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ペニーロイヤルミント

 ミントティーを淹れよう。

 じっとりとした蒸し暑さを少しでもやわらげられるように。


 別名「目草薄荷」とも呼ばれる、ペニーロイヤルミント。

 つややかで明るい黄緑色の葉はちぎると、ツンとした爽やかな芳香がする。それは不思議と思い出を呼びさまされるような、懐かしい香り。

 ミントといっても種類はたくさんあって、たとえばスペアミントやパイナップルミント、ペパーミントなんかは有名だと思う。

 ペニーロイヤルミントも、ミントの中ではポピュラーな種類。

 けれどペニーロイヤルミントは、食用にはあまり向かないハーブだという。


 ミントにも、他の花々同様に、伝説がある。ギリシャ神話の中の一つで、少し悲しいお話。

 冥府の王ハーデスが、可憐な妖精ミンテに恋をした。それを知った妻のペルセフォネは激怒し、夫ハーデスの傍からミンテを引き離して、「おまえなどくだらぬ雑草になってしまえ」と踏みつけてしまう。ハーデスは妖精ミンテを憐れに思い、甘く爽やかな芳香の植物にかえたという。

 こうして生まれたのが「ミント」。

 ミントの香りは疲れを癒してくれると信じられ、ギリシャローマでは花嫁の冠にも用いられたとか。

 一方で、ミントは魔女の飲み物と言われ、とくに「ペニーロイヤルミント」は幻覚症状を起こす作用があるとされ、ギリシャの哲学者アリストテレスが「ミントは非常に強い強壮効果があるので、使用は適度に」と注意を促していたほど。

 ミントティーの淹れ方をユエル様に教わった時に、使用の際には十分注意が必要だと聞かされた。

「私達吸血鬼は、人間よりは頑健だが、毒物に強いというわけではない」

 どちらかといえば、毒物に対する耐性は弱い方だという。

「コーヒーや紅茶、お酒は大丈夫なのに、ですか?」

 わたしの問いにユエル様は笑って答えた。

「酒に弱い吸血鬼なんて、様にならないと思わない、ミズカ? だからまぁ、そういうことだ」

「…………」

 吸血鬼って、なんとも都合のいい存在だって、この時はさすがに呆れてしまった。わりと何でもありというか。

「精神的な作用に左右されやすいからね」

 と、ユエル様は仰ったけれど。なんとなくごまかされたような気がしないでもなかった。

 ともあれ、ミントティーを淹れる時は十分気をつけ、ペニーロイヤルミントの使用は、極力避けるようにした。


* * *


 ミントの香りに誘発されたからなのか。

 ふと、ずっと気にかかってはいたものの、心の奥底に沈めておいたことが、思考の表面に浮かんできた。

 わたし達「吸血鬼」はひじょうに長命で、「老いる」ということがないらしい。といっても、生まれてから数年は人間と同じように成長する。人間と違い、成長速度には個人差があるらしく、人間並みに成長していく「吸血鬼」もいれば、ひどくゆっくりとした成長過程を踏む「吸血鬼」もいるとのこと。

 魔力の有無と、その種類、それらが成長速度に影響するのだろうと、ユエル様が説明してくれたことがあった。

 ある程度年を重ねると、「吸血鬼」は自分の意思で成長を止められるようになる。どうやって成長を止めるのか、不思議な事にその方法は本人にもよく分からないらしい。なんとなくだと、ユエル様も苦笑してた。

 ともあれ、「吸血鬼」はある時期まではごく普通に成長していたわけで、当然「子ども時代」はあった。

 ユエル様も例外じゃない。

 ユエル様はいったいどんな子どもだったんだろう。どんな子ども時代を過ごしてきたんだろう。

 知りたかったけれど、訊けなかった。

 ユエル様は過去を詮索されるのを好まない。はっきりそう言われたわけではないけれど、なんとなく察せられた。

 さりげなく尋ねたこともあったけれど、はぐらかされてばかりだった。だから追及はしなかった。話したくないんだなって思ったから。

 だけど、やっぱり気にかかっていたし、少しだけでもユエル様の「過去」を知りたかった。

 知りたい気持ちを堪えていたのに、堪えきれなくなったのは、ユエル様の古くからの知己にお会いしたからだ。アリアさんとイスラさんと、イスラさんの息子のイレクくん。イレクくんを除くお二方は、ユエル様の過去を知っている。

