「小学生の日常」
エカテリーナとスローヴィアの決闘があってから数日、エカテリーナに対してちやほやしてくる者はほとんどいなくなった。
理由は簡単。エカテリーナがあまりに変人だから。寄ってくる魔族の新入生に対してバカ正直に自分の思想を語っていたエカテリーナは、今や「強いが、頭のおかしいヤツ」というレッテルを貼られていた。正確にはレッテルとは言わないのかもしれないが、いずれにせよ市民権は得られなかった。
「エリー、あんなに綺麗事並べてたら友達出来ないニャ」
「うん……よく解った……」
実力はあるが、稀代の変人。噂で聞いたり、資料で見る分には憧れも抱けようものだが、そんな変人に実際に会えば友達になろうとは思わない。
「でも、アクリアは一緒にいてくれてるね?」
「ウチはエリーといると楽しいからニャ」
「ありがとっ」
裏を返せば、楽しくなかったら一緒にいないし、いずれ楽しくなくなってもきっと同じことなのだろうが、そこまでは訊かなかった。
あれから、2人はスローヴィアを見ていない。エカテリーナは連日勇んでAクラスに突撃したが、誰に訊いてもちょっとスローヴィアを小バカにするような口調で「アイツなら来てない」と言われた。
「謝りもしないでどっか行っちゃうなんて!」
約束もしたのに。そう憤慨していたのはエカテリーナだけで、アクリアにはそんなことを気にしている様子はなかった。
「いいニャ。それより、今日も読み書き教えてニャ!」
アクリアの興味は、専ら勉強に向いていた。曰く、「読み書きさえ出来れば語学の授業がサボれるから、その間別のことが出来るニャ」とか。どうやら、最低限覚えたらそれでいいらしい。
そうは言うものの、アクリアはエカテリーナと一緒に全ての授業に出ている。エカテリーナにやたら懐いている猫。彼女は、周囲にそんな印象を与えた。
「じゃあ、今日も私の部屋来る?」
「行くニャ!」
放課後になっても、エカテリーナの部屋でアクリアは勉強に励む。少しずつ、少しずつ。バステトの少女は力をつけていく。
しかし、好ましいことだと思う反面、エカテリーナにはアクリアに対する疑問もあった。寮へと帰るべく教室を出て、校内を歩きながら問う。
「ねえアクリア?」
「なんニャ?」
「アクリアは勉強好きなの?」
「んー……嫌いニャ」
素直な性格とはいえ、アクリアも魔族。やりたくもない勉強がなぜ続けられているのか、エカテリーナは知りたかった。強制されてもいないのに。
「でも、サボらないで続けてるよね?」
「……多分、独りだったらサボってたニャ」
アクリアは珍しくポツリポツリと話す。その寂しげな雰囲気が気になったが、エカテリーナにはそれは訊けない。
「ウチは、エリーと一緒に勉強するのが好きニャ。楽しいニャ。エリーとなら、嫌いな勉強も少しは楽しくなるニャ」
ホントは遊びたいけどニャ。と末尾に付けて、バステトの少女は小さく笑う。
そんなつもりはなかったが、理由としては十分すぎるモノが聞けた。エカテリーナも心からの笑みで返し、アクリアを抱きしめる。
「ニャッ!? なんニャ!?」
「も~、可愛いなあアクリアは~。もふもふしてるし~」
「どうしたニャ! なんかキモいニャ!」
「嬉しいから今日は勉強のペース上げちゃう!」
「それは嫌だニャ!」
ニャ~~~、という猫の悲鳴が、校舎に響いた。
「読めた?」
「ムム、も少し待ってニャ」
ところで、エカテリーナは授業以外で勉強に励まないのかといえば、そうでもない。
アクリアと自習をするにあたって、エカテリーナはまず図書室で3 冊の本を借りた。1冊は魔族の種類が大まかに記された本。1冊は魔界の観光書……エカテリーナがあの青年に貰った物と同じ本だ。最後に、辞書。
アクリアは唸りながら観光書を読んでいる。1つのエリアを読み終えたら、彼女にそこは何という場所なのか、どういった場所なのかを説明させる。一般的な表現が多いため出てくる言葉が実用的で、ついでに現代魔界のことを2人とも知ることが出来る一石二鳥の勉強法。
