超能力を手に入れたので好き放題に使います!(完)
それは、奇しくも信号無視してきたトラックだ。
「止まれ! 止まれ!」
運転手のおっさんの顔は見えなかった。
こう言えば時間が止まるはずなのに、止まらない。
――嘘だろ……。
何でこんな肝心なときに。
OLの自殺だって食い止めた、想い人と再びくっつけた。
なのに、目の前のトラックさえも止めることが出来ないのか、俺は……!
風圧が一気に高まって、熱い風が頬を擽った、そのときだった。
猫が横断歩道をとてとてと横切った。
超能力を貰ったときも、微かに俺の隣にいた気がする。
思い返してみれば、合コンの時もいたよな……。
「――ッ!」
瞬間、世界が止まった。
今にも俺を挽肉にしようかとも思えるトラックは、服に掠っただけで終わっていた。
「……くっ!」
俺は焦り交じりに前へ飛び出して歩道へと駆け込んだ。
同じく、とてとてと歩いて歩道を渡った猫が、短くひと鳴きをした。
「なーぅ」
空を向いて、猫が鳴いた直後に、凄まじい金切り音が耳を貫いた。
横断歩道の向こう側にいる、黒髪ショートちゃんも驚いたように目を背ける。
幸いにも、今回は居眠り運転ではなかったようで、運転手は青ざめたままその場からすぐにアクセルを踏んで逃げ出していった。
「……お前……」
俺の言葉を理解しているのか、していないのか。何事もなかったかのようにその場から居なくなった猫。
「だ、大丈夫……大丈夫ですか!?」
俺の様子に慌てた黒髪ショートちゃんが俺に駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫……大丈夫だけど……」
もしかして――。
直感的に思ったことだ。
思えば、いつも俺の超能力を使う所にはあの猫がいた。
だが、先程のあれにはいつもと違うことを感じてしまっていた。
一つ、深呼吸をして、少女の瞳を見た。
『――俺の女になれ』
すると、黒髪ショートちゃんは「はぁ……えっと!」と意味不明な笑みを浮かべた。
「い、いきなりそれってのは結構キツくて……ま、まずは、お友達……からですか、ね! ちょうど、連絡先教えて貰おうと思ってて……!」
いそいそと鞄の中から携帯を取りだした少女。
やっぱり、超能力が作用していない。
俺がいくら念じようと世界は止まらないし、人は操ることが出来ない。
「……あ、あなたを見て、お話しして、すごく楽しかったので! お、お願いします!」
LIMEを起動した状態で、差し出される。連絡先の交換をしようとのその申し出に、俺は苦笑い混じりに俺のIDを渡した。
よくよく考えてみても、この世界に超能力があるという時点でそれは異端なんだよな。
いくらエロゲー向きの超能力であったとしても、それは必ずしもエロゲー的に使うコトなんて出来ないってこった。
超能力を貰ったので好き放題に使います!なんてこと、なるはずがなかったんだ。
超能力に頼らずに自分で生きろっていう神様からの思し召しかもしれない。
「ひ、ひとまず、もう少し……お話ししませんか?」
可愛らしいピンクのバッグを持った黒髪ショートちゃんに、俺は笑顔で言った。
「あぁ、それならここにお勧めの古本喫茶があるんだ。そこで一緒に本でも読もう」
俺の誘いに、黒髪ショートちゃんは笑顔で応えてくれた。
書きたいことは書けたので終わりです!
ありがとうございました!




