「信念を貫くために」
新入生トーナメントで残ったのは、エカテリーナ、スローヴィア、クーリャの3人。その内、エカテリーナとスローヴィアは魔力を消費している為、それを待つ間は休憩が挟まれた。
マッチングの結果、対戦を行うのはエカテリーナとスローヴィアに決まり、とりあえずエカテリーナはそのまま保健室に残り、スローヴィアは出ていった。
クーリャもついていくと言い出し、
「何故わたくしが男性と」
「心は女の子だもん」
「知りませんわそんなこと」
「…………だめ?」
「……っ、勝手になさい」
そんなやり取りを残して出ていった。なお、途中からは気を失って寝かされていたサラとガロンも目を覚ましており、やはりクーリャが男だと聞くと驚いた。
サラに至っては「……そんなキャラ、卑怯だし」などと言い、異様に殺気立っていたりもした。
エカテリーナもケガはほぼ治っている。ヴァイオラスに礼を言い、彼女もまた保健室を後にした。
アクリアに会いに行こう、どこにいるだろう、と、そんなことを考えながら。
アクリアはその日、特に試合を見るでもなく、ある場所を訪れていた。小学校の近くを流れているブック川を渡り、古ぼけた小さな小屋……ヤードの家へと。
魔族とて、自分より上の立場の者を怒らせるのは怖い。アクリアも例に漏れず、まずは玄関をノックし、1歩下がる。
ややあって、中からインキュバスが顔を出した。彼は訪問者がアクリアだと解ると意外そうな顔を見せた。当たり前だが、ちゃんと服を着ている。
「これは珍しいお客さんだNE」
「用があるニャ」
「まあ、入りなYO」
アクリアが通された、埃っぽい家の中。唯一座れそうなベッドにアクリアは遠慮なく陣取った。
ヤードは微妙な顔をしていたが、アクリアはそんなことは気にしない。家に通しておいて座るなも何もないし、文句があるなら言ってくるだろう。
「用というのはなんDAI?」
「……これニャ」
右目の眼帯を外し、銀色の瞳をヤードに見せる。
「この目のことを詳しく教えて欲しいニャ」
「ボクが知っていると思うのKAI?」
「知らないニャ?」
「知らなくはないけDO……本物を見たのは初めてだかRA……」
アクリアからしてみれば知ってることをさっさと教えろ、なのだが、対するヤードは言いたくないのか押し黙る。
数秒の思考の後、ヤードが1つの提案をする。
「ボクにそれを調べさせてくれないKA?」
「ニャ?」
「そしたら情報料はとらないYO」
「んー…………わかったニャ」
研究出来ることが最高の報酬だとでも言わんばかりの嬉々とした表情で、ヤードは早速部屋の隅でごそごそし始めた。
アクリアがその準備が終わるのをベッドの上で落ち着きなく待っていると、ヤードが手を止めずに問うてくる。
「その瞳のことを知りたいのは何故DAI?」
「ウチは、強くなりたいニャ。BクラスやAクラスに入れるように」
「そういえばクラス昇格試験なんてのもあったNE」
あまり整頓されていない研究用具入れを、埃を立てながらヤードは漁る。
「強くなって、どうするんDAI?」
「……それは内緒ニャ」
バステトから、憂いを帯びた溜め息が漏れる。ヤードとしては、そんな理由特に興味はない。だからこれは、何の意味も持たない世間話。
「好きなこととかないNO? ボクは研究が好きで、それで食べていけてるけDO」
「ウチにはそんなのないニャ。小学校を卒業しても、大学に行くつもりもないニャ」
魔界小学校は、3年で自動的に卒業となる。エリートを目指す者はそれぞれ専門分野の大学に行って、さらに上を目指すこともある。特に人気なのは戦闘学科。
「帰ってお家のお仕事のお手伝いKA、その内お嫁さんにでも行くのかNA」
「そんなところニャ」
その道は、大抵の魔族が選ぶ道。畑仕事や狩りをしてのんびり暮らす。町という組織に属し、集団で身を守る。
だったら強くなる意味もあまりないのだが、興味のない話を突っ込んで訊くほど、ヤードはおしゃべりな性格をしていなかった。
ようやく必要な道具が揃い、ヤードはアクリアの瞳を覗き込む。
「痛くしないでニャ」
「こんな貴重なモノを傷つけるほどバカではないつもりだYO」
まずはBクラスに昇格するニャ。アクリアは誰にも見せない本当の心の中で呟いた。
結局、エカテリーナはアクリアに会うことなく試合開始の時間が来てしまった。
どこに行ったのか。心配していないわけではなかったが、仕方なく訓練場へと戻ってくる。
闘技エリアへと出れば、スローヴィアは既に仁王立ちで待っていた。一陣の風が、少女達の間を吹き抜ける。
「来ましたわね」
「スローヴィア……」
金髪の悪魔の姿に、エカテリーナは尊敬の念を抱いた。堂々としていて、己を曲げない。家の名を背負い、それを自らの力で受け止めようとしている。
だが同時に彼女には、家の為なら平然と命を投げ出す無謀さもある。死んでしまうかもしれないようなことを平気でするなんて、自分を大切にしないなんて間違っていると、エカテリーナは譲らない。
最初はいけすかなかった。だが、スローヴィアは今や尊敬すら感じる存在にまで登り詰めている。
だから。
「死ぬことの怖さ、教えてあげる。もう2度と、バカなマネが出来ないように」
「わたくしからも教えて差し上げますわ。わたくしに逆らうことが、どれだけ愚かなことか」
こうして彼女達が対峙するのは既に3度目。入学してからまだ日が浅いのに密度の濃い学校生活になったと、エカテリーナもスローヴィアも思っている。
知らず、2人に笑みがこぼれる。今ここで、解らせてやるのだ。
どちらが正しいのか。
緊張の高まる訓練場に、審判の声が響き渡る。
「試合、開始!」




