試合始め
よろしくお願いします
民の中には「どういうこと?」「火山龍を倒したのは嘘なの?」などと、言葉が飛び交う。
「そうか、あの女か。騎士王、頼む我が息子の仇を取っておくれ。殺しても構わない」
貴族の男はヘルズに言う。
「だ、そうだ。ヘルズ、殺ってしまえ」
「御意」
ヘルズは敬礼をして答える。
「皆もの!今から対決だが、先に公開処刑を始める。異論はないか?」
国王は民に訊く。
「異論なら私あるよ」
手を挙げたのはエルピオン。
「えっっっっと〜?ヘルズだっけ?あんたは信じるのかい?このバカみたいなお貴族様に」
「なんだと?」
「私、貴族が嫌いなんだよ。あのリオン国を思い出すからさ」
エルピオンは奥歯をかみ締め、手に力が入る。
「私は、リオン国の国王を許さない。やつは私たち市民を平気に捨てていく奴らだ。やつらは創った壁が壊れる前に早めに国を捨てたんだ!」
エルピオンの発言にヘルズは驚く。
「それを、この俺に信じて欲しいのか?俺からは作り話に過ぎない」
「ならこの勝負に、私が勝ったら信じてくれるかい?」
「良いだろう。この俺に、勝てたらだけどな?」
ヘルズは腰に着けた剣を取り出す。エルピオンも同じく剣を取り出そうと腰に手をやるが、剣に触れない。「あれ?」と思い腰を見るが、ベルトごと消えている。
「はぁ?!なんで無いのさ!」
エルピオンが顔を上げると、マルッシュの脇にくノ一のような女が立っている。その女の手にはエルピオンの剣を持っている。
「これから死ぬ女に、剣なんでいらないだろう?」
「お前、後で覚えてろよ!!」
エルピオンの怒りは頂点に達し、周囲は熱気で熱くなる。
「なるほど。これでは素手で戦うことになりますね」
「最終的に、これ使うしかないじゃん!」
エルピオンは上の服を少しだけ捲り、あの短剣を取り出す。
「隠し持っていたのか。まぁいい、俺は君を倒すのみだ」
「私も、あんたを倒すだけだよ」
エルピオンの短剣が鮮やかに輝く。
「ヘルズ殿!殺ってしまってください!」
『それでは、処刑兼ねての試合を始めます。試合、始め!』
彼女の宣言の言葉に、両者が飛び出す。両者の刃が重なり、辺りは風が発生する。刃からはカチャカチャと金属の擦れる音。両者力が互角かと思われたが、エルピオンが押される。だが、それはエルピオンの作戦。一気に彼女が押し返す。ヘルズは体勢を崩し、後ろに下がる。
「ヘルズ様!」
国民は、悲鳴を上げる。
「ーこの女、意外とやる。今まで相手にしてきた奴らより、遥かに強いー」
ヘルズが前を見ると、エルピオンの姿は無い。ヘルズが探していると、国民が「上だ!」と声を上げる。
ヘルズは見上げると、エルピオンがかかと落としをしてくる。ヘルズは恐怖が走り、横に転がる。地面に当たると、そこの部分が、破壊。砂煙も発生する。
「避けられちゃったな」
エルピオンは頭をかいてやっちゃったと言う顔をする。
「でも、これが私の本気じゃないよ。人を殺るのは初めてだから、上手く出来ないけど。殺しちゃったらごめんね」
エルピオンの目が、狂気じみた目に変わる。その瞳に、体に恐怖が走る。今までに感じたことの無い死の恐怖。思わず、剣が震える。このままでは、戦いにならない。
ヘルズは自らの足に切込みを入れる。その動作に、エルピオンは目を丸くする。
「これで、いい…君に恐怖で震えていた自分を殺した。もう逃げたりしない」
ヘルズの刃に、水の渦が生まれる。相手も本気で来ることに、エルピオンは短剣に炎を宿す。
「ヘルズは水属性なの?!これじゃエルに勝ち目が無い!」
「いや、この闘いは、エルちゃんが勝つよ。まだ目が死んでない」
両者はもう一度刃を混じり合わせる。それを初めとして、両者の叩き合いが始まる。ヘルズは剣で、エルピオンは短剣。どちらかと言うと、エルピオンの方が不利な状態。それなのに、刃すらエルピオンに届かない。
勝利の女神はどちらに微笑むのか。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
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