 当たり障りない程度なら、尋ねても構わないだろうか。

 お二人とも、とっても気さくな方で、いろんなことを話して聞かせてくれるから……。

 そう思って、イスラさんに尋ねてみることにした。アリアさんの方が詳しいかもしれないけど、今この場にいなくて、尋ねられなかった。

「ユエルの子どもの頃?」

 わたしはこっくりと頷いた。

 たまたまイスラさんと二人きりになった、朝のひととき。この場にユエル様はいない。

 イスラさんはグラスをテーブルに置いた。グラスの中身、アイスミントティーは残りわずかになってた。

 ハーブティーはブレンドの具合がむつかしい。好みがあるし、淹れるのにも気をつかう。だからイスラさんの口にあったようで、内心ホッとしてた。

 わたしは自分の分のミントティーを少し口に含んだだけで、あとはストローを抓み、カラコロと氷を鳴らすばかりだった。グラスから、手織りのコースターに滴が流れ落ちて、濡れ染みを作っている。

「子どもの頃のユエル様って、どんなふうだったのかなって、その……」

「そっか。あいつは自分からそういうこと話さないからなぁ。ミズカちゃんとしては知りたいよね、ユエルのことは色々とさ」

 イスラさんはにこにこ笑ってわたしを見つめる。向けられる視線がなんだかくすぐったくて、わたしは肩をすぼませた。

 ユエル様のいないところで、ユエル様の過去の話を他人から聞きだそうという後ろめたさが少なからずあって、発する声は無意識に抑え気味になる。

「ただ、うーん……ユエル自身、あんまり憶えてないんじゃないかなぁ? 思いだしたくないってのもあるんだろうけど」

「ということは、辛いことが多かったんでしょうか……」

「どうかな。ま、そういうのもあるかもしれないけど、それはおいといても、子ども時代なんて、ものすごいむかしのことだし、記憶も曖昧になってくるよ、どうしたって」

 十年二十年って単位じゃないからね、とイスラさんはからりと笑う。

 たしかに、それは言えるかも。

 そもそもユエル様自身が、ご自分の年齢すら「憶えてない」と言うくらいだもの。

 生まれたのはたしか北欧の方で、けれどひとつところに留まることなく、ヨーロッパ各地を流離っていたと聞いた。にも関わらず、膨大な財産を隠し持っていたというから、吸血鬼って、やっぱり不思議な存在だ。

 イスラさんはほんの少しだけ眉を険しくひそめて話を続けた。

「まぁ、俺達はなんといっても吸血鬼なわけで、それなりにヤバい目にも遭ってきたし、辛い思いもさせられてきたよ。迫害されて、退治されかかったことも一度や二度じゃないしね」

「…………」

「とくにユエルは目立ったからね。あの容姿だ。居るだけで目立つってのに、生気を吸うのも派手にやりまくって、現場を見られて危うく退治されかけたのも、一度や二度じゃないって聞いたな」

「そ、そうなんですか?」

「十代になるかならないかの頃だね。見た目年齢じゃなく。子どもだからってのもあったんだろうけど、いろいろと無茶し放題だったらしいよ? アリアからの又聞きなんだけどね。アリアは、ユエルの母親と親しかったこともあって、ずいぶんと面倒見てきたらしい」

