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五輪野球で夢と勇気を  作者: 沢村俊介
6/13

澤村選手は投手として大リーグでも通用する

 釜谷は、札幌市内の地下鉄に乗り、ドーム球場に着いた。 

 ブルペンに向かう。K投手コーチに自己紹介をする。Kコーチはていねいに挨拶をしてくれた。事務局長の吉田から連絡が入っているように感じた。

 釜谷はざっくばらんに聞く。それでも周囲は見て、Kコーチとふたりだけなのは確認している。新聞記者には嗅ぎつけられたくないという思いが釜谷にはある。

「澤村君は、大リーグで通用しますか?」

「3日前の9月12日に、彼は先発で投げましてね。5回と2/3イニングで78球を投げ、勝ち投手になりました。ストレートとスライダーが中心でしたが。大リーグにおいても、彼のストレート、スライダー、フォークは通用するでしょう。あとは、ツーシームをしっかり投げられたらよいと思います」

「確か、そのツーシームというボールは、揺れて落ちる性質のものですね」

「そうです」

「フォークボールとツーシームのちがいは何でしょうか?」

「フォークはあまりボールが回転しません。例えば、フォーシームは、ボールが1回転するあいだに4回縫い目が見えますが、ツーシームは1回転のあいだに、2回縫い目が見えます。つまりツーシームは、ストレートのスピンをかけたボールと同じように、ボールが回転するんです」

「すると、バッターからすれば、ツーシームというのは、ストレートと見誤りやすいということですか?」

「そうです。大リーグのバッターは目がいいですからね。ボールの回転が少ないならフォークと見て、それなりに対応ができます。向こうのバッターはアッパースイングの人が多く、低めの球を拾うのは上手ですね。しかし、ツーシームはストレートと同じように、回転しながら、それなりのスピードで来て、急に右か左か予測不能でどちらかに沈みますから、バッターにしてみればバットの芯をうまくはずされる、というわけです」

「そうですか、すごいですね、大リーガーたちは。ピッチャーの投げる速い球で、ボールの縫い目が見えるわけですから」

「そういう、パワーもある、動体視力もあるといったスラッガーたちを抑えるには、変化球として、あとチェンジアップ、シンカーの2つを覚えるとよいと私は思っています。澤村は昨シーズン、右手の中指の豆をつぶしたことがあります。フォーシーム、ツーシーム、スライダーはいずれも中指を使いますからね。それに比べ、チェンジアップは、5つの指すべてに平均的に力を加えますから、反って中指に力が集中するのを避けることができます。そして、シンカーは中指を立ててボールから浮かし、上から人差し指と薬指をボールに当て、下から親指と小指でボールを支える形になりますから、中指の負担軽減になると思います」

「しろうとの質問で申し訳ないのですが、そのような変化球を日本の投手でも投げられるものなんでしょうか?」

「ええ、大丈夫でしょう。ツーシームはHチームのN投手、チェンジアップはGチームのS投手、シンカーはYチームのA投手が投げています。澤村も本当に器用な選手ですから、対応は可能だと思いますよ」

 釜谷が見つめるのに、話しているあいだ中、Kコーチの目はぶれていなかった。確信があるにちがいない。澤村選手が投手として大リーグで活躍することを信じているのだ。やはり、うちのオヤジが澤村選手をかつての巨人軍の沢村栄治投手と見立てているのは、決して滑稽な話ではないようだ。釜谷は札幌まで来てよかったと思った。(つづく)


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