第二章その17(エストザーク王国王都フォヴァロス・枢密院議場)
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「シン・ワタセ様、ミチ・クラナガ様。お時間となりましたのでお迎えに上がりました」
ノックもなしにドアが開き、エプロンドレスに身を纏った猫耳メイドのラムダが控え室の中に足を踏み入れ、おれたちに向かって改めて一礼する。
「うん。それじゃ、行こうか」
案内役のラムダを先頭に、右手にノートPC、左手にレーザーポインターを握り、Bluetoothヘッドセットを首に提げたおれと記録用のビデオカメラを持ったミチがゆっくりと議場へと向かう。やがて議場入口の扉の前までたどり着くと、ラムダはほんの少しだけ扉を開け、その隙間から誰かに向かって手で合図を送っている。
「どうやら『彼等』が到着したようですな。議長殿。ここで水掛け論をしても埒があきませぬ故、某は新世界より来られし参考人をこの議場に招致したく、貴殿にその許しを賜りたく存じます」
「認めましょう。ミス・ワイズマン」
扉の隙間から、議長と思しき初老の男性に参考人招致を求めるメルと、それを許可する初老の男性のやり取りそして人々のざわついた声が聞こえてくる。
「メルちゃんって本当にお偉方だったのね」
「そういうのは先週の段階で気づけよ。行くぞ」
「うん」
おれたちはラムダに見送られながらおもむろに議場へと足を踏み入れると、メルを含めた四十数名の顧問官が三方向から取り囲む空間の中心に移動する。そして右手に持っていたノートPCを開場前に設置しておいた机に置くと顧問官たちを一瞥し、少し大きめに第一声を発する。
「ここにおられます枢密院顧問官の皆様。まずは我々の自己紹介をさせていただきたく存じます。私の名はマコト・〝シン〟・ワタセ。懇意にさせていただいております賢者メルキオーレ・ワイズマン顧問官からは『シン』と呼ばれております。そしてこちらは――」
「ミ……ミチ。ミチ・クラナガです。シン君……ワタセさんとは同じアカデミアに通ってましてメルちゃん……ええっと、ワイズマン顧問官とはワタセさんのマンションで……」
「どうして我が王国の言葉を流暢に話せるのでしょう?」
「恐れながらクラナガ殿。どう見ても平民にしか見えない貴殿がアカデミアに属しているのは事実でありますでしょうか?」
「随分と大胆に簡略化されたお召し物ですが、貴殿の世界では一般的なものでありましょうか?」
「表に停めてあった馬のない白い馬車のようなものは一体どんなものなのでしょうか?」
「ひいいいいっ! あわっ、あのっ、そのっ……」
話を遮られ、矢継ぎ早に何人かの顧問官たちから質問を浴びせられたミチが既にいっぱいいっぱいの表情のまま無駄に両手を上下させている。
「ちょっと待ってください。ご質問は最後にまとめて受け付けますので、まずは我々の説明をお聞き願いたく存じます。議長。それでよろしいでしょうか」
おれは正面に鎮座する初老の男性に声を掛けると、「無論です。続けてください。諸君は静粛に」という言葉を引き出すと、隣にいるミチの背中を軽く叩く。どうやら議長で正解だったようだ。
「これで議長以外は誰もおれたちを遮ることはできなくなった。落ち着いて続けよう」
おれはミチにそっと耳打ちすると、再び顔を上げて話を続ける。
「我々は皆様が『新世界』と呼称する、日本国の首都・東京から参りました。しかしながらあれこれ言葉を並べるよりも、今からご覧に入れるあるものをお目にかけたほうが話は早いかと存じます。ミチ、そしてワイズマン顧問官。準備をお願いします」
おれの隣にいるミチと、顧問官席の末席にいるメルは同時に大きく首肯すると、両側にある窓に備え付けられたベルベットのカーテンを閉めて議場を暗くする。一方おれはノートPCを再度机の上に用意しておいたプロジェクターとワイヤレス接続し、アンプとのペアリングを済ませると、PCの画面を大学から持ち出したスクリーンに投影させ、首に提げていたBluetoothヘッドセットを頭に装着し、マイクロフォンを口元に近づけ「アーアー、テスッテスッ」と声を出すと、その声が設置されたスピーカーを通じて議場に響きわたる。
