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三話目

「ご馳走さまでした」


「お粗末さまでした。見てて気持ちいい食べっぷりだと、作りがいがあるわね」


 食後のお茶が、肉の脂っこさを洗い流してゆく。まさか完食するのに一時間かかるとは思わなかったな。よく食べきれたよ。

 すでに空は茜色に染まっている。これ以上ひきとめるのも悪いな。


「あの、キリルさん。あとは俺が片付けますんで……その」


 だけど、飯を作らせるだけ作らせて追い出すのもなぁ。どうすればいいんだ。うまい言葉が見つからない。京都ならお茶漬けでも出せば済むんだろうが、ここは異世界だ。金銭は、日本円が流通してないから無意味だし……肩もみでもしようか。


「魔法ですぐ終わるから大丈夫よ。見てて」


 得意げに胸をそらせた彼女の指が、空中を何度か往復する。すると、ちゃぶ台に散乱した食器に、緑色の模様が浮かび上がった。あれはまさか、魔法陣……。陣の中が、柔らかな緑の光で溢れる。数秒とも、数分とも思える発光が収まった。


 ちゃぶ台の上。そこにはピカピカの食器が散乱していた。ちゃぶ台も新品同様に拭きあげられている。


「きれいになった! すごい。これが魔法……!」


「ふふ、驚いた? 洗浄と乾燥の魔法なのよ」


「すごいですね。便利そうだなぁ」


「タクヤも魔力はあるみたいだし、練習してみる?」


 ファンタジーといったら魔法だよな。魅力的な女性に、手取り足取り教えてもらうのも悪くない。だけど、そうじゃなくて。


「魔法ですか。興味はありますね。——ですが、そろそろご家族が心配されているのでは? 近所ということですが、あまり遅いと危ないですよ」


 さすがに、魔獣がぽこぽこ出現することはないだろうが、街中への侵入を許すくらいだ。人類が魔法を使えたとしても、犠牲は少なからず出る……そんな気がする。


「ふふ、心配してくれてありがとう。じゃあ、魔法は次の機会に教えてあげるわ」


「楽しみにしてますね。——今日は貴重な情報をご提供いただき、ありがとうございます。助かりました」


「どういたしまして。ちゃんと戸締まりしておくのよ?」


 扉を閉める直前、彼女は思い出したように顔をのぞかせた。


「はい。かで……魔道具は貴重なんですよね。ちゃんと収納するので安心してください」


 彼女は満足そうな笑顔で帰っていった。玄関の鍵とカーテンを閉め、床に座り込む。……疲れた。緊張しっぱなしで身体がガチガチだ。スマホを充電ケーブルから外し、メールを起動する。宛先は俺自身。

 今日教えてもらった料理のコツを打ち込み、送信し……あっ無理だ。そうだ、基地局はないんだった。下書き保存でいいか。


「そうだ、家電を隠しておかないと。ええっと、す……ステータス」


 俺の眼前に、不思議なパネルが出現する。これは、誰もが産まれた瞬間に授かるのだという。個人情報や所持品、各種ステータスや習得した魔法を確認できるという、とても便利なパネルだ。

 俺はここで産まれてないけど、なんで持ってるんだろうな。……現地の人に尋ねると変な人扱いされそうだし、気にしないでおこう。


 気をとりなおして画面をスライドさせ、個人情報欄に切り替える。あとは冷蔵庫に向かってパネルを押し当てると——。


「消えた! ファンタジー万歳!」 


 俺はウキウキしながら所持品一覧を確認する。そこには、冷蔵庫の文字が堂々と記載されていた。持ち物の容量は……うん、余裕だ。これなら、貴重品は全部保管できそうだな。

 ちょっとやる気が出てきたぞ。いい気分だし、たまにはゆっくり入浴するか。最近仕事が忙しかったし、久々にダラダラしよう。

 構想が駄目駄目すぎたので打ち切ります。

 在宅系ファンタジー、今なら(2020年10月11日現在)ウケたんでしょうけどね。

 次回作は完結させます!

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