もう1冊、魔族の大まかな種類の記された書は、もちろんアクリアが読み解く間の時間にエカテリーナが読む為のモノだ。
「出来たニャ!」
「じゃあそこのことを教えて」
読み解けた時には必ず「出来た」と叫ぶし、耳と尻尾が天に向けて屹立するので非常に判りやすい。
「ここはハリカナ湖ニャ。無害な魚モンスターがたくさんいる平和な湖で、釣りをする魔族が多いニャ」
「ふむふむ」
「ただ釣りをするのは平気ニャ。けど、魚達を乱獲したらヌシが出てきて怒るニャ」
まるでツアーガイドのような語り口でハリカナ湖について解説してくれる。
「ヌシは、イルオザルメイルっていう水竜のようなモンスターで、怒らせると助からないニャ」
既に洞窟や火山など、何ヵ所かの解説を聞いているが、ザルグェイアスのような強力なモンスターはどこにも1体以上存在するらしい。
アクリアは楽しそうに解説をする。エカテリーナは、そんなアクリアを楽しそうに眺める。それがここ最近の定番の光景だ。
「以上ニャ!」
「おおー」
エカテリーナが拍手を送る。実際にエカテリーナが本を確認してみても、ほぼ間違っていない。文字は読めるし、辞書の使い方をきちんと覚えてきたようだ。
「ニャ……エリー、そっちの本も気になるニャ」
「これ?」
「読みたいニャ」
魔族図鑑、とでも言うべきその本にはメジャーな種族があらかた載っている。魔族というのは種類があまりに膨大なため、本当にメジャーなモノしか載っていないが。
「今、ここ見てたんだよ」
「あ……くまぞく? 悪魔族ニャ?」
「よく読めました」
もふもふの頭を撫で回すと、アクリアは気持ち良さそうに目を細めた。
「多分これ、スローヴィアの種族じゃないかなって」
「あの金髪ニャ!」
『悪魔族は人型の魔族であり、純粋な種族の中では優秀なステータスを誇る種である』
つまり、エリートということだとアクリアに教える。ついでに、スローヴィアの名前も一応覚えてあげようね、とも。
『豊かな才能から、何をさせても大きな成果をあげる。史実に残る著名な魔族の中でも、悪魔族は特に多い』
「やっぱりスゴいんだって。有名人にも悪魔族が多いみたい」
「スロベニアはエリーに負けたけどニャ」
「スローヴィアね」
『また、血が混ざることを基本的に嫌がり、別の種族とはそういった関係をほとんど持たないのも特徴』
「ニャ?」
「悪魔は、悪魔としか結婚しないんだって。ほとんど、って書いてあるから少しはいるんだろうけど」
「じゃあ、コロンビアも悪魔としか結婚しないのかニャ? まあアイツはプライド高そうだしニャ!」
「アクリア、名前覚える気ないでしょ」
「スナイパーのことはいいニャ! ウチとかエリーのことを見るニャ!」
「「ス」しか合ってないよ……」
と、言いながらもサキュバスのページを開くエカテリーナ。そのページを勉強の為にアクリアに読ませると、アクリアは大笑いし始めた。
「な、なに? 変なこと書いてあった?」
「サキュバスは、えっちな種族だって書いてあるニャ! エリーはえっちだニャー」
「ちょっ!? やめてよ! 違うもん!」
「ニャハハハハ!」
「もう! アクリアがそういう態度なら、もふもふしちゃうもんね!」
「やめ、やめるニャ! くすぐったいニャ!」
1人で眠るには大きすぎるベッドも、2人で暴れるには狭すぎる。勉強はきちんとするが、結局途中からこうなって、何度も転げ落ちて頭をぶつけながら、2人は眠くなるまで遊ぶ。
それが、エカテリーナとアクリアの日常になりつつあった。
今回で10万文字を突破しました。ここまで続けてこれたのも、読んでくださる皆さん、ブックマークを下さっている皆さんのおかげです。ありがとうございます。
エカテリーナの年齢的にも、ストーリーはまだまだ序盤もいいところ。最後までお付き合い下さるとありがたいです。……あっ、感想とか気軽にくれて、いいんですよ?
そして予告。ここから先、どんどん面白くなります。楽しみにどうぞ。




