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勇者が村を灼きに来る ~七の勇者と第二の法~  作者: 浅海亜沙
エピローグ: 空飛ぶ島と少女の掌2
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空飛ぶ島と少女の掌2

 起きていたのかい。

 もう眠ってしまったと思っていたよ。

 ――ノヴェルたちがその後どうなったかって?

 さぁ。それは判らない。

 この話は、ここで終わりなのだからね。

 でも、何となく理解したろう? こうしてこの世から魔法の力は消えてしまった。

 理解――とは少し違うのかもね。

 女神様もいるのかいないのか、もう誰にも判らなくって、それでも空には島が浮かんでいる。

 ここでこうして眺めている間だけ、あの島がこの世に不思議な力あったことを思い出させるんだ。

 それがこの(いびつ)な世界の事実――なんて言っても君にはわからないか。

 そう、ひとつ付け加えておこう。

 ヴォイドの影響か、彼らは歳をとるのが、すごく遅くなってしまったみたいなんだ。

 代償なのかギフトなのか、それとも罰なのか。それは彼らに聞いてみなければ判らない。

 もしかして、その下の海岸にいる少年が、()なのかも知れないよ。




***




「ここ数年の潮流の変化。時刻、季節を考えて――計算が正しければきっとこの辺だ」


 波打ち際の少年は、他の幼い子らに混じって何かを探しているようだった。

 歳は十代後半。青みがかった髪色で、この日差しにも関わらず(たけ)を詰めたローブを着ている。

 他の子は十歳かそれくらいだろう。皆、ポート・フィレムの子供たちである。

 波に乗って流れつくものを拾い集めていた。

 貝殻や木の実――そしてガラスの小瓶。

 どうやらその瓶を巡って、ひと悶着(もんちゃく)起きているようである。


「おい、それは――ダメだ、危ない!」


 少年は、彼らから小瓶を取り上げた。

 幼い子らは宝物を奪われ、「返して」と泣き、少年は「コレはダメだ」と子供らの頭を押さえつける。

 中には小さく折り曲げた紙が入っていた。

 その小瓶がどれほど大事なものなのか。それともよほど他人には見られたくない手紙でも入っているのだろうか。


「いいか、これはすごく危険な文書だ。すぐに焼却しなければ取り返しのつかないことになる!」


 そこへ遠くから、低く(うな)るようなエンジン音が響いてきた。


「ノヴェル!!」


 エンジン音に混じり呼び声がする。

 水平に伸びた赤い翼。

 一機の最新型単翼式飛行機だ。

 飛行機は海面スレスレにまで高度を下げ、波しぶきを立てながらこちらへ来る。

 少年は手を振ると、海岸沿いの丘を駆け上がってゆく。


「待たせたな!」


 飛行機は機首を上げる。

 子供たちは頭上を抜ける飛行機を見上げた。

 天頂の眩しい太陽は、今日も無事に彼らを照らす。

 傾いた機体は、張り出した絶壁へと寄る。

 座席には一組の男女。そして年頃の少女も座っていた。

 少年は丘から断崖へと走る。

 短く詰めたローブの(すそ)が風を(はら)み――彼は断崖を踏み切って、跳んだ。

 空中で彼を(さら)うように、飛行機がその下を飛び去る。

 彼は飛行機の座席に着地していた。


「用事は済んだか?」

「ああ! 行こうぜ!」


 少年はそう叫ぶと、眼下の子供たちに手を振る。

 飛行機は青い海の上を、空の高みへ飛び立った。




***




 まったく年甲斐(としがい)がないね。

 落ち着きもない。

 彼らは次にどこへ行くのだろうか。僕には想像もつかない。

 でもきっと戻ってきて、新しい旅の話を聞かせてくれるに違いないよ。

 もし続きが聞きたければ、君もここに戻ってくればいい。

 でもその前に――ひとつ約束があったのを思い出してほしい。

 この話をしてあげる代わりに、君は後ろに隠したものを見せてくれる約束だ。

 さぁ、手を出して。

 見せてごらん。

 ――。

 ――これは(・・・)

 ――これをどこで。

 ――これを――君が?




***




「きれい?」


 少女にそう訊かれて、男は(うなず)く。


「とても綺麗だ。でもこれは――」


 美しくも悲しいものだ。

 もう存在しないはずのものだ。

 少女が掌に隠していたものは――光輝く魔力の光球だった。

 もう二度と現れないはずのその力の象徴は、さらに双子である。

 誰よりも人に近く寄り添った女神たち。

 二つの小光球は、互いにもつれ合いながら、少女の掌の上で回転を続けていた。

 永遠に、互いが互いを追い求めるように。


「――誰にも見せてはいけないよ」


 男は唇に指を立てて微笑むと、少女の掌を優しく、丁寧に閉じた。




fin.


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