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13.1 「あいつ、つまり私は未来で、どう死ぬ」

 ジャックの容態も気になるが、翌朝、オレとノートンは深海探査船での救助作業に同行した。

 戦闘の当事者だから状況を知っているだろうという名目だが、何の目印もない外洋でのことだ。当てにしてもらっても困る。

 正直なところ興味本位がわずかに勝った。わずかに、だぞ。

 デッキに出ると霧の船団、とは言うものの船が少ないのに気付いた。今回は飽くまで極秘の出陣。船は二隻と、試験中の深海探査船のみだ。

 そもそも外遊でもなく皇女殿下が外洋に出ることは、普通は絶対にあり得ないことらしい。

 どうやって深海探査船に乗り降りするのかと言えば、船に横づけして縄梯子で乗り降りする。

 深海探査船――キュリオスとか呼んだか――はだいぶ細長いながらデッキを持っていて、荷物の上げ下げもできる。

 そのデッキの中心に、両手を広げたくらいの大きさの丸いハッチがあり、そこから出入りする。狭くて大変だが密閉性が優先なのだろう。

 十名が搭乗可能だというのだから、試作品にしても結構大がかりだ。

 コックピット、居住区画、機械室、加圧室、小さな貨物室に分かれ、それぞれが分厚い仕切りで区切られている。

 ハッチから梯子を下りていくとまず居住区画に入るが、ここがまず狭小なので面食らった。

 両脇にベッドがあり間が通路だ。二人が茶を飲みながら立ち話してたら、間を「ちょっと通りますよ」としないといけない。

 加圧室は更に小さい。

 中には高圧酸素が供給されている。中には四人いたが、うち三名は夜のうちに母船へ移された。

 残る一人がミラだ。

 深度ゼロから七百メートルまで対応可能だが、五百メートルよりも先へは潜った実績がない。これは試験海域が浅めの大陸棚に限られていたためらしい。

 出航前、ノートンが気になることを言っていた。


「この深海探査船には、私も知らない幾つかの秘密がある。皇女陛下のお考えがあって伏せられていることだから探ろうとは思わないが、万一知ることがあっても我々の口は貝よりも固い」


 暗に「積極的には調べないが、何か判ったら教えろ」ということらしい。

 まったく官僚という奴は難しい。

 この船と母船の連絡はジャックのイアーポッドに似た仕組みで可能だった。ずっと長い距離の通話が可能な代わりに、指向性とやらがあるらしく、相手の位置が判らないと通話できないらしい。

 機関士を除く乗組員は操縦士一名、アームを操る研究員二名、オレとノートン、そしてミラだ。

 そんな風にしてオレ達は深海の旅へと再出発した。



***



 また暫く荒れたあと、意識世界は静かになった。

 ミラはミランダを平らなところに寝かせ、一息ついた。


「――妙に大人しくなったな。助かるぜ」

「眠っているのだろう。私はあまり眠らなかったが、オーシュのような肉体派はただ移動するだけで無為に体力を使う」


 そうか勇者も寝るんだな、とミラは思う。


「――私のことを聞かせてくれないか。あいつ、つまり私は未来で、どう死ぬ」

「てめえはマーリーンを仲間に引き入れようよして滅茶苦茶やらかしたんだよ。それでマーリーンを連れて行こうとして殺された」


 ただのソウィユノは薄ぼんやりと口を開けている。


「それなのだが、マーリーンとは……本物なのか? 二百年前の人間だぞ」

「こっちのセリフだ」


 ソウィユノは納得のいかぬ様子で、何か考えている様子だった。

 少なくとも、ソウィユノが分離される前までは、マーリーンを仲間に引き入れるなど考えてはいなかったようだ。


「解せん。それでは八勇者になってしまうではないか」


 身も蓋もないことを言う。

 分離したときに、虚栄心や社会性の大部分をあちらに渡してしまったようだ。


「いや、他の勇者のことはあまり覚えてはいないが――あのお方はいつも他の勇者を探していたような節がある。そもそも七勇者とて、最初から七人だったわけではないような気がする」

「そうなのか?」

「うろ覚えだが。一人増え、二人増え、七人になってその後はあのお方の御眼鏡に適う者が現れなかったのだ」

「ってことはなにか。辞めた奴や死んだ奴もいたのか」

「それは全く――覚えていないな」


 よほど関心がなかったのだろう。


「それで、あいつ――私の最期はどうだった。強かっただろうか」

「最期までキモかったぜ。妙な黒い腕を出した。確かにあれは強かったが、よくわからんが、光る檻に閉じ込められて、一瞬だったな。まぁ、苦しむ暇もなかったんじゃねえか。光の神がどうとかで。てめえは有り得ねえとか怒ってたが、マーリーンは作ったんだとか」

「光の神――を作った――?」


 その説明で伝わったかどうかは怪しい。

 だが、ソウィユノは再び考え込み始めた。


「で、何なんだあの黒い力は。教えてくれたっていいだろ」

「あのお方から授かったものだ。それくらいは察しがつくだろうが」

「ああ、ゴアもそれらしいのを使おうとしていたからな。オーシュにもあるのか」

「あのお方に列する、七勇者ならば全員が授かる。いや、お借りする。我らはあれを借りているだけで、詳しいことは知らぬのだ。ただ、そう――」


 なんだ、とミラは促す。


「制限があるのだ。あのお方は、あの力になんらか代償を払っておられた。そう、そうだ、それで私はオーシュに対して怒りを感じていた。オーシュは、あの力を利己的に使っていたからだ」


 ――まぁ今の私にそのような(はげ)しい怒りはないがね、とソウィユノは微笑む。


「ところで、君も眠ったほうがいいのではないかね? またいつオーシュが起きて暴れ出すとも限らないよ。休まらないだろう」

「ああ、そうだな」


 と言いつつも、ミラはソウィユノを睨みつけた。


「その子が寝ている前でてめえを置いて寝られるかよ。何かするつもりだったろ?」

「お見通しか。何、他愛もない悪戯だよ。私には肉体がないのだ」

「クソ野郎。てめえはそこの十二番の便所でデッキブラシと一緒に寝ろ」


 顎で十二番の扉を示した。

 そしてふと気づく。

 十三。

 XとⅢの刻まれた扉。

 オーシュが眠るまではなかった扉だ。

 オーシュの記憶は、十二で止まっていたはずだ。別人となって自我もなく便所を掃除していた彼の記憶。

 そこに、扉が増えていた。


エピソード13の始まりです。

次回更新は明日15:00を予定しています。

面白かったら何でも構いませんので評価などお待ちしております。

続きが気になる方はブクマなどもどうぞよろしく。

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