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天恵 〜自由への黙示録〜  作者: 吾田文弱
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11. 今日を語るはぐれ者

時は度々流れ、気付けばもう放課後だ。振り返りという訳じゃないが、今日一日学校で起こった事を説明することにしよう。大きく分けて三つだ。


 まず一つ目。登校した後、予告通り、原稿用紙五枚分……いや、何故か俺だけもう一枚追加で委員長への謝罪文を書かされた。無理やり女子を横暴ともいえる方法で外へ放り出したことを文面に書き起こして謝って欲しいとのことだった。

 謝って欲しいのはこっちの方だ。あの後俺は廊下から和室に掛けて付いた足跡を雑巾がけする羽目になったんだぞ。あの時親の仇と対峙したような形相をしていたんだろうな、ツヅが若干引いていたのを一瞥した。


 その所為で二人揃って遅刻してしまったんだ。ツヅの皆勤賞記録が早い段階で途絶えてしまった訳だ。挙句の果てに迎えに来ていた有栖川は何故か遅刻をしていないという始末。

 俺達が支度を終えて家の外に出た時は既に奴の姿はなかったんだ。あの野郎……待っていろと言った憶えはないが、待っていてくれてもよかったじゃねぇか。

 だが当の本人は、


「遅刻寸前のギリギリまで玄関の前で待っておりましたよ。もう間に合わないと思い全速力で走りましたとも。はぁ……あと早く反省文書いて下さい」


 催促をしつつそんなことを抜かしたんだ。それが信じられない――昨日もそうだったが、もし仮にあいつが走って学校に着いたのだとしたら相当息が上がっている筈だ。運動不足という点を除いてもこの俺でさえ息を切らしてしまんだ。

 なのに奴は、平然と席に着いて本を読んでいたんだ。全速力で走って登校した奴の態度じゃなかった。

 あいつ何なんだよ……? もしかしてあの華奢な身体からは想像もできない程の許容量のスタミナゲージを体内に内蔵しているのか? 有り得なくはない。これが所謂、ギャップってやつか。ツヅとはある意味、身体の発育と言う点に関しては共通しているところがある。 

 二つ目……俺とツヅは揃って登校してきたわけなんだが、その様子を、遠目で羨ましそうに見つめている野郎が一人いた。


 そう――リュウだ。


 一時間目終了後の休み時間に奴が話があるとやって来て、俺は教室の隅の方で話を聞かされた。

 その時初めて解ったことだが、奴はどうやら縁を切った訳じゃなく、あんなことがあった後だから、話し掛けずらかっただけだと言ったんだ。ましてや自分が悪かったと謝ってきたんだ。だから改めてまた俺と幼馴染――親友として付き合ってくれと。

 とどのつまり、リュウ自身ツヅ同様、俺の事を嫌いになった訳じゃなかったってことだ。

 全く……俺の幼馴染どもと来たら――素直じゃねぇなあ。

 リュウとの和解の場面は有耶無耶となってしまったが、何はともあれ、俺の絶交計画は見事に失敗。逆に俺は、図らずも不良を辞める決心をつけさせられてしまったんだ。


 そして男が一度決めたことを曲げるようで非常に情けないことではあるんだが、その気持ちは嘘じゃない。俺もこの三ヶ月、自分の生き方にどこか違和感を感じていた。

 三ヶ月前の自分とは違う自分になってみて、正直全くしっくりこなかった。一度死んだ自分が、生前の記憶を残したまま、他の誰かに乗り移って生き返り、第二の人生を送るなんて体験をしたら、それは間違いなく自分じゃない訳だから、違和感を覚えるし、しっくりもこない。大袈裟かも知れないが、俺だったら、もう一度死にたくなるかもしれない。

 そんな人生送るくらいなら、俺は極楽で悠々自適な生活を送った方が幸せだ。

 だが俺は死んでないし、何も失ってなんかいない。ついでに言うなら、手に入れてさえいない。俺の本来の目的は、真の自由を手に入れる事だ。俺は馬鹿か……そんなの、わざわざ不良にならなくても手に入れられるじゃないか。

 不良になり、皆から嫌われ、避けられることで誰にも囚われる事のない生活が待っているとばかり考えていたが、やっぱり人生甘くねぇ。他の不良たちに絡まれるわ、先公たちから目を付けられるわ、遂には監視役までつけられ、気が付けば家の中で昼寝している時間だけが唯一の楽しみとなっていた。


 独立こそしたものの、果たしてそれは自由を手に入れたと言えることが出来るのか?

 いいや言わん! むしろ俺の自由への道は遠のいてしまった! 何も不良になり、夜に何の憂いも無くぐっすり熟睡することだけが幸せ――自由ではないだろう?