 無茶し放題って……ちょっと、ううん……かなり意外。

 ただ、幼少のころから人目を惹かずにはおられない際立った容貌だったというのは、想像がつく。今のユエル様をそのまま小さくしたみたいななんだろうか。

 透き通るような白磁の肌に、銀月を梳いたつややかな髪、神秘的な緑の双眸は悩ましげで、夢幻的な美少年だったに違いない。

 想像はできるけど、やはり実物を見てみたかったな。

「イスラさんが、ユエル様と初めてお会いしたのは、いつ頃だったんですか?」

「うーん、あれは何歳ん時だったかな。俺は十五、六だったよ、たしか。ユエルも十代だったはず。見た目で十七か十八くらいだったね。今より青臭いって感じでさ。あ、そういえば」

 ふと思い出したように、イスラさんはぽんと手を叩いた。それからはす向かいに座っているわたしの方に顔を近づけてきた。内緒話をするように、声をひそめる。

「ユエルね、当時は別の名前で呼ばれてたんだよ。いわゆるミドルネームってやつ」

「ミドルネーム、ですか?」

「そ。今じゃそれで呼ばれるのきらってるけど。ミネスっていう」

「…………」

 ミネス。

 聞いたことがある。ユエル様のフルネーム。たしか……ハクンディ……ユエル・ミネス・ハクンディといった……はず。

 フルネームを使うことはめったにないし、その必要もないからいつもは記憶からはずしているけれど……。

「母親が亡くなった頃じゃないかなぁ、ミネスの名前で呼ばれるのを嫌がるようになったのは。あの頃は、ほんとうに色々あったみたいだから」

「…………」

 その「色々あった」何かを、イスラさんに尋ねる気にはならなかった。知りたい気持ちはあったけれど、イスラさんに……ましてユエル様のいない時にこっそり訊いちゃいけないことだ。

 イスラさんは頬杖をつき、わたしに笑いかける。イスラさんの人懐っこい茶色の瞳には不思議な吸引力がある。心を融かしてしまうような。そして、つられて笑んでしまう。

 不器用な微笑み返しになってしまったけれど、そういうわたしをイスラさんは嬉しそうに見やって、またそのにこやかさが、心を和ませるのだ。

 イスラさんって、笑顔があったかい。

「ユエルは、ラッキーだったね。ミズカちゃんと出逢えてさ」

「え、いえ、それは、わたしの方が……。ユエル様に救っていただかなければ、わたし……」

 酷い目に遭っていたかもしれない。そう思うのは、今、わたしが幸せだからなのだろう。ユエル様に出逢わなければ、酷い目に遭っても、それを不幸だとは感じなかっただろう。ユエル様は、わたしに「心」を与えてくれた。いろんなことを感じたり考えたりする、「感情」。

「……ユエルも、無感動なやつだったんだよ。感情をあらわにすることなんてなかった。笑うことも憤ることもなかった。愛想のかけらもなくて、永久凍土みたいな面して、人形みたいだった。氷の彫像ってのがぴったりくるかな。誰にも心を許さないというより無関心っていうんだろうね、ああいうの」

「そう、なんですか……?」

「うん。ユエルと初めて会った時も、俺のことなんてまるっきり無視。しばらくはろくに口もきかなかった。眼中にすら入ってなかったって感じだったからなぁ」

「…………」

 意外だった。

 だってユエル様、……そりゃぁ朗らかで愛想がいいというタイプではないけれど、臨機応変に営業スマイルだって作るし、不機嫌な時はあからさまに顔に出すし、ご自分の美貌を褒めそやしたり、わたしの勉強を見てくれた時は笑顔で褒めてくれたりもした。困った顔をする時だってあるし、呆れたり不機嫌になったり、いろんな表情を見せてくれる。

 イスラさんに対してだって、文句言ったりめいっぱい悪態ついたりしてるけど、無関心っていう風じゃない。

「うん、だからね、ミズカちゃんの影響ってことだよ。ミズカちゃんに会って、いろんな感情を出せるようになったんじゃないかな。ユエルは、ミズカちゃんに会えてラッキーだったよ」

「…………」

 そうだといいなとは、思う。

 だけど、自信はない。

「ただね、ミズカちゃん見てると思うんだけど、ミズカちゃんも、少しくらいは毒を含んでおく方がいいよ。ユエルは長い間に毒を溜めこんじゃってるところがあるから、その毒に慣れるためにも」