「うわっ、声が大きい!」
「だがあの男はがなってはいないぞ」
「どうして目の前の男の声が後ろから聞こえてくるんだ」
「まるで同一人物の分身に囲まれているみたいだ」
顧問官たちのざわつきを横に、おれはパワーポイントのファイルを開き、山北町の地図をスクリーンに投影させる。
「うわっ、壁から絵が浮かび上がってきているぞ」
「一体どんな魔法を使ったんだ!」
スクリーン上に表示された地図そして隧道の入口付近を指す赤いレーザービームに再び顧問官たちはざわつき始め、おれの動きが遮られてしまう。
「諸君! いい加減にしないか」
顧問官たちがざわつく中、末席から立ち上がったメルが声をあげる。
「人は自身の想像を超えた未知のものに邂逅し、その仕組みが理解できないとき、得てして神や魔法、魔術、亜人の所為にして無理矢理にでも事を行かそうとする悪癖がある。だが彼等は新世界より来たる者たちであるがゆえに我々の想像を超える事が起きるたびに驚いていては話が前に進まぬ。しからば疑義を一度己の中に飲み込み、先ほどこの者が申したように最後に返す返す質してゆけば良かろう」
新人顧問官ではあるものの、直接女王への進言も行なう賢者でもあるというメルの言葉に顧問官たちが水を打ったように静かになると、彼女はおれに向かって片目をつぶって合図をしてみせる。
おれは黙ったままメルに向かって軽く首肯すると、再び顧問官たちと向かい合い話を続ける。
「では、日本国は一体どこにあるのか。端的に言えば王都フォヴァロスの北西にあるヘサックの丘近くにある聖なる森の中にある、東から西方向へと伸びる隧道の向こうと言うことになりますが、真っ直ぐな隧道であるにもかかわらず、どういうわけか隧道の向こうに出るといつの間にか南向きになって隧道の外――すなわち日本国の神奈川県山北町と呼ばれる場所に出てしまいます。おそらく自然現象による何らかのねじれか、あるいは何者かによる何かを意図したことによるものと推察できますが、詳細がよく分からないためひとまず原因の断定は先送りし、二つの世界が隧道を通じて繋がっているという厳然たる事実のみを取り上げて話を進めてみたいと思います」
おれがレーザーポインターをクリックしてページをめくると、二ページ目の関東地方の地図を表示させ、レーザービームを発射させて隧道の坑口付近を指す。
「ここが日本側の坑口となり、そこから山道を南下して国道二四六号という街道に入り、東へ移動すると、日本国の都である東京にたどり着きます。ここまではこの国の人たちで構成された調査隊により調べがついているということは話に聞いています。しかし――」
おれはページをめくり、日本と周辺各国を網羅した極東の地図を表示させる。
「日本国の領土は北海道、本州、九州、四国という四つの大きな島と、周辺に散らばる島々で構成されており、海を挟んだ西側にはユーラシアと呼ばれる大陸が日本国以外の多くの国々の領土として存在し、更に全世界に約百九十の国あるいはそれに準ずる地域が存在しています。では、我々のいる世界には何があるかを、短い時間ではありますが簡単な映像でご紹介したいと思います」
おれはウインドウを切り替えると、あらかじめ用意しておいた動画ファイルを再生する。
空撮された高層ビル群、スクランブル交差点を行き交う数多の人々、一瞬にして駅を通過する高速列車、次々と離発着する飛行機、宇宙へと飛び立つロケット――そして、川中島を縦横無尽に動き回る両軍合わせて数万ものの武田信玄と上杉謙信の軍勢、ドーバー海峡からノルマンディーに上陸する連合国軍、陸海空からミサイルを放ち、攻撃目標を破壊する多国籍軍、パワードスーツに身を纏い、テロリストを確実に仕留める軍事企業経営者、世界中の大都市を破壊する巨大宇宙船、反乱同盟軍の手によって粉々にされる銀河帝国の惑星型宇宙要塞、深緑の巨大怪獣により破壊される東京の映像が次々と流され、議場にはスピーカーから発せられる爆発音と巨大怪獣の咆吼が響きわたる。
