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天恵 〜自由への黙示録〜  作者: 吾田文弱
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17. 異端者再び

服装は相変わらずワイシャツとスラックスの上下だが今日はネクタイをキッチリと締めていた。面接でも受けに行くって感じでもなさそうだが、例えるならそんな感じだ。


「ははは。ここに居ればいつか帰ってくるはずだと思ってずっと待ってたんだ」


「どんだけ待ってたんだよ。俺がもしかしたら部活やってたかも知れねぇってのに」


「そうだとしたら何故お前は昨日会った時とほぼ同じ時間に家に帰って来れた? そもそもお前みたいなもやし小僧が部活などやっているものか。それすらも予想しての待機だ」


 その昨日会ったばかりのほぼ初対面の高校生に対して図々しくずけずけと悪口を言えるもんだな。そしてそれを否定できねぇのが何より悔しい。的のど真ん中を射ている。


「はあ……はあ……。おいイチ! そのおっさんは誰なんだよ⁉」


「ツヅのパパよりも若そうだけど、おじさんって見た目じゃなさそうな……」


 おっさんと話をしていると、ツヅとリュウも追い付いてきた。そんなに疲れる程の距離でもなかろうに、何でリュウはそんなに息が上がっているんだ? 緊張のドキドキを走った後のドキドキと勘違いでもしてんのか? 吊り橋効果って言い方はおかしいが、それじゃあるまいし。


「ん? 何だ連れか? ちんちくりんの可愛い嬢ちゃんに、変な髪型の兄ちゃんだな……」


「おいイチ。このおっさんとは初対面なはずなのに、何か凄い馬鹿にされたぞ? 俺のこの前衛的なヘアースタイルを解らねえなんて、目ん玉無えんじゃねえかってくらい見る目無いな」


「うう……そういう風に真正面から言われると、ツヅは流石に傷付くなあ……」


「なんか、済まんお前ら。このおっさん、少し図々しいところがあるみたいだ……」


 最も、そんなおっさんの性格はついさっき俺も初めて知ったところなんだが。

 あれか? 一度知り合いになってある程度仲良くなったら隠れた本性が出てくるっていうあれなのか? 昨日僅かに道中で話した程度でもう友達扱いなのか俺は? ツヅやリュウに至っては本当に初対面だろ? 実はこのおっさん――俺が思ってるほどお人好しでもねぇのか?


「ていうかおっさん、俺に何か用かよ? それなりに待ち続けたってくらいなんだから、それなりの理由を言いやがれよ。じゃねぇと俺は真顔で家に這入るからな」


「もちろんだとも一。伊達に七時間も待ってないからな俺は」


「七時間⁉」


 俺ら三人の声がぴったり揃った。今の時間帯は恐らく午後四時過ぎくらいだろうから、午前九時くらいから俺の家の前に居たことになる。張り込みの刑事かよ! いや、元警官にこの突っ込みは無いな。言うなれば――次の就職活動する時間あっただろ! だな。


「立ち話もなんだ……取り敢えず、家に入れてくれないか?」


「おいおっさん。何自然な流れで家に這入り込もうとしてんだよ。ここで言え」


「ここで待ち続けてから何も食べてないんだよ……」


「そんなの自業自得だろうが! 元サツなんだったら張り込みの二回や三回したことあんだろ⁉ だったらそのための食料はあんパンに牛乳ってのがお約束だろうが!」


「何だそのよくある刑事ドラマの間違ったあるあるみたいな情報は⁉ それに俺は初動捜査を担当していた捜査課の刑事だ! 張り込み経験は一度も無い!」


「け、刑事だって……⁉ イチ、お前どんな人と知り合いになってんだよ……」


「イチ兄……、ツヅとの約束、もう破っちゃったのかな……」


 後ろにいる幼馴染どもが色々と勘違いをしているが、このおっさんの図々しさにはもううんざりだ! あの時助けられて、出会えてよかったと思った俺が馬鹿だったぜ!


 ここへ来た理由を訊いてねぇが、訊く気も失せた。宣言通り真顔で家に這入ってやる。

 おっさんとの無駄な言い争いを中断し、俺はおっさんの横を素通りしようとした――、


「待てよ」


 そう一言だけ言いながら俺の手首を掴んで、おっさんが俺を引き留めた。


――「待てよ」


 たった一言だけだったが、言霊じゃねぇけど、その言葉には重みやら凄みやらという色々な感情が乗っかっているような、そんな重圧を感じた。

 俺はこのまま家に這入ってしまい、おっさんが待ち続けた苦労を無下にしてしまう罪悪感と、その理由を訊かなかった時きっと後悔するだろうという杞憂に襲われ、俺は額に冷や汗を浮かばせた顔を、ゆっくりとおっさんの方に向き直した。


「お前……いや、後ろにいる連れたちにも関係のある話なんだよ。お前たち、確か国道沿いにある公立高校の生徒だよな?」


「そ……そうだが」


「だったら話が早い。お前たち知りたくはないか? ――いや、恐らく知りたくはないだろうが……」


 曇った表情を浮かべながら言いあぐねるおっさん。教えていいものか――でも教えなければならないという葛藤が感じられる風でもあった。


 何だ? 次の就職先を探す時間を惜しんでまで七時間以上もここで待っていたというのに、いざ面と向かって伝えるとなると伝えられないことなのか? 一体何を言うつもりなんだよ、おっさん……。


「いや……やはり教えよう。お前たちには、『真実』を教えなければならん。世間とは実に残酷で、卑怯だということを……今のうちにお前たちに教えなければならん。それが人生の先輩――大人である俺の務めだ」


 その言葉は、まるで自分に言い聞かせているような――覚悟を決めさせるかのような物言いだった。


「おいイチ、さっきからこのおっさん何言ってんだよ? 『真実』って何なんだよ……?」


「イチ兄……、聞きたくないことは聞かない方がいいよ? ツヅ、もうイチ兄には――」


「五月蝿ぇ……! 二人とも黙って聞くんだ。俺は聞くぜ、どんなことも受け入れる」


「…………うむ、よく言った」


 遅かれ早かれ、このおっさんから今日その真実とやらを聞かなかったとしても、このおっさんの性格上、きっと何度も俺の家に来るだろうなと、直感だが、そんな気がしたんだ。


 どっち道この真実とやらを聞かなければならない運命なのだとしたら、もうここで早いうちに聞いといた方が、気が楽だと思ったからだ。まあ、気楽に聞くことは――できなかったがな。


「お前らはもちろん既に知っているだろう? お前らの通う公立高校の教師が昨日、交通事故を起こしその尊い命を落とした――というのがお前らが見たニュースの大まかな情報。


「ここから俺が話すことは、あらゆるメディアはもちろん、一部の刑事関係者にしか伝わっていない極秘の情報だ。上層部のお偉いさん方が近隣の住人に不安を抱かせないために情報を伏せさせたんだな。全く……。


「長話はせん。では話すとしよう、この事件の真実を。


「断言しよう。この交通事故は、ただの交通事故じゃない! 


「お前たちにも解りやすく言うなれば――これは殺人事件の可能性がある!」


貫木先生は誰かに殺された⁉︎

そしておっさんは何を知っているのか?

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