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「2人の人間」

どうにも書けない時期が続き、更新が遅くなりました。申し訳ありません。徐々にペースは戻ると思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 






「はあ~~」


 魔界に不釣り合いな人間の少年は、ある山脈にいた。ため息が漏れ、人の気配のない木々の中に溶けていく。


 少年は、名をカトル・サーペントという。なお、1度別の世界で死を受け、記憶を残したまま生まれ変わった、いわば転生者というものである。身体は子供、素顔は大人。そんな彼が何故山の中に独りでいるかと言えば。


「……どこだよここ」


 迷子である。元来方向感覚に優れるタイプではなかったが、似たような景色が延々続く魔界では特に迷子になりやすい。


「大体なんなんだ狩りで食料確保って。原住民か」


 主の顔……アホ面を思い出して悪態。城のすぐ近くに城下町も広がっているのに。食材はそこで買うのがいつものパターンなのに。アレは時折「新鮮な肉が食いたいな! カトル捕ってこい!」などとのたまる。最初こそ修行の1つと思って我慢してきたが、そろそろこの程度の狩りは朝飯前になりつつある。端的に言って、つまらない。


 額に光る汗を拭い、集めた枝に直接触り、魔力で火を点けた。生肉を刺した愛刀を地面に突き刺し、バーベキューのように肉を焼いていく。


 待つ間、彼は大きな物体に背中を預けた。ゆっくり呼吸して、自らが狩り殺したモンスターを見上げる。


「まさか、ザルグェイアスをサクッと殺せる日が来るとはな」


 しかも、こんなに早く。


 モンスターと戦う機会が多かったせいか、動物狩りは慣れた。むしろ、対人(対魔族、と言うのが正しいが)の方が身体の動かし方に戸惑う。何せ知恵があるから。動きを先読みして、あるいはされて、意表を突く隠し球で初見殺しをして、といった「勝ちパターン」があまりに多すぎる。剣の達人、熟達した経験者が年老いても強いのは、この辺りに理由があるのだと今ならよくわかる。


「前はリーナと逃げたっけな」


 カトルの気持ち的には10以上離れた、魔族の女の子。彼女の印象は鮮烈で、今にして思うとかなり変人(魔界基準)というのがよくわかる。


 城に同年代などいようはずもないから当時はわからなかったが、魔界の子供をいくらか見ると、自分より強い子はおろか、足元に及ぶような者でさえ存在しない。


 加えて、あんなにも幼いのに間違いなく美人になると一目で解る可愛さ。倫理観に反する優しさ。異常と言えば異常だが、おかげでもうひとつ、ある感情が湧いていた。


 手合わせしてみたい。


 稽古をつけてくれる者はいるが、力を試す意味では、なかなか近い実力の者はいなかった。いくらなんでも成熟した大人に勝てるほど強くはないし、そもそも人間の身体は魔族ほど頑丈に出来てはいないのだ。


「……可愛いしなー。ロリコンのつもりじゃなかったんだけどな」


 認識を改めねえとかもなー。とぼんやり思い、肉の焼け具合を見ようと手を伸ばす。


 がさり。


「っ!」


 葉の擦れるわずかな音に、カトルはすばやく刀を取った。乱暴に振り払い、よく焼けた食材を放る。


 殺気……はないな。害のないモンスターか、あるいは……。


「誰かいるのか!」


 語気を強めたが、身体が子供なせいで想定より迫力がない。それを愛嬌としながら、神経を尖らせる。


 すると、物音のした方から再び音が届く。


「に、にゃーん」

「なんだ、猫か……」


 息を抜き、名刀「圧し斬り長谷部」の刀身を丁寧に拭き取る。生の肉を刺したくらいでダメになる代物ではないが、決してぞんざいに扱ってはならないのだ。


 血糊や臭いが残らないことを確認してからそれを鞘に納め、


「って、そんなわけあるか!」


 居合いに抜き放った。


 茂みが斬り裂かれ、影が飛び退く。覗いていた何者かの周囲に、光が集約するのが見えた。魔力が練られている。それを認識した瞬間、カトルは一も二もなく横っ飛びにとんだ。


 足先ギリギリを、光が抜けていった。魔法に疎い彼は知る由もないが、それは上級と呼べる威力の魔法。消費する蓄積魔力量も甚大で、属性が光であることも含め、そこらの魔族に扱えるようなモノではなかった。


 理屈や、どれほどのすごさなのかは解らずとも、その危険性はかわした本人が2番目に理解している。


 無論、1番理解するのは直撃を受けた者だ。


「やば、死んだ?」


 草木の消失した地を踏みながら、危険人物は焦ったような声を発する。カトルは再びそれの正面に出る。


「いや、生きてるぜ」

「おぅ、そぃつぁよかった」


 何でもないように言うそれの姿が、木々の陰がなくなったことで明らかになる。


 金色の短髪、ジャージのような服装。見た目から言うと、歳は17、8だろうかと推測する。だが、そんなものはどうでもいい。最たる特徴はそんな普遍的な所にはない。


 否、特徴がないのだ。翼、角、尾……魔族としての特徴が。


「にん、げん……?」

「そぃつぁむしろ俺のセリフなんだぜ? なんでショタがこんなところにいる?」


 少し馴れ馴れしい。だがそれは、相手の神経を逆撫でしかねないということが理解できないのではない。


 相手が襲いかかってきても問題ない。そんな自信に裏打ちされた……悪く言えば、カトルを舐めた態度だ。


 刀の柄に手をかけ、腰を落とす。


「……オレは人間界じゃなくここの生まれでな。そっちこそ、なんでいきなり襲ってくる? なんでこんなところにいる?」

「魔界生まれだからって、子供が山ン中にいる理由にはならないと思うンだけどな?」


 それは確かにそうだ。気分的にカトルはそこまで子供ではないし、事情を知る城の連中は子供扱いしない。意外と盲点だった。


 ……いや、それよりなにより、この金髪はヤバイ気配しかしねえ。逃げるのが上策だろうな……。


「……まあ、それはいいじゃねえか。オレにも事情はある」

「そうだなぁ、俺にだって事情はある」

「で、その事情とやらはオレを殺すのか?」

「んー……」


 どうでもいいが、ジャージは似合わない。それに、妙な汚れ方をしている。実際はほぼ新品ではなかろうか。


 そんなことを考えるカトルを余所に、彼はわざとらしく悩む素振りを見せ、悪趣味な笑みを見せた。


「それも面白いかもしれねぇなぁ!」

「そうかよ!」


 魔力の奔流が溢れだし、カトルは背を向けてでも駆けた。


 逃走劇が始まる。


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