迎え
その話を聞いたエルピオンとエデルは何も言えない。
「あの、ラルカさん。どうして、私がエデルの封印を解くことができたのでしょうか?闇の力の影響なのでしょうか?」
「どういう意味なのでしょうか?」
エルピオンはエデルが出現した経路のことを話す。
「そんなことがあったんですのね…しかしそれはあなたの流れる血筋が影響しているはずです」
「血筋?」
「あなたに流れる血筋…それはアデルの一族の血筋。私がまだ女王としていた頃、そんな一族が居ました」
「アデルの一族って、おばあちゃんを守るためにみんな死んだんじゃないの?」
「私の確認不足よ。今思い出すと一人だけ、アデルの一族が居なかった。それがネイカという少女」
「ネイカ…」
エルピオンはその名前が頭に引っかかる。どこかで聞いた名前。だが、誰に聞いたのか思い出せない。
「名前…引っかかるようね」
「はい、どこかで聞いた覚えがあります。だけど誰だったのか思い出せないのです」
「彼女の写真…どこかに無かったかしら?」
するとエデルはエルピオンに一枚の写真を見せる。
「こんな感じの子だ。見覚え無いか?」
エルピオンはじっとその写真を見つめる。今じゃ写真を見ることも無くなったが、紙に描かれた絵より鮮明に色づいている。
「この人は…」
エルピオンは曾お祖父さんを思い出す。曾お祖父さんは亡くなる前日に家系図を見せてくれた。
『エル、この人が俺たちの曾々叔母さんだぞ』
『曾々おばあちゃん?』
『そうさ、名前をネイカ…ネイカ・アデルさ。エル、お前はその一族の末裔だよ。これだけは忘れないでね』
『うん!』
初めはなんとも思っていなかった。今になって思い出すなんて必要になるとは思ってもいなかった。
「なにか思い出しましたか?」
「私…その人知っています。曾お祖父さんが家系図を見せてくれて…私はアデルの一族の末裔だって…」
ラルカはその話を聞いて優しく笑顔を作る。
「エルさん、やはりあなたはなんだかネイカさんに似ていますね」
「そうですか?」
「ネイカさんも、あなたと同じに…アデルの一族の人だと思えていませんでした…」
「そうなんだ…」
するとなんの前触れもなく建物が大きく揺れる。
「なに?!」
エルピオンとエデルは体勢を低くする。ラルカはエニシャを抱え、揺れに耐える。
揺れが収まり、エニシャ以外落ち着きを取り戻す。
「どうやら収まったようね」
「一体今の揺れは…なんだ?」
「奥様…」
扉の前にラルカの使用人が立っている。
「無事だったのね。大丈夫?怪我してない?」
「はい、奥様の方こそ大丈夫でしたか?」
「えぇ、大丈夫よ」
「良かったです。それとご報告がございます」
「どうしたの?」
使用人は涙を浮かべながら笑う。
「奥様、もう外に出ることができるようになりました」
「どういう意味?」
「ここに結界を張っていた魔法石が破壊されました。そのため、あの場所に迎えが待っています」
ラルカにそのことを伝えられると彼女は微笑む。
「そう、報告ありがとう…あなたはどうするの?」
「自分はここの住まう死者です。この屋敷と一緒に成仏します」
「わかったわ。またどこかで会えたら、お話しましょう」
「はい、奥様…」
使用人は一礼をすると透明になって消える。あの使用人が一体何者なのだろうとエルピオンはラルカに訊く。
「ラルカさん、あの使用人は?!」
「おばあちゃん?!」
驚いているのはエルピオンだけではないよう。
「エニシャ、ごめんね何も言わなくて。彼は死んでもなお、この屋敷を護り続けていた幽霊よ」
ゆっくりと話すラルカにエルピオンは真剣に聞く。ラルカの話によればここにはラルカの前に両目の見えない伯爵が暮らしていたと言う。人目を避けるためにここに移り住んだが、ある時を際に帰ってこなくなったそう。彼はその伯爵が馬車に引かれて死んだことを知らずに待ち続けていた。しかしラルカが来たことによって彼女を護ることを選んだ。彼女が去るまでこの屋敷を消滅させることを断念していたと言う。
今回でラルカがさることによってこの屋敷は崩壊するらしい。
「エルさん、エニシャ、そしてエデル…行きましょう」
ラルカは先導して屋敷を出る。別れの挨拶をすることも無く。
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