「え?」

「毒って言い方は適当じゃないかもしれないけどね。ユエルは過保護すぎなんだよなぁ。ミズカちゃんを純粋なままにさせすぎっていうか。それがミズカちゃんの美点でもあるけど、そのままじゃぁ、ミズカちゃんもユエル自身も辛いだろうに」

「……?」

「ま、ユエルも焦ってるみたいだし、大丈夫かな」

 イスラさんは頬杖をとき、その手をのばしてわたしの頭におき、優しく撫でつける。なんともくすぐったい心持ちになり、わたしは肩をすぼませて、顎をひいて俯いた。

 飲まれないまま置かれているアイスミントティーに目をやる。氷が融け、小さくなっていた。結露し、水滴が流れ落ちる。

 喉の渇きを覚えて、グラスに手をかけようとしたその時だった。

「イスラ」

 背後から、低い声が落ちてきた。

「馴れ馴れしくミズカに触れるなと、何度言えば分かる」

 不機嫌極まりない、その声。

 イスラさんは手を離し、やれやれとおどけたように肩をすくめてみせた。

 わたしは肩越しに振り返って、声の主を見上げた。

 長い銀髪と神秘的な緑の瞳、透き通るような白皙が目を惹く美しい青年がそこにいた。眉をしかめて、ユエル様はイスラさんを射抜くように睨みつけている。

 不愉快といった感情をありありと面貌にだしているユエル様。

 こんなにも表情豊かなユエル様が、かつては感情を全く露わにしなかったなんて。信じられないような、だけどなんとなく信じられるような。

「その茶に、ロイヤルミントの精油をたっぷり入れておくべきだったな」

「防虫効果にってか?」

 ユエル様の皮肉げな言に、イスラさんも同じ調子で返す。

「毒を以って毒を制す、だ」

「毒も、使いようによっては薬になるとわかってて言ってんだよな? まどろっこしくて見てられないが」

「余計な世話だ」

 イスラさんは、ユエル様との言い合いを愉しんでる節がある。それをユエル様も気づいているんだろう。なんとなく分が悪いと思っているのか、さらに不機嫌顔になる。

「毒づけるようになっただけでも成長したよな。無味だった頃よりは今の方がずっといい」

 言いながら、イスラさんは椅子をひいて立ち上がった。「ミントティーごちそうさま」とわたしに声をかけてから、部屋を出ていった。去り際、ユエル様の肩をぽんっと軽く叩いて。

「毒の使いどころを誤るなよ、ユエル?」

 イスラさんの意味深な台詞が、わたしの脳裡に残った。



「……まったく」

 イスラさんの背を睨みつけ、部屋から出ていたったのを見届けてから、ユエル様は深々とため息をこぼした。

 なんのかんのと文句をたれつつも、ユエル様の不機嫌そうな表情とは裏腹に、口調にはさほどの険はなく、ほんのごく僅かだけど、照れがあるような気がした。

 もしかしたらユエル様はわたし達の話を聞いていたのかもしれない。

 さすがにそれは聞けなかった。バツが悪くて、居たたまれない。

 なんとかこの場をやりすごそうと、ちょっと強気な声をつくって言った。

「ユエル様、イスラさんにお茶に、ペニーロイヤルミントの精油を大量にたらしたりなんかしたら、だめですよ?」

 もちろんユエル様の冗談だとは分かっているけれど。

 ペニーロイヤルミントの精油を大量に摂取したせいで、最悪、死に至ってしまうかもしれない。摂取方法を間違えれば、薬が毒に変じてしまう。そういうハーブだって、教えてくれたのはユエル様だ。

「そうか。ならば、ニンニクのエキスでも飲ませようか。たしか、苦手だったはずだ」

「イスラさんが、ですか?」

 ニンニクは吸血鬼退治には欠かせないアイテムの一つとされているけれど、実際わたし達はニンニクが弱点ということはない。といっても、好んで口にしたりはしないけど。ユエル様だって、あの後に残る強い臭気は苦手だと言ってた。