二十分程度にまとめられた映像が終わり、ミチとメルがカーテンを開けると、闇に包まれていた議場にまばゆい光が差し込んでくる。そこでおれが目にしたのは、生まれて初めて『映像』というものを目にしたであろう顧問官たちのうち約半数が呆然とし、身体をブルブル震わせ、泡を吹いてひっくり返り、反応に困り微動だにしないといった、顧問官としての権威や威厳を完全に失した姿だった。
おれは顧問官たちを一瞥すると、彼等に対してこう尋ねる。
「これが我々のいる世界を凝縮したものです。これらを踏まえ、何か質問はありますか? 特になければこちらにおられます顧問官ミス・メルキオーレ・ワイズマンに日本国に対する交渉のすべてを委任し、代理人としてわたくし、マコト・〝シン〟・ワタセとミチ・クラナガを指名する件につき採決を取りたいと考えておりますが――おっと、ここから先は議長殿のお仕事でしたね。議長殿。ここから先はよろしくお願いいたします」
「ええっと、まぁ……そうですな……それでは採決を……」
「ちょっと待った!」
おれに言われるままに採決を取らんとした議長に顧問官の一人が声をあげる。
「何か疑義がございますか。メイジア少佐」
議長は右手を高く挙げた軍人に発言の機会を与える。
「恐れながら申し上げます。今しがた日本国のワタセ殿よりご説明のあったとおり、すべての面において我々を凌駕しているところはわたくしも認めるところであります。しかしながらそれと同時にある疑念を抱いていることもまた、厳然たる事実であります」
「ほう。それは何ですかな?」
議長がその心を尋ねる。
「はい。わたくしを含めた一部の顧問官の中にはワタセ殿とミチ・クラナガ殿の出自について少々疑念を持つ者がおりましてな。このお二方が日本国の為政者たちに通じており、もしかしたら賢者様であるミス・ワイズマンともあろうお方がこの男の色に惑わされ、正しき計らいができなくなっているのではなかろうかと――」
「ちょっと待ってよ! 何を根拠にシン君とメルちゃんがエロいことしたって言ってるのよこのエロジジイ!」
顔を真っ赤にしたミチがメイジア少佐を睨みつけながら怒鳴りつける。
「貴様! 少佐殿に何たる無礼を!」
メイジア少佐を庇うように前に出たイリハン大尉が儀礼用のサーベルに手をかけると、他の顧問官たちが一斉にテーブルを乗り越え少佐と大尉そしてミチを取り囲む。
「おいミチ、ここで感情的になるな。ここでキレたら奴の思う壺だぞ」
おれは顧問官たちをかき分けてミチのもとにたどり着くと、彼女の肩を握って正気に戻そうとする。一方メルもまたイリハン大尉に近付くと、何を思ったかグーで握った右手で大尉殿の局部を殴りつける。
「陛下の名の下に開かれた神聖なる枢密院において刃傷沙汰を起こそうとするとは何事だ! 恥を知れこのたわけ者!」
急所を攻められ、芋虫のように軍人らしからぬ動きを見せながらのたうち回っている大尉殿に向かってメルが怒鳴りつける。
「顧問官諸君は席へ。ワタセ殿とクラナガ殿は机のところへ戻られよ」
議長の呼びかけに顧問官たちはそれぞれの席へと戻っていく。大尉殿は戻り際に一瞬だけ強く睨み付けてくる。
「恐れながら申し上げます。ここにおりますわたくし、マコト・〝シン〟・ワタゼとミチ・クラナガは日本国の出身でありますが、日本国の役人でもなければ、過去に役人のみならず、政や軍隊等いかなる形で日本国に召し抱えられたことはございませんし、ましては内通などしておりません。これは天命に誓い事実でございます」
「だーかーらーぁ、オレが言いたいのはどの世界に自分が間諜だと言うバカがいるんだって言ってるんだよ。そこまで言うなら証拠持って来いよ証拠を!」
