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「2つの『知らせ』」

 




「新入生トーナメントのお知らせ?」


 そんな通知がのエカテリーナの部屋に届いたのは、入学式から1ヶ月ほど過ぎた頃だった。寝起きの目を擦りながら時計に目をやれば、針は既に10時を回っている。


 いつかのように封筒をビリビリと破く。今日は休日で、アクリアは遊びに行っているらしい。どこに行くのかはエカテリーナには教えてくれなかったが。


「そういえば、遊ぶところとかあるのかな」


 入学してからこっち、ずっとアクリアの勉強に付き合っていたから知らない。敷地の外には川や低い山があるのは知っていたが、敷地の中のことはほとんど解らない。広すぎて敷地全体の地図を見る気にもならなかったが、そろそろちゃんと見るべきかもしれなかった。……どこに行けば貰えるのかも知らないが。


 意識を通知に戻す。


『新入生トーナメントを開催します。通知を受けた新入生は強制参加のイベントなので、覚悟しろ』


 最後で丁寧語に嫌気でも差したのか。その辺りは不明だが、とにかくエカテリーナはこれに参加しなければならないらしい。


『トーナメントルール ちゃんと読め。


 1、通知を受けた新入生は強制参加。不参加はクラスの降格。既にCクラスの者は退学。

 2、トーナメント参加者は、当日ランダムでマッチングされる相手と1対1で闘う。

 3、どちらかが戦闘不能になった時点で試合は終了となる。

 4、魔力や特異体質による能力の使用、武器の持ち込みは自由。

 5、故意に観客に被害を与える行為のみ、反則負けとする。それ以外の反則は原則として無し。

 6、当日は相手を殺すつもりで挑んでも問題ない。

 7、優勝者には賞品の贈与がある。ありがたく思え。』


 開催は再来週で、場所は訓練場だという。賞品が具体的になんなのかは書いていないが、たとえいいモノだったとしても彼女は気が乗らなかった。


「闘う……うーん、闘うのかぁ」


 まず、攻撃をしたりされたりしたら痛いよね? 殺すつもりでいい、ってことは死なないような措置そちが取られると思うけど、でも痛いとは思う。それは嫌。


 それに、きっとこの間の決闘の時みたいに注目される。それも、どちらかと言えば嫌。恥ずかしいもん。


「でも強制かぁ……」


 エカテリーナが嫌だと思っていようとも、拒否権がない。あるにはあるが、退学と引き換え。


「んー……」


 なんとか逃れる術はないか考えたが、全ての授業に出ているから字が読めないフリは通用しないし、通知に気付かなかったフリも出来ない。


「はぁ……」


 深めの溜め息。本当に字が読めない子や、本当に通知に気付かなかった子はどうなるのか気になったが、それもどうでもいいことだ。


「……練習、しとこうかな」


 独り言を呟きながら、机の引き出しから青い宝石のペンダントを取り出す。


 両親から貰った、魔力を内包しているというペンダント。入学してからまだ身に付けておらず、彼女はそもそも使い方も解らない。自分以外のモノから魔力を取り出して自分のモノとして使う……未知の領域だ。


「よしっ」


 ペンダントを引き出しに戻して、エカテリーナは学校の図書室へ向かうべく、着替え始めた。トーナメントは再来週、だからといって授業をサボる気はないし、これを使うのを諦めるという選択肢も彼女にはない。


「私が優勝するんだからっ!」


 コン、コン。


「はーい? ちょっと待ってくださーい」


 着替え始めたところだったから、パンツが丸見えだ。そんな状態で出るわけにはいかず、そそくさとパジャマを穿き直してドアを開ける。


「どちらさ……アクリア!?」

「エリー……」


 そこには、元々閉じられていた右目を押さえるアクリアの姿があった。指のすき間から血が流れ出て、床にポタポタとシミを作る。


「どうしたの!? ううん、それよりすぐ、すぐに保健室行かないと!」


 よく見れば、右腕にも切り傷がいくつかある。中には結構深そうなモノまであった。保健室へ連れていく為に手を引こうとするエカテリーナを、アクリアは引き止める。


「ま、待つニャ……」

「どうして!?」

「保健室には行くニャ、でも、伝えなきゃいけないことが……」

「いいから! どうしてもって言うなら、歩きながら話して!」


 有無を言わさず、エカテリーナはアクリアを引っ張って歩き出す。


「エリー……気を付けるニャ……」

「何に!」

「…………スローヴィア」

「スローヴィア? スローヴィアにやられたの!?」

「そうニャ……っ」


 ふつふつと怒りが溢れてくる。スローヴィアは卑怯だ。私が憎いなら、私に報復すればいいのに! なのに、自分より弱いと思ってアクリアを狙って!


 彼女の傷を見るが、流血があまりに痛々しく、思わず目を逸らす。何故、アクリアばかりがこんな目に遭わねばならないのか。


「……ねえ、スローヴィアは今どこにいるの」

「……解らないニャ。ウチはブック川に行くつもりで……その途中でいきなりアイツが道をふさいだニャ」


 彼女が言うには、スローヴィアが突然目の前に現れ、何か用事でもあるのかと思っていたら突然レイピアで斬りつけられ、実力的に劣るアクリアはその足を生かしてなんとか逃げ帰ってきたとのことだった。


「でも何か……様子が変だったニャ」

「変?」

「この間までとは何かが違う……アイツじゃないみたいだったニャ」


 アクリアの口調はまさに「なんと言えばいいか解らない」というそれであり、話す側に解らない違いがエカテリーナに伝わるわけもない。それに今、エカテリーナの頭はとにかく一刻も早く保健室へ行くことしか考えていない。


「エリー、今のアイツとは戦っちゃダメニャ……」

「今はそんなことよりアクリアの治療が先! もう着くからね!」


 エカテリーナにとってはやっと、保健室へ辿り着く。血だらけのアクリアを治療してくれるよう一言だけを添え、すぐにそこを後にした。身をひるがえし、ブック川の方角目指して走る。アクリアを待ち伏せていたその場所で、彼女を2度も傷つけた犯人はきっと待っている。


(よくも……!)


 エカテリーナは、怒りに燃えていた。かつて、自分が近所の子供に石を投げられたことがあった。しかし、当時からそんなモノはどうだってよかった。怖くはあったが、仕返しをしてやろうなどとは欠片も思わない。自分が嫌だと感じたのだから、きっと相手もそう感じるに決まっている。


 今回は、少し違う。大切な人を傷つけられた怒りで彼女の心は満たされ、2度とそんなことさせてなるものかと固い決意を胸に抱いている。これ以上、アクリアに辛い思いはさせない。……その為に、スローヴィアには少しだけ痛い目を見てもらう。


(スローヴィア・グランサーフ……!)


 エカテリーナの大切な友人は、大きなケガをした。エカテリーナの友人であったというだけで。素直で、でもこんなひねくれた魔族の自分と友達になってくれた、小学校初めての友人。


「絶対に、許さない!」


 不条理な暴力を振るった少女への怒り。全てを受け入れる闇のごとき黒い翼の少女がえた。優しさを生まれもった魔族たるエカテリーナ・テレサは、友をこれ以上傷つけさせないと誓いながら、一滴ひとしずくの涙を流した。






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