超能力を手に入れた!
ある日、俺は超能力を貰った。
何でそんなことになるんだ? って思うだろ?
俺もそう思う。
事の発端は簡単で、登校中に2トントラックに轢かれたんだ――いや、轢かれかけたの方が正しいのかもしれない。
信号無視して突っ込んできたトラックと、横断歩道を渡っていた俺。
トラックがすぐに目の前に来て、「あ……死んだ」って覚悟した、その瞬間。
時間が止まっていた。
トラックは俺を轢くことなく、服に掠ったところでピタリと停止していた。
周りの人の驚くような顔も、同じく横断歩道に飛び出していた猫も、そりゃもうぴったりと。
俺が訳分からずに横断歩道を渡ったら、トラックの運転手が慌てたように急ブレーキを踏んだ――が、そこに俺はいなかった。
ホント、いい意味で命拾いしたぜ。九死に一生を得るとはいったものの、ここまで完璧に死にかけた奴も俺くらいなもんだろう。
まぁ、おかげさまでピンピンしてるけど。
その後、警察が来てトラック運転手が来た。俺も参考人みたいな感じで事情聴取を受けたんだが、そこで俺はもう一つの能力を手にしたことを理解した。
「信号無視をして突っ込んで……で? 奇跡的に事故はなかったと(あーさっさと終わらせてエロゲーしたいのに……)」
「すみません……すみません、すみません……(居眠り運転なんてのがバレたら免停も……くそが……早く終わりやがれ……!)
「とりあえず、署に同行してもらうよ」
「……はい(こんな形で警察のやっかいになるとは……くそが……!)」
運転手のひげ面でハゲたおっさんは警察車両に乗る前に、近くにいた俺の顔を恨めしそうに見た。
二重の声を聞いていた俺は、訳も分からなかったがむっとなって「さっさと居眠り運転だって認めればいいだろ……」と、おっさんの眼を見て呟いた、その瞬間。
俺の頭に、何か「きーん」と、かつて聞こえていたモスキートーンのような音が響き渡った。
おっさんの汚い瞳と眼があって拒否反応でも起こしたのだろうか? と思ってたが、顔をしかめたその刹那、おっさんは警察の誘導する手を振りほどき、俺の元へと
「すみませんでしたぁぁぁ!!」
どったんばったん大騒ぎしながら駆け寄ってきて、跪いたのだ。
その目は、まるでゲームで催眠にでも掛かっている状態のように思えた。
うん、怖い。
「悪かった! 俺の居眠り運転で兄ちゃんを危険に! 本当に、本当に申し訳ありませんでしたぁぁ!!」
「ちょ、ちょっと、何をしているんだ君は!(なんだコイツ、なんだコイツ、なんなんだコイツいきなり!)」
「悪かったぁぁぁ! 俺が悪かったぁぁ! おまわりさん、すいません! 居眠り運転なんです! すいません!」
「ちょ、わか、分かったから、分かったから落ち着こう!(怖い怖い怖い怖い何で俺の周りはこんな案件ばっかりなんだ!?)」
そんな身近な事故の果てに、俺は突如として超能力を手に入れたのだ。
時間停止と、洗脳。
まるでエロゲーだな。
……エロゲ?
…………エロゲー!
訂正しよう。
こうして、そんな身近な事故の果てに、俺は突如としてエロゲー向きな超能力を手に入れたのだ。