メイジア少佐は今なお前屈みになりながら局部を押さえるという間抜けな姿を晒しながらも顧問官席からおれたちを恫喝すると同時に数人の顧問官たちが「そうだそうだ!」などと野次りながら彼を援護するが、再び議長が顧問官たちに静粛を呼びかける。
「確かに、少佐殿が斯様なことを申し上げるお気持ちも分からなくもありません」
一瞬の静寂を突いたおれは議場を歩き回りながら話を始める。
「もしかしたら私が王国の味方を名乗りながらお為ごかしを働いて私が属する日本国にこの国を売り飛ばすのではなかろうかという疑念を皆様が抱くことはもっともであります。ご存じのとおり国と国との関係はギヴ・アンド・テイクで成り立っており、求めるだけ、あるいは与えるだけという関係は決して健全なものとは言えないでしょう。この国が先ほどご覧に入れたような、魔法や魔術を凌駕し、一夜にて世界のパワーバランスがひっくり返るような様々な技術やインフラストラクチャーを手に入れるため、この国は一体何を差し出すことができるでしょうか。私は先日、この国の新たな希望である二つの場所に足を踏み入れました。ひとつはこちら。そしてもうひとつはこちらになります」
おれが卓上に塩の結晶と『悪魔の石』の二つを置くと、それが何なのかを知る顧問官たちは一斉にざわつきを始める。
「そうです。ひとつは海から少し離れたところにある、塩湖でできた天空の鏡から持ってきた塩の結晶そしてもうひとつは、『悪魔の山』から持ちだした銅の鉱石とされている石です。そしてご存じの通りこの悪魔は今でもこの国の財政を苦しめている忌むべき存在でもあります。しかしながら私は断言します。これらは決して悪魔ではなく、この国の宝と考えております」
おれの更なる言葉にざわつきが大きくなっていく。
「いい加減なことを言うな!」「根拠を出せ!」「ふざけるな」「何も知らないくせに」
「では皆様の疑義にお答えいたしましょう。我々がいる世界において、これらが価値のある鉱物であるということを」
議場の中は相変わらずざわついてはいるが、ざわつきの色が怒りから戸惑いへと変化していることを感じ取ることができる。
「まずはこの天空の鏡ですが、このような塩分濃度の高い塩湖の地下にはリチウムと呼ばれる電池の原材料――電池とは我々の世界で多く使われる電気と呼ばれるエナジーを貯蔵する道具であり今後、皆様が馬なし馬車と呼んでおられる自動車の動力源として使われるものの原材料として、既に我々の世界では国家間による資源の奪い合いが起きつつある状況にあります。次にこの一見銅鉱石に見える『悪魔の石』ですが、このサンプルを私が属するアカデミアで調べたところ、これはニッケルと呼ばれる金属の鉱石であることが分かりました。ニッケルもまた、先ほどのリチウムほどではありませんが様々な用途で使われており、その最たる例はこちらになります」
おれは懐から百円硬貨を取り出しそれを高々と上げと、顧問官たちの戸惑いのざわつきが驚きへと変わる。
「もし我々が日本国の為政者と結託し、王国を売ろうと企んでいるとしたら、斯様な事実をバカ正直にこの場で伝えるようなことはせず、我々の手でこっそり採掘を開始し、王国の富を奪い続けていたことでしょう。ではなぜ我々はそんな真似をしなかったのか? それは我々が日本国の為政者と通じていないということだけではありません。こちらにおられますメルキオーレ・ワイズマン顧問官の手引きにより市井を歩き、この国の現実を突きつけられたからであります。街には活気がなく、食べ物は不足していないにもかかわらず値段の高さ故に飢えに苦しむものも多く、年端もいかない子どもたちが糧を得るために兵役に就き、読み書き計算もままならない。その原因を今はとやかく言うつもりも誰かを責め立てるつもりもありませんが、少なくともこれらの鉱物が日本国そしてその向こうに広がる一九〇近くの国や地域に対する格好の切り札となり、この国に富をもたらしこの国に巣くう問題の多くを解決に導いてくれるでしょう。メイジア少佐殿。ここまで申し上げてもなお、貴殿は我々のことを間諜であるとお考えでしょうか」
