何のための超能力だ!
何というか、どっと疲れた。
心なしかこの合コン会場も、人は居るのに閑散としているように思えた。
まぁ、男共からしてみれば、一番狙っていた目玉はもうこの場にいない。
それでも一樹は主催者らしく振る舞っている。イケメン君も大いに盛り上げる。
そうしてあっという間に過ぎていった三時間。
途中からの自由時間は、俺はほとんどを目の前に居た黒髪ショートカット美少女とお話ししていた。
週末は何しているかだとか、学校ではどんな感じなのか、読んでいる本は何なのか、とか。
俺は先程までは冴えない君と黒髪ロングちゃんとの関係性にひっきりなしに振り回されていたために自分が楽しむことを放り投げていたしな……。
「どんな本を読んでいるんですか?」
おとなしげなその少女が問うと、俺は告げる。
「一応好きなのは……黑井雅人の『断崖絶壁』……とかかな?」
「あ、この前の小説賞受賞の本ですよね! 私も読んでるんです!」
「こう……何か、主人公の葛藤が見ててね」
「ですね。悲しみと絶望、他人には分かってもらえない自身の境遇が――」
俺たちがそんな会話を交わし合っている間に、イケメン君と一樹はギャル達の餌食になっていた。
ちなみに、オタクに関してはずっと携帯で萌えゲーをやっていて、全く合コンっぽさはなかったようだ。
今回の合コンは不自然にも冴えない君と黒髪ロングちゃんにいい意味でも悪い意味でも全てを持って行かれた感じがある。
まぁ、合コンの一番の目的が達成されたのもその二人だろう。
俺は俺で、黒髪ショートちゃんとこの場限りのお話会を楽しんでいた――。
▼ ▼ ▼
「んじゃ、解散すっか」
一樹の一言によって最も先に誰にも挨拶せずに自転車にまたがって帰って行ったのはオタクだ。
どうやら、録画予約していたアニメを見るために帰って行ったらしい。
本当、何のために来たんだろうか。よく分からん。
「じゃーな、また機会があったら誘ってくれよ、一樹」
「いや……今回のあれを受けたら、もう主催するの気が引けちまうよ……。俺こそ悪かったな、うまく回せずに」
「そんなことないって。充分まわしてたし、まわせてたよ。お前のおかげで俺も結構楽しかったんだぞ?」
「……そう言ってもらえると助かるよ」
一樹とも手を振り別れる。そういえば、黒髪ショートちゃんのLIMEくらい聞いておいてもバチは当たらなかったのかもしれない。
最悪、洗脳すれば何とでもなるが……。
っつーか、俺この能力で何したかったんだっけ? 女を洗脳して俺の言うとおりに動かせるようにしてヤってヤってヤりまくるうはうはセックスライフだったはずだ。
何で、自殺しようとするOL救ったり、両思いだったけど訳ありでくっつけずにいた奴等をくっつけたりしているんだ。
俺は、あの横断歩道の前に来ていた。
最初に俺が轢かれそうになった、あの横断歩道だった。
「こっから、超能力が使えるようになったんだっけ」
思えば、あれからまだ一月ほどしか経っていない。
結局、ヤった女は一人もいない。
「あー……マジかぁぁぁぁ」
深いため息をついて、アスファルトの上の白線をじっと見つつ歩いていた、そのときだった。
「あ、あの――!」
後ろから聞こえた声。黒髪ショートちゃん……?
少女は、瞳をつぶっていた。何やら緊張している……?
と、そのときだった。
キィィィィィィィィィッ!!!
凄まじい金切り音のような音と共に俺の横に現れたのは。
巨大なトラックだった。
次回、完結。
ちょうど10話!