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「戦争の気配」

 





「リーナ、今の蓄積魔力量はどのくらいだ」

「えっと、最初に魔力を使った時の3回分です」


 魔法基礎の教科書をリーナに持たせ、外に出る。いずれも念のためだ。

 何倍、という表現はまだ知らないらしい。後でそれとなく教えておくべきか……。いや、あまり言葉を覚えすぎても近い歳の子と話がしにくくなるかもしれない。7歳になればこの子も小学生だ。年相応の言葉遣いというのも子供同士のコミュニケーションの上で必要だろう。ただでさえ孤立しそうだというのに……。いや、今はとりあえず魔法だ。


「まずは闇の最下級魔法のページを開け」

「はいっ!」


 嬉しそうな表情でパラパラとページをめくっていく。初めて正式な魔法を教えてもらった日。小学校時代……300年以上前のことだが、あの日のことはよく覚えているし、その時のワクワク感を上回るワクワクは未だ出会ったことがない。


「えっと……シェイド。闇の最下級魔法。闇属性魔力10以上を球形に固定し、魔力による加速をかけ、対象に向けて飛ばす……ファイアボールやウォーターボールと同じですね」


 初めて魔力を放たせた時、この子の魔力は球体で飛んでいった。形を固定していなくとも初期状態が球体をしていたのは、リーナの中の魔法のイメージがその形であったことに他ならない。ファイアボールは家庭で最も利用される魔法の1つだからだろうな。


「それをマスターだ。その為に、まずは魔力で球形を作る必要がある」

「えっ? 私、魔力で自然に球作って飛ばせますよ?」

「それは知っている。だが、形を固定することに魔力を多く使う必要が「闇属性には」ある」

「闇属性、には?」


 ディロンは含みのある言い方をする。まるで他の属性ではそれらは必要ないかのような言い方を。


「火や水、土には実体がある。だから、形の固定が多少雑でも届かせたい場所まで飛ばすことは難しくない。だが、風、闇、光には実体がない。適当では、対象に届く前に簡単に空気に溶けて消えてしまう」

「あの……実体って、どういう意味ですか?」

「ああ、すまない。……そうだな……触れるか触れないかの違いだ」


 火を生み出す、水を生み出す、土を生み出す。これらは、蓄積魔力が体外に出た時点で実体を得、コントロールをやめれば重力に従って落下するし、辺りを燃やしたり、濡らしたりし始める。これらはたとえ形が固定されてなくとも、いきなり空気に溶けて無くなることはない。


 だが、風、闇、光には実体がない。空気の流れ、明暗に過ぎない。それらは球体としてぶつけた際に密度が高ければ殺傷力に繋がるが、そうでなければ「なんか風が吹いてる」「なんか暗い」「なんか明るい」にしかならず、また霧散むさんもしやすい。もちろんあえてそういう使い方をすることも出来るのだが、シェイドはそういう魔法ではない。


「火って、触れるんですか?」

「熱くてたまらないだろうがな」

「それに……闇属性が空気に溶けちゃうなら、固定する魔力が闇属性だとダメなんじゃ……?」


 魔力というのは、かなり万能だ。イメージした現象を現実として引き起こすことが出来る夢のようなエネルギーで、未解明の部分も多い。


 「魔力を包む殻を魔力で作る」ことを意識すれば闇属性でも空気中で形を維持出来る魔力へと変質するし、身体強化エンハンスのように身体の負担を肩代わりさせることも出来る。要するに。