おれは口元を上げながら少佐に問いかける。当の少佐は両手で握り拳を作り、自身のいらだちを隠そうとはしない。するとおもむろに立ち上がったメルがそんな少佐の態度に構うことなくおれの話を引き継ぐ。
「それでもなお、貴殿は日本国から来たこの者たちが間諜であるとおっしゃるのか。さすれば証拠を持ってくるべきは貴殿のほうだ。少佐殿」
「なっ……」
メルが言葉を失った少佐を指差し、そして話を続ける。
「存在することを証明することは容易い。しかし、存在しないことを証明するには、森羅万象を調べ尽くさねばならぬ故、事実上不可能な悪魔の証明である。ならば疑義を申し出た少佐殿が、この二人が間諜であるという証拠を出さなければならぬと言うものだ。某は貴殿との約束どおり新世界を訪れ、この二人と出逢い、数日ほどワタセ殿の屋敷で世話になり、貴殿が知り得ることも持ち帰ることができなかった事柄を満月よりも早く調べ上げた」
メルの言葉に少佐と大尉はまるで血の繋がった兄弟の如く同時に両手で拳を作り、歯を食いしばって悔しがる素振りを見せるが、メルは二人を無視するように話を続ける。
「そしてこの男は私の一糸纏わぬ姿を知っている。なぜなら食べ物を共にし、同じベッドで眠り、そして風呂に入ったからだ。某がそれほどまでした男がどうして某を裏切ることができようか! それを踏まえた上でもしその言葉に偽りがあると分かりし時は、某のこの首を喜んで御国のために差し出すことにしよう」
メルから発せられた更なる衝撃的な言葉に顧問官がどよめく。いや、顧問官だけではない。おれたちもまた、彼女の言葉に呆然とする。
「シン君……いくら何でもシン君はロリコンじゃないって信じてたのに……」
「いや、ちょっと待てミチ。おれはロリ……じゃなかった、コンプライアンス的に問題があることをした覚えはないぞ! メル、お前も何か言ってくれ!」
「何を言ってるのだシンよ。某は君が作った食をすき、君のベッドで眠り、共に風呂場に入って新世界式の風呂の使い方を教えてくれたではないか。蓮口、確かシャワー……だったか、そこから噴出する熱い湯で某の裸体をゴシゴシと――」
「分かった! もういいからこれ以上言うな!」
「そうだな。神聖なる枢密院であまり裸体の話をすべきではないな」
「ああ、そういう問題じゃねぇよ……」
数多の顧問官たちとミチにとってあまりに衝撃的な発言におれは頭を抱える。
「なるほど。我がエストザーク王国の賢者殿であるところのミス・ワイズマン顧問官は新世界を知るワタセ殿を新世界の為政者たちとの交渉相手として全面的に信頼し、生涯を遂げる契りを交わしたと」
「いかにも」
議長の問いにメルが大きく首肯しながら答える。
「それでは顧問官諸君。今のミス・ワイズマン顧問官の言葉を踏まえ、改めて決を採りたい。賢者殿であるミス・ワイズマン顧問官には引き続き新世界の調査および我がエストザーク王国の利益を代表し、為政者たちとの接触を認めるとともに、こちらにおられる新世界・日本国の都である東京より来られしマコト・〝シン〟・ワタセ殿とミチ・クラナガ殿を補佐役として我が国が召し抱えることに賛成の諸君はご起立願いたい」
議長の言葉に顧問官たちが次々と起立する中、メイジア少佐、イリハン大尉、スティラー卿の三人は苛ついた表情を隠そうとしないまま椅子に座り続けている。そして周囲を一瞥して自分たち以外すべての顧問官が起立しているのを見届けるとようやく立ち上がり、消極的であることを暗喩しつつも賛成の意を表する。
「それでは本件につき全会一致で賛成とし、我がエストザーク王国は賢者であるミス・メルキオーレ・ワイズマン殿を窓口として新世界との接触を開始するものとし、これにて散会とする」
 




