「メインヒロイン、エカテリーナ」
ザルグェイアスをなんとか振り切って仰向けに転がる2人は、汗だくになりながら笑いあった。
「なんとか……はぁ……安心だね」
「あぁ……あー、死ぬかと思ったぜ」
エカテリーナは、生きていることを肌で感じる。昨日感じたような血生臭いモノじゃない。どこか清々しくて、生きることを素直に嬉しく思えて……気持ちよかった。
(カトルと……誰かと生きてるからかな?)
多分、そうだ。私とカトルは協力して、助け合って生き延びた。手を繋げば、怖くない。
「リーナ、命を奪うことは、まだ怖いか?」
怖くないわけない。そんなことしたいとは思えない。……でも、それが必要になる時がきっと来る。悲しい、ことだけど。
「怖いよ……怖いけど、自分が死ぬことの方が怖い。大事な人を守れない方が、もっともっと怖い」
「じゃあ、強くならないとな。リーナなら力を持っても、使い方を間違えたりはきっとしないさ」
自分達を、まだ草食モンスター達が遠巻きに見ている。どうやら肉食モンスターはいないらしい。
「水場、解んなくなっちゃったね」
「夢中で走ったからなぁ……」
「それに、ファイロウシエッタは?」
「疲れが取れたらまたゆっくり探すかー」
「今寝ちゃ、ダメだよ?」
「へーきへーき、寝ねーよー」
そうは言うが、エカテリーナこそ疲れていた。横になっていると寝てしまいそうで、身体を起こす。
強くなろうと、決意する。カトルやディロンさんを護れるくらい、強くなる。
「いつか、カトルを護れるくらい強くなるから」
「おう。楽しみにしてるぜ」
エカテリーナの力強い決意に反し、彼女に倣って起き上がったカトルの内心はとんでもないことになっていた。こんなにも親しくなった女子は、彼の人生21年で初めて。……彼の中で、残念な妄想が止まらない。
(なんだこれ、超2次元リア充っぽくね? これはあれだろ、離れ離れになった後、10年くらいして大きくなったリーナと感動の再会、しかも強くなってて、その上超美少女パターンのやつ。であれだよ、会えない時間が育んだ恋心がだな、え待って、ということはもしかして既にルート入ってるのかあぁぁぁ!? いやでも魔界は広いから他にも魅力的な女の子に巡り会う可能性もなきにしもあらずで、だったらせっかく転生してチート紛い(条件付き)の体質も得たんだし無双して全員虜にしてハーレムエンドもあるよな! ズバリ、タイトルは「魔界に転生したけど魔法が使えなかったので刀だけで無双します」だなこれは売れますよ奥さん!)
「第一部、完!」
「ひゃあっ!? な、何!?」
「え、あ、なんでもないんだ、ははは」
乾いた笑いで適当に誤魔化す。実際にはそんなことはないとカトル自身思ってはいるが、メインヒロインが1人くらいは欲しいというのも本音で、それがリーナだったらいいなとも思う。
魔族って、なんか冷たいっつーか、人間の感覚とはあまりに違うから、魔族としては異常なほど優しいこの子くらいしか、オレとは価値観合わなそうなんだよな……。
(結婚かぁ……オレもその内すんのかね?)
不明瞭な未来のことを考えてもよく解らない。カトルは自分の人生経験が足りないからかとも思ったが、実際未来のことをきちんと考えられる者など、人間の中には1人たりともいないだろう。
「リーナは……もうすぐ小学生だろ?」
「うん。勉強を教えてくれる所なんでしょ? 楽しみっ」
うへぇ、勉強するのが楽しみって……いや、小学校入学前はオレもそんな感じだった気がする。結局いい思い出はほとんどないし、魔界の小学校にも人間のオレは通えないけどな。
「小学校はな、辛いぞ」
カトルはちょっと脅しをかけてみる。が、エカテリーナは何が辛いか解らないという顔で首を傾げた。
「魔界の小学校はな、寮生活なんだ」
「りょー?」
「まさか、知らないのか?」
「? うん」
マジかよ……。この子にとってはそれが1番辛いだろうに、知らなかったのか……。
「寮ってのはな、学校とか、会社の近くに作られた大きな家だ。たくさんの小さな部屋がある。そこに住むわけだな」
「じゃあ、小学校の近くに住むの?」
「パパやママとは離れてな」
普通の魔族がどう感じるかは知らないが、リーナに限って言えばホームシックになりそうだなとは思う。それはそれでいい経験だと思うけどさ。
「私平気だもん」
「へえ~?」
「その目は何!?」
「べっつに~」
どうだか、という気分でカトルはいる。誰だってそうなる前はそう言うものだと、彼は知っている。
さて、ここまではカトルの仕組んだ前座だ。本当に言いたいことは、ここから。気持ち、居住まいを正す。
「今のってさ、中身のない会話だよな」
「そう、だね?」
ちょっとピンと来ないか。まあニュアンスで伝わればいい。このまま進めよう。
「気楽で、楽しくなかったか?」
「楽しかった!」
……っ、なんだよいい笑顔しやがって。幼女相手なのに、ちょっとドキッとした。
「それが、友達ってもんだ」
「?」
オレには、1度死ぬまで友達らしい友達はいなかった。でも、ノブナガ(心の中で呼び捨てにしてるのは内緒だぜ?)の所にいる魔族とか、近所の子とは仲良くやってる。
「楽しいってのは、いいことだ。だからさ、小学校ではちゃんと友達を作れ」
「友達……たくさん必要かな?」
必要とか不必要とかではないんだが……まあ、その辺は言葉より体験する方が解る。言葉は余計だな。
「ま、その内解るさ」
「ん……解った」
ワシャワシャとリーナの頭を撫でる。髪が傷んできててもったいないから、出来るだけ早く帰してやろう。
それから……もう気取らなくていいよな?
オレ今、めっちゃ主人公っぽくないかああぁぁぁ!? フラグ立ってるだろこれええぇぇぇ!
人間の転生者、カトル。彼もまた、ノブナガに劣らず残念な面があることは否めない。
結局、夜になるまでファイロウシエッタを探し回ったが、見つけられなかった。どんなモンスターなのかをエカテリーナが問うた時も、「ペンギンみたいなヤツ」とカトルは説明した。実はエカテリーナは昨日見かけているのだが、ペンギンを知らない為、伝わらなかった。地面に絵も描かせたが、カトルは壊滅的に絵のセンスがなく、やはり伝わらなかった。
仕方なく、夜を明かすことにする。2人で隣の木の洞に入り込み、眠る。明日は頑張って早くに起きようと約束して。
だが、2人は楽しく時間を過ごしすぎていた。だから、警戒心が薄れ、それに気付かなかった。2人を影から覗いていた者がいたことに。
さらに、ザルグェイアスから逃げるというハードな運動をしたせいで子供の身体は肉体的に疲れており、眠りも深くなってしまっていた。だから、眠りに就いた子供を穴から引っ張り出して抱え上げられても目覚めることがなかった。
筋肉ダルマのような肉体を持った大男が、カトルとエカテリーナを両肩に担いで森の外へと歩いていく。その男の種族は、オーガ。肉体労働を基本とする種族。その男が、ニヤリと笑う。
「まさか、木材調達に来てこんな収穫があるとはなァ……」
こうして、2人の子供は誘拐されることとなった。




