表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/82

「魔法戦」

 





「ホッホッホ。元気じゃの。では、次はこれを」

「そいつぁなんだ?」


 校長の差し出す何本かの棒を見て、オーガが喋った。身体は大きくとも、その声はまだまだ子供。その姿と声のギャップは、凄まじい違和感を選手達に与えた。


「対戦相手を決めるくじじゃよ。ほれ、引け引け」


 言われるまま、それぞれ1つずつ校長の手の中からくじを引く。エカテリーナがくじに目を遣れば、1とある。


「同じ数字の者同士が対戦じゃ。1番の者から試合じゃの」


 そう言われて部屋を出ようとしたのは、エカテリーナとダークエルフ。互いの視線が交差する。


「負けないからね」

「……そう」


 ダークエルフは眠たげな声で無表情に答える。どうにも、エカテリーナと彼女の間には相当温度差があるらしい。


 2人は並んで闘技エリアへと出ていく。超満員になったギャラリーの歓声が彼女らを揺さぶり、エカテリーナの緊張感が一気に高まる。


 今回も審判を兼ねているらしく闘技エリアにいたエノの指示を受け、開幕地点として指定された位置に少女達は立つ。その距離、およそ10メートル。2人は校長の葉を握りつぶす。


「赤コーナー、Aクラス、ダークエルフ、サラ・レイゼナンティア」


 司会の声と客席の盛り上がりを聞いているのかいないのか、サラは微動だにせずじーっとエカテリーナを見つめている。無表情な幼女の瞳に吸い込まれそうになり、エカテリーナは負けじと睨みつける。


「青コーナー、Cクラス、サキュバス、エカテリーナ・テレサ」


 サラの時よりも大きな歓声が湧く。それだけエカテリーナが有名であり、期待をかけられていることが窺える。サラを睨んでいたエカテリーナが、しかしその期待を受けて萎縮する。相変わらず、注目されることには慣れていない。


「…………」

「…………?」


 サラの視線が少し棘を帯びて鋭くなるが、エカテリーナが疑問を得て瞬きしている間にそれは消え失せていた。


 エノが右腕を振り上げ、それと同時に訓練場が静まり返る。ついに始まる戦いの気配に両者の気は引き締まり、空気が張り詰める。


「試合……開始っ!」


 その腕が振り下ろされるとともに、少女達はバックステップで跳ぶ。距離を離しながら軽く放たれる、魔力。


(魔法が使える!?)


 エカテリーナの放った闇の魔力が、水の魔力と正面からぶつかって消え失せる。


(スローヴィアも魔力自体は使えたし、Aクラスなら魔力は扱えて当たり前なのかも)


 エカテリーナにとっては幸運だった。小学生である以上、魔法主体の戦い方なら意表を突かれるようなことはまずない。


 何か目に見える驚異があるとすれば、サラの持つ杖だ。


 エカテリーナの目は捉えていた。サラが、わざわざ杖を通して魔力を撃ち出したのを。エカテリーナの持つペンダントと同じような、魔力の補助をするアイテムである可能性が高い。


 サラの運動能力は基本的に自分よりやや劣っているとエカテリーナは見立てる。翼がある分、その差はさらに開くはずだった。


 杖の効力が魔力補助かどうかは実際まだ解っていない。だが、このままでは何も変わらないのも確か。覚悟を決め、サキュバスは翔ぶ。漆黒の翼をはためかせ、ダークエルフに向かって一直線に。


 杖から水弾が撃たれるが、身を捻って回避。すれ違う水弾に一瞬目を向けたが、おかしなところのないウォーターボール。すぐにサラに目を戻す。


「っ!?」


 エカテリーナの目の前に、サラの姿があった。両手で構えた杖が、既に横薙ぎに振られている。


 エカテリーナの腹部に強い衝撃。その挙動に全く反応出来ず、クリーンヒットを受けた身体がくの字に曲がり、吹っ飛ぶ。


 一瞬暗転する視界。復帰した時にはサラが放った追い討ちの水弾が迫っていた。それを無理やり捻り出した魔力で防ぎ、エカテリーナは吹き飛ばされた勢いのまま地面に身を転がす。


