界境の博物誌
忙殺。。。
意味は「非常に忙しいこと」。
そんなレベルでないほどの、忙しい毎日を過ごしている女、三宅倫子が今日も不機嫌な顔で早朝の通勤電車に乗っていた。
システムエンジニア、聞こえはいいが仕事は泥臭い。
ユーザーのわがままに振り回された後は、メンバーの愚痴聞きとフォローに定時間はしめられるため、早朝と残業時間を使わないと仕事が消化出来ない。
05:00の始発に乗って出勤する。
(会社に着くのは06:30頃だから、まずはメンバーの勤怠管理と前日までの作業の進捗確認。
その後に。。。あっ、そろそろメンバーの評価時期だから、
それと、昨日の夕方にお客さんからメンバーに対するクレームを聞いたなぁ。。。
挨拶がないだっけ???
プログラマーなんだから、品質のいいプログラムができてたらいいけど。。。
クレーム対象は奥村だったよなぁ。。。
ちょっと手は早いけど、品質のイマイチなプログラマーだったし。
思いきってプロジェクトから外そうかなぁ。。。)
目をつぶり、考え事してると眉間にシワが。。。
その時、電車が急ブレーキをかけた。
急な電車の揺れに、パッと目をあけたら。。。
そこは見慣れぬ部屋。。。空間だった。
部屋と言えないのは、壁がないし、床もない。
電車では座っていたはずだか、今は立っている。
その立っている足元には、何もない。。。
薄墨色の空間の中にいた。
(どこ?なに???。。。夢?)
薄墨色の空間にひとり。。。
だんだん、不安になってきた。
(夢?夢だよね?
電車の中でねちゃったのかなぁ。)
「えっ!俺の番!!」
声が聞こえた。
でも、その声がどこから聞こえたのがわからない。
「面倒だなぁ。」
声の主を探すが見当たらない。
そもそも、声が聞こえる方向が分からない。
「お仕事しますか。。。」
気だるさを感じる発言のあと、目の前に子猫が現れた。
銀色の毛に大きな青い瞳の子猫が近づいてくる。
(子猫???)
と、思っていたら、どんどん近づき大きさが普通の猫から、豹くらいの大きさ、牛くらい???
と、だんだん大きくなる。
「はじめまして」
目の前にきたもと子猫は、見上げないと顔が見えない。
だいたい、3メートルくらいの大きさだ。
口許には鋭い牙が覗いている。
(しゃべった?!)
(食べられる!!)
同時に2つ思いがでる。
後ろに逃げようとするが、足が震えて動けない。
「た、たすけて」
唯一、声がでた。
「えっ!なになに?なにから?」
と、子猫もとい大猫がきょろきょろと周りを見渡す。
「もしかして?俺?」
大猫の質問に、何度も頷く。
「あれ?36界層だったよね?猫カフェとかあって、猫が大人気と聞いたんだけど。。。君、犬派?じゃ。。。」
次の瞬間、大猫の姿がぼんやりと光だした。
眩しくて、目を一瞬閉じたあと、目の前には大犬にいた。
大きさは同じく3メートルくらい。
銀の毛と青い瞳も同じでだか大きな口からは並んだ牙が見える。
犬というより大きな狼に見える。
「これでいい?一応、界境の守護者として各界の住人には優しいんだよ、俺。。。ってなんで硬直してるの?」
状況がよくわからないなかでも
(怖いからだよ!)
と、心のなかでツッコミをいれたが、足はガクガクと震えてくる。
「まぁいいや。
じゃ、規約どおり説明と契約の手続きをはじめるね。」