能力に見合った使い方を!
突如として手に入れた能力は大きく分けて主に二つ。
一つ、時間停止能力。
これは、俺が「時間よ止まれー!」と念じただけで止まってくれる。
なんて便利な能力だ。これを使えばあんなことやこんなことも夢ではない。
というかもはやそうしろという能力じゃないか。
ただし、どうやらこの時間停止能力には15分だけというタイムリミットがあるようだ。
能力の発現からはや1週間。色々試してみたが分かっていることは三つ。
一つ、一日に一度しか使えない。
二つ、地球上のすべての物が活動を停止してしまう。
三つ、時間を停止した状態で人に触ったり、動かしたりすることも出来る。
時間停止もののAVなんてのは、九割が虚像、一割が真実と言われている。
もしかしたら、俺がその一部に該当する奴なのかもしれないな。
ふふふ……高額の撮影依頼とか来たらどうしよう。そして、一割の真実の人に出会ってその人たちはどんな感じで暮らしているのかを知りたいね。
そして二つ目の能力は洗脳能力だ。
これは、動物でも、人でも――俺がその対象の生き物を見て、強く念じればいいのだ。
例えば、俺が道ばたの猫に向かって『お前は犬だ』と念じれば簡単に「わん!わん!」と猫は犬になってないてくれる。
部下を叱責してしながら営業回りをしているサラリーマンに
『もうその辺にしといてあげなよ。そばでもおごってあげたら?』
と念じたら、上司が部下に、
「まぁ、終わったことはもういい。どうだ、昼のそばでもおごってやろう」
と、明るい声で言った。
部下は、上司の突然の上機嫌に全身に鳥肌を立てながらぎこちない笑みを浮かべていた。
そりゃそうか、そりゃぁ怖い。悪いことしちゃったな。
そんな感じだ。
要するに、この二つの能力があれば何でも出来るのだ。洗脳能力に付属してついているっぽいのが、テレパシーだが……これは、俺もあれ以来なかなか使えていない。
何らかの発動条件でもあるのか……?
とまぁ、こんな感じで二つの能力を手に入れた俺が今現在いるのは駅のホームだ。
学校からの帰り道だ―と、それだけだ。
この能力を使って世界征服しようなんかは考えない。
少年漫画だと、悪役が世界征服のために使いそうな能力ではあるが、あいにく俺が目指しているのは少年漫画の悪役ではなくエロゲーハーレム主人公だ。
そういえば、電車の中で周り全員が見ていない中エッチする……みたいなシチュエーションだってあるんだ。
もしかしたら、電車の中の全員を洗脳させた後でいい女の子を見つけて、そこからってのも面白いのかもしれない。
ちょっと待ってくれ、男の子ならば誰しも考えることではあるが、実際に手に入れると迷っちゃうぞ、これ。
そんなことを思いながら、俺は駅のホームにぽつんと佇む一人の女性OLを見つけた。
この駅はそれほど人も多くないが……。
可愛いな。
年は十代後半から二十歳くらいだろう。
スーツもピカピカで、スカートも可愛らしい。
ピンク色の髪留めと、丁寧にまとめた艶のある黒髪が印象的だ。
「……洗脳……か」
……やるならいつか。
…………やるなら今しかないんじゃなかろうか。
人はいない。そこにいるのは一人、ぽつんと佇む女性が一人だ。
落ち着け、深呼吸をしろ。大丈夫だ、犯罪じゃない……同意の上だったら……大丈夫……だよね?
でも、そのためには、まず眼を見て貰わないとだめだったな。
「ふんっと~にゃんっと~そうやっと~あれっれっれ……」
端から見たら変な奴だが、方法は何でもいい! 周りに誰も居ないから出来るんだ!
変な踊りと、変な声を出しながら駅のホームをぐるぐる行き来する俺はまさに変人の極みだ。
そんな変人の俺の方を向いて、そのOLは「ふっ」と短い笑みを浮かべた。
だが、その笑みにはどこか暗い物が浮かんでいるようにも見えた。