいつのために俺は働く。誰かの物になんてならない!」
ヘルズの腕には契約の印が生み出される。魔獣の群れの中にいるサンデスにも同じ契約印が浮き出る。ヘルズはその契約に反応するように人ならざる姿に変わる。顔にはヒビが入り、魔族に近いが別の生き物だとすぐにわかる。心臓だと思える赤い宝石のような眩い光を発する物を守るように肋骨が飛び出す。
「まさか…!お前は人型生物ーアイデイリアーなのか!!!!」
「あなたは…どう思う?」
不気味なその笑顔に恐怖を煽られる。今まで経験したことのない気配。その恐怖を紛らわせるために声を上げる。しかしスピードはヘルズの方が速い。一気にトップスピードに乗るとアルディとの間合いを詰める。背中から生える腕にはサブマシンガンを手にもつ。発射される弾丸を避けるが微かに顔と足を掠める。
「このっ!!」
アルディは魔法弾を体に打ち込み身体を男に変える。強靭的はパワーで地割れを起こす。距離を取るヘルズだがすぐに捕まってしまう。しかし表情はほぼ変わらない。余裕のある顔を見せるヘルズに違和感しかない。
「急に表情が出なくなったね…。何かあるのかしら?」
「なんでだと思う?」
「…っ!!!!」
胸が苦しくなるアルディは目線を下げるとヘルズの生えた腕が持つナイフによって突き刺される。完全に心臓に刺さっているのがわかる。呼吸も苦しくなる。
「先ほどまでの勢いはどこに落としてきたの?俺らを殺すんじゃ無かったのか?」
圧倒的な強者感を見せつけるヘルズにアルディは鼓動が早くなる。ヘルズの美しいパールのような白い肌に赤い鮮血が流れて行く。この、人を殺すのに無関心な怪物をなぜ人間は生み出したのだろうか。なぜ感情を無くすように作り出したのだろうか。なんの目的があったのだろうかと当時の化学者に聞いてみたい。
戦争の兵器として生み出したとしたら、遅すぎるような気がする。戦争はとっくに終わったところでこの生命体を生み出している。これからの戦争のためなのだろうか。それとも別の理由があるのだろうか。
「其方は何を考えている。血の流しすぎで頭に血が回っていないのか?」
「お前は、なんのために生まれたんだ?戦争の兵器か?」
「そんなの、知らない。我々ハ、“人”ヲ殺スダケ…!こレカら来る、戦争のタメに」
機械のような話し方をするヘルズにサンデスは顔を顰める。これ以上が危険だとわかる。ヘルズの心が完全に機械になってしまう。
「そう、ならこれだけ教えてあげる。お前らの仲間に、神になるやつがいる。その子がどちらになるかわからない。気をつけなさい」
倒れ込むアルディの体は砂となって消える。その代わりに青く光る火の玉が出現する。
「これは…」
「これが魔王の力なんだと思うよ。それよりヘルズ、元に戻りかけてる」
「ごめん…なさい」
「でも、ごめんね。俺がもう少し強ければ、ヘルズがここまでしなくてもよかったのに」
「主人のために、したまで。これから、どうするか考えなければならない」
「ところで女から元に戻らないけどいいの?」
「なにっ!!!!」
人の姿に戻ったヘルズだが、男に戻れない。
「まぁ、いいや。どうせ自分は元々女なのだから」
「そういえばそうだね」
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次回も楽しみに