「果物のスムージーを作る時にでも、大量にしこんでおくのがいいな。しかしあの臭いが強烈過ぎて、飲ませる前に気づかれるか……」

 ユエル様は両腕を組みんで、ひとりごちる。

 なんだか、子どもの悪戯っぽい。ユエル様、本気でやろうって考えてるんじゃないかしら。目が真剣なんだもの。

 そんなユエル様が可笑しくて、笑みがこぼれる。

「ユエル様」

「うん?」

「ミントティー、ユエル様も飲みますか? 新しく淹れてきますけど」

 わたしは立ち上がった。居たたまれない気分だったけれど、ユエル様の顔を見ているうちに、気持ちも落ち着いてきた。

「そうだな。頼もうか。レモン入りのを、頼む」

「はい。スペアミントの、ですね?」

 スライスレモンを入れて、ハチミツも少し入れよう。苦みが強すぎないよう、甘みもちょっともたせて。ハーブティーはブレンド具合に気を使う。ユエル様の口にあうよう、心してかからなくちゃ。

 そんなことをぼんやりと考えていたわたしに、ユエル様が口添えた。

「ペニーロイヤルミントのドライハーブもあったろう? あれを、少量だけ加えてくれ」

「わかりました。少量、ですね?」

「それほど気を遣わなくてもいいよ、ミズカ。ペニーロイヤルミントは有害な植物というわけではないからね。恒常的に摂取しなければほとんど害はない」

 ユエル様は、ミズカは心配性だねと笑う。

 心配性になったのは、ユエル様の影響だ。影響と言っていいかはわからないけれど。

 ユエル様の傍はとても安心できるのだけど、時々、無性に不安になることがある。なぜなのかは、自分でもよく分からない。わたしの心の弱さからくるものなのかもしれない。

「……あの、ユエル様」

「ん?」

 ユエル様は小首を傾げた。つややかな銀の髪がさらりと肩から流れ落ちる。仕草のひとつひとつが、まぶしいほどに美しい。わたしを見つめる双眸は、ミントの葉の色だ。

「い、いえ、なんでも、ないです……」

 ユエル様の顔をずっと見ていられず、つい背けてしまった。

 鼓動が速まってる。頬だけじゃなく、体中が熱ってくるのは、暑さのせいだろうか。

 氷をたくさん入れて、きんと冷えた、すっきり爽やかな口あたりのミントティーを淹れよう。うん、そうしよう。

 くるりと身を翻して歩き出した、その時。

「ミズカ」

「は、はいっ」

 ユエル様に呼びかけられ、足を止めて振り返った。

 ユエル様は優しく、……そしてちょっと切なげなような、曖昧な微笑を浮かべていた。

「……ありがとう、ミズカ」

「え?」

 ありがとうって、ユエル様、それはいったい……?

 まだミントティーを作ってもいないのに。

 ためらうわたしに、ユエル様は「行っておいで」と片手をひらひらと振り、その後はもう何も言わなかった。


 毒ならば、わたしはきっと、とうに身の内に潜ませている。もしかすると中毒になってしまってるのかもしれない。

 そのせいで時々胸が痛むのかもしれない。

 その痛みはミントの葉を齧った時の苦みに、似ている気がする。

 ユエル様の声を聞き、微笑みを見るだけで痛みは起こり、わたしはその度にとまどってしまう。

 ユエル様は「毒」なんかじゃない。そう思うのに、心の奥底で感じている。

 ――苦くて甘い、優しく危険な毒を。

ペニーロイヤルミント一言メモ

ペニーロイヤルミントは古くから料理などに使われていたハーブ。またネズミや虫除けにも使われる。

ペニーロイヤルミントのミント臭はd-プレゴン、毒性があるので、精油を飲んだり、身につけたりするのは危険。食用はドライハーブのみだそうです。

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