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「異世界の転生者」

 




「テンセイシャ?」


 聞き慣れない単語に、エカテリーナは首を傾げる。しかし、カトルは彼女をからかっているのではなく、真剣そのものだった。


「魔族……だよな?」

「うん」

「君は、魔族にしては優しい子なんじゃないのか?」


 それも確かにあっている。けれど、なんでそんなこと解るんだろう? 知らない単語も飛び出すような会話。エカテリーナにはカトルに何故そんなことが解るのかなど、全く推測もつかない。


「元々、現代人なんじゃないのか、って思ったんだよ」

「???」


 テンセイシャ、ゲンダイジン……エカテリーナのみならず、魔界の誰に訊いてもそのほとんどが聞いたこともないと答えるような単語が次々出てくる。


「……本当に、違うのか?」

「うん。テンセイシャ、とか、ゲンダイジン、って言葉の意味は解らないけど、多分違う」

「そう、か……」


 違うというエカテリーナの断言に、カトルは少しがっかりしたような顔をする。


「ねえ、カトル。その……あなたのお話、聞かせて」

「えっ……転生の話か?」

「うん。少しは、気が楽になるかも知れないし……私のせいで、落ち込ませちゃったし……」


 カトルは思う。こんな小さい子に気を遣わせてしまったのか、オレは。……この子なら、おそらく人間なんかよりずっと優しいこの子になら、話しても平気かもしれない。


 少年は、少女に解るように言葉を選びながら話す。


 自分は元々「日本」という異世界の島国で生きていて、小学校中学校とイジメに遭っていた。


 高校は知り合いのいない遠くを選んで入学したが、そこでもイジメの標的にされ、それを家族に訴えたものの「お前の心が弱いからだ」等と見放された。


 味方のいない、クソみたいな人生。そんなある日、通学に使っていた電車をいつものように待っていると、突然背中を誰かに押され、電車にはねられて死んだ。


 次に目が覚めた時には、この魔界になんの手違いか人間として生まれていた。しかも、前世の記憶を残したまま、人間としては破格の戦闘能力や特殊な能力を持って……。


「せっかく特別な存在に生まれることが出来たんだから、オレは魔界で最強になる為に生きてる」

「その、私もニホンから生まれ変わったんじゃないか、って思ったんだね?」

「ああ。モンスターを倒せる子供なんて、転生者でもないと無理だって考えて」


 つまり、カトルは精神的には20歳と少しということになる。しかも、生まれ変わった自身の能力は魔界でもやっていけるほど秀でており、5歳にしてはかなり強いらしい。


「あれ? でもどうしてこの森に?」


 カトルは苦笑いを返した。


「人間のオレを家においてくれてる人が「なんかファイロウシエッタが食べたい! カトル、ちょっと生け捕りにしてこい!」って言い出してさ」


 まあ、オレなら1人でも十分だからさ。と、腰に差している剣を軽く叩いて鳴らした。それが彼の1番の武器なのだろうとエカテリーナは推測する。


「そっか……すごいんだね、そんなことを任されて」

「まあ、実際は21歳だからな」


 2人で笑いあう。久しぶりに他人と話し、エカテリーナは気持ちが軽くなるのを感じる。なんだかんだ、独りは寂しかった。


「水場を探そう。女の子がそんな血まみれじゃよくない」


 カトルが立ち上がり、手を差し伸べる。もちろん、エカテリーナはその手を握ることを躊躇ためらわなかった。






 水浴びが出来るような場所。これだけ広い森だから多少はあるはずなのだが、意外と見つからなかった。時間はまだ大丈夫ではあるのだが。


 歩きながら、エカテリーナは自分のことを話す。自発的に言い出したわけではなく、カトルが聞きたがったのだ。とはいっても、平凡な種族の平凡な家庭に生まれていたし、特筆するようなことはロクに友達がいないことと、一応魔法が使えることくらいしかない。


「魔法が使えるのか! すごいな!」

「そ、そう……?」


 面と向かって褒められると照れる。思わず変な笑いが漏れてしまいそうで、恥ずかしくなる。どうも、カトルは魔力はあるが魔法は使えないらしい。


 安心した。ここにはモンスターがいるから、子供同士一緒にいたところで危険なことに変わりはない。けど、誰かといるだけでこんなにも心強い。


「でも、水場なんて本当にあるのかな……」

「ある」

「でも、こんなに探してるのに見つからないよ?」


 昨日も一昨日も、水場は見ていない。存在しないんじゃないか。エカテリーナはそう思うが、カトルは自信を持ってあると言い切った。


「ここには、モンスターがいる。モンスターといっても、水を飲まないと生きていけない」


 だから、水場がない地域にはモンスターが生息しないのだとか。洞窟でも山でも、モンスターがいたなら、どこかしらに水の溜まっている場所はあるのだとか。


 カトルと並んで歩く。時計を見れば、あと30分ほどでモンスター達が活動を開始してしまう。


「ねえ、もういいよ。私はこのままでも」


 エカテリーナは無理しない方がいいと思った。水場を探して、もし見つけたとしても、ファイロウウルフがやって来たら結局水浴びどころではない。


「水場の近くに、出来ればキャンプを張りたい」

「きゃんぷ?」

「うーん、なんだろ、拠点……なんだけど……」


 上手い言葉が見つからない。拠点では伝わらなかったらしく、エカテリーナはまだ考えている。少年は別の言葉を探す。


「そこを、一時的な家みたいにするってこと。森の中を探索しても、夜にはそこに戻ってくるんだ」

「なんでそんなことするの?」

「迷わないように、それから、水が確保出来るようにかな」


 まさに今もそうだが、水場を1度離れてしまうと、探すのが大変だ。だから、水場を見つけたらそこから目印を付けつつ移動し、戻ってこれるようにするのだとか。


「でも、水なら私が出せるよ?」

「でも、蓄積魔力には限りがあるだろう? いざって時の為、あまり使わない方がいい」


 なんだか、彼はそういうモノの管理にすごく慣れている。自分の昨日の行動を思い出して、恥ずかしくなった。


「危険な所に入る時には、先に計画を立てておいて、落ち着いて行動するのを心がけるといいよ。……って、エカテリーナは落ち着きのある子だから言うまでもないか」


 ケラケラと笑うカトル。昨日、周りが見えなくなるほどモンスターとたわむれてたってことは黙っていよう。


「あっ」

「どうした?」

「あれ……」


 エカテリーナは、森の奥に光を見つけた。あの白い光は、何かが光を反射している光。水場がある。


「でかした! 時間は?」

「あと20分くらいはモンスター達も寝てるはず」

「じゃあ、せめて身体の血糊ちのりだけでも落としなよ」


 駆け寄って見ると、池のようだった。水は澄んでいて、一番深い所でもエカテリーナの胸の辺りの深さしかない。理想的な水場だ。


 そこで、カトルに周囲を警戒してもらいながら、エカテリーナは服を脱いで水に浸かる。絶対見ないでよ、と厳命して。


 こびりついていた血液が肌から消えていく。昨日の、あの光景は忘れることが出来ない。独りだったら、気持ちが押し潰されるか、普通にモンスターにやられるか、あるいは飢え死にしていたと思う。しかし、カトルが一緒にいてくれたら、この森でなんとかやっていけるかもしれない。そんな気になってくる。まだ実力は見せてもらってないけど。


 脱出の糸口が、希望が少し見えてきた。




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