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「全裸に追われる幼女達」

 





 結局、エカテリーナはレイピアを見つけられなかった。辺りに自分達の争いの痕跡は残っていたものの、それだけがなかった。


「どうしよう……」


 あんなものがまた誰かの手に渡ったら、大変なことになる。自分の詰めの甘さに後悔が込み上げ、歯噛みする。だが、いくら悔やんだところで問題が解決に向かうわけでもない。彼女は探すのを諦める。こうなったら、先生に言った方がいい。


(あ……)


 よくよく考えてみれば、エカテリーナが見つけたとしても結局大人に相談しなければならない。最初から大人を連れてくるべきだった。


「勢いで行動しちゃってるなあ……落ち着かないと」


 歳の割には落ち着いているというのは周囲も認めている。だが、現状に満足しない女、常に上を目指す女がエカテリーナ・テレサである。


 それはともかく、一旦帰って報告しようと考えていた彼女の耳に、ある声が届く。耳馴染みのある、小さな女の子の声。


「エリーーーー!」

「アクリア?」


 視線を向ければ、ブック川の方角からアクリアが走ってきている。砂煙を上げながら走る姿が実に彼女らしい。


 アクリアは、エカテリーナの目の前まで来て急停止。もくもくと煙が辺りを包み、エカテリーナは目を覆い咳き込む。


「あっ、ごめんニャ」

「けほっ、けほっ……ぅあーん、目ぇー……」

こすっちゃダメニャ! 目に砂が入ったら大変ニャ!」

「煙上げながら走ってきた人の言うことじゃないよ!?」


 エカテリーナは水属性魔力で目を洗い、風属性魔力でもくもくと上がるほこりを払うことで、ようやくアクリアと落ち着いて話が出来る状態に。


「んんっ……それで、何してたの?」

「魚獲りニャ」

「魚?」

「ウチは魚が好きニャ」

「それで、自力で獲って……もう食べたの?」

「そうニャ。クロノスの瞳は便利だニャ」

「なんだか、その目がスゴいんだかスゴくないんだか解んなくなってきたよ……」


 エカテリーナとしては、もっともったいぶって欲しかった。こんな日常の一コマでそんな使い方をされるなんて、クロノスの瞳も思っていなかったに違いない。


「エリーこそ何してたニャ?」

「あ、そうだ。あのレイピア、知らない?」

「見てないニャ。それを探しに?」

「うん……大丈夫かなあ」


 アクリアはあまり不安そうにはしていないが、エカテリーナは不安で仕方ない。その剣で斬られる側も、斬る側も辛いなんて、エカテリーナからしてみれば最悪の代物だった。もう、誰にもあんな思いはさせたくない。


「大人に任せればいいんじゃないかニャ?」

「そんな面倒事、引き受けてくれるかな?」

「言ってみるだけならタダニャ」

「……それもそうだね」


 悩んでいても仕方ないと2人が寮に帰ろうとした、その時。耳をつんざくような悲鳴が辺りに響き渡った。


「きゃああああぁぁぁぁ!!」


 その声に2人仲良くビクッと反応し、顔を見合わせる。今の声、聞き間違いでないのなら。


「スローヴィア……?」

「ローヴィはさっきまでブック川にいたニャ!」

「じゃあ、やっぱり!」


 お人好しの魔族達は、一も二もなく駆け出す。全力で、悲鳴の上がった方へ。


(……あれ? いつの間にローヴィなんて呼ぶほど仲良くなったんだろ?)


 エカテリーナの疑問は、投げ掛けられる前に霧消する。今はそれどころではないのだから。






 結論から言って、エカテリーナとアクリアが到着するまで、スローヴィアは無事であった。


 突如として川から現れた()()の存在に戦慄せんりつし、大きな悲鳴を上げながら腰を抜かしていたものの、ケガもなければ誘拐されてもいない。本人はまったくの無事。


「来ないで!! 嫌ぁ……!」


 スローヴィアが()()を見る目に宿すのは、ただ1色の恐怖。他の色の入り込む余地の一切ない、理解できないモノへの恐怖。


 彼女の懇願こんがんむなしく、()()は哀れな少女へゆっくり近づいていく。その瞳に無垢な少女だけを映しながら。


「あっちに行って! 来ないでぇ! ……誰か! 誰かぁ!」


 スローヴィアは、誇り高き悪魔族である前に、1人の小さな女の子。その恐怖から逃れようと、悲痛な声音で必死に助けを求める。


 その叫びに、幸運にも反応があった。スローヴィアの背後から、レスキューは現れる。


「スローヴィア!?」

「どうしたニャ!!」


 エカテリーナ。そしてアクリア。天を裂く叫びに駆け付けた2人はまず腰が抜けて動けないスローヴィアを見て、とりあえず生きていること、気を失っていないことを確認。それから()()の存在に気づき、


「「きゃああああぁぁぁぁ!?」」


 揃って悲鳴を上げた。本日2度目の女の子の悲鳴が、辺りに響き渡る。


 そこにいたのは、全裸の男だった。






 というわけで、少女達は走っている。スローヴィアも心強い(?)仲間を得たおかげでなんとか足腰を立たせ、3人でひたすら逃げる。学校の敷地へ逃げ込むべく、一心不乱に地を蹴った。


「追っかけてくるよ!?」

「振り向いてはいけませんわ!」

「本物の変態だニャーー!」


 全裸の男が、逃げ惑う小学1年生を追う。そんな構図、魔界でも1発レッドカードだ。男はなかなかの肉体美を誇るインキュバスで、服さえ着ていればおかしなところのない普通の魔族に見えたことだろう。しかし残念ながら、彼は葉っぱ1枚すら身に付けていない。


「ボクは怪しい者じゃないYO!」

「喋ったよ!?」

「あれが怪しくないなら魔界に変質者はいなくなりますわ!」

「全裸の変態だニャーー!」


 男から逃れる為、少女達は必死に走る。生命の危機に瀕した時、生物は自身の限界を超えた力を発揮するという。彼女達が感じているのはどちらかといえば貞操ていそうの危機だが。


「龍族やスライム族だって全裸じゃないKA!? なのにボクは理由も聞いてもらえNAI!? それは差別というものDA!」

「それっぽいこと言ってるよ!?」

「耳を貸してはなりませんわ!」

「とにかく逃げるしかないニャーー!」


 3人は、とにかく走った。何も考えず、学校を目指して。酷使された脚が上手く動かせずとも、魔力で強引に補強して必死に走る。しくもこれが、アクリアの蓄積魔力使用初体験であった。


「違うんDA! 見て欲しいモノと、それについて訊きたいことがあるだけなんDA!」

「「「いやあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」」」


 あまりに長い距離に感じた学校への道のりだったが、ついに助けを求められる学校が見えてきたというその時、


「あっ!?」

「スローヴィア!?」

「ローヴィ!?」


 スローヴィアの運が尽きた。つまづき、転んでしまった彼女に、全裸が息を荒くしながら近寄る。エカテリーナもアクリアも、恐怖で助けに行くことが出来ない。


「ハァ……ハァ……お嬢、SAN……」

「あ……あぁっ……!」

「スローヴィア! 早く逃げて!」

「ローヴィ!」


 それはまさに絶体絶命。これからスローヴィアを襲うであろう悲劇に、エカテリーナとアクリアは思わず固く閉じた目を逸らした……。






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