「っ、ゲホッ、ゲホッ」


 乾いた砂がエカテリーナの呼吸器に害をし、目を刺した。


「危な、かった……」


 もし追い討ちもウォーターボールだったなら、エカテリーナは防ぎきれずにダメージを負っていた。サラも焦っていたのか、追い討ちにはウォーターボールの半分ほどの魔力しか込められていなかったのが救いとなった。


 サラは変わらぬ無表情で、エカテリーナの方へ走ってくる。その速度は、さほど速くない。


「くぅっ……!」


 身を起こす為に力を込めると、打撃を受けた箇所がズキンと痛む。苦痛に顔を歪め、翼を利用して身を起こした。


 エカテリーナは素早く風を起こし、巻き上げられた砂煙をサラに送り込む。目を庇い立ち止まったサラの隙を突いて、シェイドを放った。


 砂に視界を奪われ、サラにはシェイドが認識できていない。エカテリーナはヒットを確信。そして、直撃する。


 シェイドはエカテリーナが最も使ってきた魔法。その構築も速く、威力も精度も高い。小学生相手なら一撃で沈められるはずだった。


 だが。


 砂塵さじんが晴れる。そこに、ほとんど無傷のダークエルフがいた。左目を擦っているが、本人に傷はなく、ローブすら破けていない。


「嘘でしょ!?」


 あり得なかった。サラが魔力で防いだ様子はなく、間違いなくモロに直撃を受けた。にもかかわらず彼女は平然としている。なんのダメージも受けていないというのは、さすがに異常だ。


 エカテリーナの驚きと焦りが消化しきらない内に、サラが次の手を打つ。


 牽制のように左手から水弾を放ち、それがエカテリーナに届くよりも速く、彼女はエカテリーナに肉薄する。


(またっ!?)


 杖で殴打された時と同じ、瞬間移動とも思える速度での移動。再び、サラは杖を振り抜く動作に入っている。


 左からは杖での物理攻撃、右からはやや遅れて水弾。


 エカテリーナは、瞬間的に右を選択した。水弾を防御しながら膝を屈め、杖の軌道から外れた。サラが躊躇ちゅうちょなく振り抜いた杖が、エカテリーナの頭の上スレスレを通過する。


 かわしきれたことを確認したエカテリーナは、腹部の痛みを堪えながら膝を伸ばす。そのまま跳び上がるようにサラの腕を殴りつけ、杖を吹っ飛ばす。サラの手から離れた杖は、放物線を描きながら闘技エリアの端まで飛んでいく。


 能面だったサラの表情が一変する。驚きに目を見開き、焦りを滲ませて杖の行く先を視線で追う。


 エカテリーナは見逃さない。自分から視線が逸れたと認識した瞬間、手に魔力を込めてローブを乱暴に掴む。


「しまっ……!」

「遅いよ!」


 サラが自らの犯したミスに気づくが、もう遅い。エカテリーナの両手が輝き、烈風が吐き出される。その風圧で、サラは杖と反対側の壁に叩きつけられ、地面に力なく倒れ伏す。


 エカテリーナは、杖の前に立ちはだかった。試合終了の合図がないということは、まだ試合は終わっていない。追い討ちをかけることも選択肢にあったが、それよりは再び杖を握らせないことを選択する。


(あの顔……この杖が彼女の強さの秘密で多分間違いない)


 きっとそう。私の言えたことじゃないけど、じゃなかったら子供があんなに魔法を連発出来るわけないもん。


 もしかしたら、私のペンダントのようなモノじゃなくてもっと高度な……精霊が宿っていたりするのかも。もしそうだったら困るから、私が手に取るわけにはいかないけど。


 エカテリーナは、真反対にいるサラの様子を窺う。よろよろと立ち上がってローブのほこりを軽く払っていたが、大きなダメージを負っているようには見えない。


 油断せず、エカテリーナは身構える。対戦相手のダークエルフは瞬間移動のような何かを使える。もしそれが杖による能力でないなら、今もって彼我の距離などないものと同じ。


 負ったダメージを確認し終えたサラが、その右手に魔力を集めた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