 なら自由とは何だ? それすらも俺ははっきりとは解ってなどいなかったんだ。

 ではどうするか。今からでも遅くねぇ、少しずつでも構わねぇから、俺は本来の自分を取り戻し、真の自由とは何なのかを追求するために考え尽さなきゃならない!

 それに気付かせてくれた不良どもを始めとする学校関係者、リュウ、そしてツヅには感謝しなくちゃならんな。約束しよう。俺は元の真っ白な自分を取り戻すぞ! おー!


 ――と、長々とした決意表明を話した手前申し訳ねぇが、実はその日一番俺が気になったのはそんな事じゃないんだ。


 それが最後の三つめ。俺が昨日偶然命を助け一命を取り留めた、元々俺の隣の席に在席していたツンツン釣り目の優男、賽子揃が今日、学校を休んだんだ。


 貫木曰く、身体の調子が優れないとのことらしい。その理由を訊いても、話すことは出来ないの一点張りだと。そりゃ言えるわけがないだろう、まさか全身血塗れの傷だらけだなんて言える筈もない。あのおっさん教師には刺激が強い話だ。

 それを聞いて俺は少々安心した。無事に家へと帰ることが出来たんだなと。

 だが同時に俺は自分の無力さも憂いた。やっぱりあんな張りぼて修理同然の手当てじゃ無理だったのかと。強がってはいたが、やはり無理をしていたんだな、あの野郎。

 そして思い出される、賽子のあの言葉を――、


「突然! 前方から、台風が来たのかと思うくらいの突風が吹きこんできたんだよ! 忘れもしないさ……その風こそが……僕の身体を制服ごとズタズタに引き裂いたのさ!」


 あんな素人の俺から見ても人為的に切られたあの傷痕を自然現象の所為だと妄言を放ったんだ。

 もしかして自分を刺した犯人を庇っているのか? だがあの道は懐中電灯無しでは暗くて何も見えない、あんな細い目で犯人の顔を確認できるものなのか? 

 犯人は犯人でおかしな点はある。賽子同様、あんな暗い夜道でよく人を斬れたもんだ。

 いや……斬れたかどうかじゃねぇ。よくそこに人がいると判ったもんだ――か。


 逆に考えれば、暗い道だからこそ相手に気付かれずに、そして殺人が完了した後も、死体の発見は遅くなる。ある意味では、計画的犯行だ。

 だがしかし犯人の計画は完璧じゃなかった。偶然ではあるが俺は賽子の血だまりを踏み、奴を見つけ、しかも当の本人は生きていた。当然の事ながら、これはニュースにならない筈がない。クラスの奴らの話から、今朝のニュースで思いっきり報道されていたそうだ。


『小さな町で起きた怪現象⁉ 道端に残された居様の水溜り跡!』


 なあんていう感じのタイトルだったらしい。くそ、なんて情報の早い……。

 クラスではその話題で持ち切りだ、もしかしたら、その事件に賽子が関わってるんじゃないかって言う奴も中にはいた。御名答、関わっているどころか被害者だ。

 ついでに言うならば俺も関係者だ。関わりたくて関わった訳じゃねぇんだがな、全く……飛んで火にいる夏の虫もいいところだ。

 せめて大事にならなきゃいいがな。

――という懸念はありつつも、回想はそこそこにして現在。俺は今、ピンチだ。


「よお一! お前最近大人しいじゃねえかよ。今までみたいにケンカしねえのかよぉ?」


「いやいや聞いて下さいよ先輩! 実はコイツ、遂に貫木の野郎が痺れを切らして、一日中監視されるっていう囚人みたいな生活送ってるらしいっすよ?」


「しかも監視されてる相手が女っすよ? 面白い冗談はそのホンダのウィングマークみたいなダセえ前髪だけにしろって話っすよ!」


「はははは! そいつは傑作だ! ホント、面白えのはそのバナナの房みたいに垂れ下がった三本の前髪だけにしろって話だぜ! ははははは!」


 何ともバラエティーに飛んだ風刺だ。リュウにも見習わせたいもんだぜ。


 なんて余談はさておき改めて具体的に説明させてもらうが、俺は放課後、今日は比較的に早く帰れたもんだから、少しでも運動しなければと思い少し遠回りをして家に帰ろうとしたんだが、それがもう間違いだった。いつもと違うことをするもんじゃねぇな……。


 遠回りをしている道中、小さな小さな公園の前を通ったが運の尽き、そこでなんと、かつてツヅを手込めにしようとした当時学校一と言われた不良とその後輩(俺と同級生)二人がそこでたむろしてて、俺は絡まれてしまったわけだ。

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