大切な物
よろしくお願いします
叩き合いの中、ついに決着が着く。剣がエルピオンの首をすり、エルピオンの短剣がヘルズの腹を刺す。ヘルズの腹に、赤い一輪の花が咲いたかのように赤く染まる。
「エル!」
ハルルカ大いに喜ぶ。グルテスは見えないところでガッツポーズを取る。国民は悲鳴のような声を上げる。
力無くして、崩れるヘルズ。エルピオンの顔には少しだけ血が着いている上に、首筋に少しだけ血が流れる。ただそれだけで、後は無傷。
「エル!やったね」
ハルルカは舞台に上がり、エルピオンに喜びを伝える。
「うん。私がここまで闘えたのは、ルカのお陰だよ。ありがとう」
「私は何もしてないよ?」
「色々してくれたよ」
エルピオンは優しく笑う。
国王はヘルズの負けに唖然とする。
「ヘルズが…負けた?騎士王が?」
ヘルズの負けを信じられない国王はカタカタと震える。そして、一部の国民からヤジが飛ぶ。
「どうせなにかしたんだ!あの女の負けだよ!」
「じゃあ、証明して見せてよ。実を言うと、私魔法使えないんだよ。そんな私がどうやって魔法を使うのさ」
「その魔道士がやったんだろ?!」
「悪いけど、私は魔法を使う時はこの錫杖の真ん中にある玉が光ります。杖無しで魔法は私は使えません」
そこまで言うと、ヤジを飛ばしていたやつも黙る。
「だが、お前は死刑囚に変わりは無い!」
「陛下!無理ですよ。彼女は火山龍を倒したのは偽りもない事実です!」
ヘルズは流れる血を手で押えながら立ち上がる。それに手を貸すのが、サンデス。ハルルカをバカにしていた男をぶちのめしてきたのだろうか?
「そんなもの、嘘だ!この俺が倒したのだぞ!」
「嘘を言っているのは、そちらの方ですよ。マルッシュ様」
ヘルズは睨みつけるようにマルッシュを見る。
「あ、あの火山龍は私が倒したのだ!こ、こんな剣壊してやる!」
マルッシュの手には金槌を持っており、エルピオンの剣を壊そうとする。その動作に、エルピオンは焦りを見せる。
「やめろ!壊すな!」
エルピオンの目には涙が浮かぶ。あの剣は、師匠が自分のためにくれた大切な物。宝物に等しい物。あれを壊されたら立ち直れる自信が無い。
「炎の銃」
マルッシュに向かって火の玉が発射される。彼は慌てて避け、エルピオンの剣を落とす。それを真朱色の美しい髪を靡かせた女性が拾う。
「女の大切な物。奪おうとするんじゃないよ」
彼女の目は酷く鋭く、まるでドラゴンのよう。彼女の後ろから小さな男の子が出てくる。エルピオンを見つけると、目を輝かせて走ってくる。
「エルお姉ちゃん!」
エルピオンの足に抱きつくと、そんなことを言う。
「エルの弟?」
「違う」
エルピオンには弟はいない。母親もあの時に死んでいる。なので、彼女たちは全くの赤の他人。
「はい、どうぞ」
彼女はエルピオンに剣を返す。
「あ、ありがとう…それより貴女誰?私と会ったことあるの?」
「その様子は私たちのことを分からないって事かしら?」
エルピオンは頷く。
「私たちはあの時助けて頂いた火山龍の親子です。貴女に恩返しがしたく、人の姿に変身してやって来ました」
「あの時の火山龍!良かった、あのまま帰れたんだ」
「はい、本当にありがとうございます」
彼女は丁寧にお辞儀をする。
「なら今回のことで恩返しはすんでるよ。私の剣を守ってくれたんだから」
「そんなんでは、私の気がすみません。しっかりと恩返しさせてもらいます」
彼女は振り返り、マルッシュを睨む。マルッシュはガタガタ震える。
「おい、お前ら!今の見たか?あいつは今の小さな炎に対して、あんなに震えている。そんな奴が火山龍なんか倒せるわけが無い。ゴブリンですら倒せない!間抜けな男だ!」
「そ、そんな訳がなかろう!この俺が倒したのだぞ!火山龍を!」
「嘘をほざくな!私は見てたぞ!お前は陰に隠れてガタガタ震えていたのを!そして、エルから横取りをしようとしたこともね」
「マルッシュ!どういうことだ?説明しろ!」
マルッシュはなにも答えずに、ガタガタ震えるだけ。
これで、エルピオンが火山龍を倒したことは一目瞭然。エルピオンの勝ちなのだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます
エルピオンの剣を守ってくれた火山龍、かっこいいですね。実を言うと、人の姿で出すかドラゴンの姿で出すかで迷っていました。考えた結果が、人の姿でした。
次回も読んでください。
 