「魔力を出す際に、その目的をきちんと決め、イメージすることだ。イメージさえ出来れば、シェイドくらいならなんとなくで出来る」

「じゃあ……」


 シェイドの手順は、


 1、形を固定する為の魔力を浮遊させる。

 2、その中に、闇属性の魔力で球を作る。

 3、飛ばす為の魔力を出して、飛ばす。


 と、いうことになる。魔法というのは、言葉で説明するとつくづく面倒な存在だ。


 面倒臭がりな者の多い魔族の中で、理屈や理論を理解して魔法を使うものなど少ない。ほとんどが見よう見まね、なんとなく。それでも、意外と皆それっぽく出来ているのだ。


「まあ、この木材を狙ってやってみろ」

「……よーし!」


 エカテリーナ、5歳。いよいよ魔法の練習が始まる。






 エカテリーナがシェイドの練習を始めたその頃、広い魔界の、遥か遠く、別の場所。


 その場所は、魔界の中でも特に禍々(まがまが)しい雰囲気を辺りに撒き散らしていた。


 城。形や見た目だけなら中世西洋風の城にすぎないが、外を見張りのように飛び回るガーゴイルやヴァンパイアが、魔界らしさを、危険な場所を演出していた。


 その城の最奥。玉座の間に、1人の青年がいた。細身の人間男性のような姿を装っているが、人間ではない。その姿を彼が気に入っているだけだ。


 青年はその整った顔立ちを微笑みに固定し、頬杖と共に玉座に腰かける。人間に近い姿、固定された表情、気だるげな頬杖……どこかディロンを彷彿ほうふつとさせる。


 青年の前に、1体のガーゴイルがひざまずく。ガーゴイルは、元は石像であった物が堕天使によって意思を宿されたことが起源の魔族。牛のような顔に、翼を持った二足歩行の者が多い。


「ご到着されたようです」

「んー、そっか。じゃあ、ここに通して」

「はっ」

「あと、2人だけにしてね。ダメだよ?聞き耳とか立てても僕には解るからね……」

「かしこまりました」


 ガーゴイルが、玉座の間を去る。青年には、自分が呼びつけた客が城に到着したことは既に解っていた。彼でなくともそれを感じ取ることの出来る者は多いだろう。騒々しいのだ、魔力も、本人も。


 ガーゴイルが出て行ってから数十秒。突如玉座の間の扉が、大きな爆発によって破壊された。両開きの扉の1枚が、まるで()()かのように青年に向かって真っ直ぐ飛んだ。


 勢いと速度を持って青年の身体を両断せんと迫る扉は、しかし青年に届くことはない。


 闇。突如現れた深い闇にその扉は呑み込まれ、闇と共に霧散しながら世界に溶けた。


 青年は指一本、眉一つ動かさず、にこやかに玉座に寄りかかっている。


「危ないじゃないか」

「うるさーい! なんなんだ! いつもいつも嫌なタイミングでアタシを呼び出して! このたわけ!」

「それは偶然だよ」


 来客とは、少女だった。見た目は、人間の中学生くらいの女の子……に、悪魔の定番、山羊やぎの角が付いている。メルヘンでファンタジーな奇妙な衣装を身にまとい、これまた奇妙なステッキを持っている。


 その姿を端的に表現するならば、魔法少女。魔界には似つかわしくない……いや、ここは「めっちゃ浮いてる」と言った方が適切だ。もっとも、人間界でも天界でも浮いた存在にはなろうが。


 魔法少女は怒りをあらわにしている。その理由と言うのが、


「前々回は! 魔界デパートの福袋の販売日! 前回は! 大好きなバンドの引退ライブの日! 今回は! オマエが寄越よこした伝令がアタシの集中を削いで! あと1枚で完成だったトランプタワーが崩れてしまった! オマエはいつもアタシの邪魔をする!」


 そういうことらしい。別に青年はそんなタイミングを狙っているわけではないのだが。どうにも2人は噛み合わない。


「だから彼、帰ってこなかったんだね。……それでも、君は呼んだら必ず来てくれるじゃないか。僕は「何を差し置いても来て欲しい用事だ」なんて言ってないのに」

「なっ! そ、それは……アタシにも、色々あるっていうか……」


 魔法少女は照れ出す。頬を染めてひとしきりもじもじした後、誤魔化すようにビシッとステッキを突き付ける。


「そ、それで! 今回は何の用だ!」

「うん。実は、もうすぐ天界が動くみたいなんだよね」

「ほほう? ヤツら、まだ懲りないのか!」


 魔法少女は偉そうに腕組みをする。漫画なら背景に「ふんすっ!」などとポップな書体で描かれそうだ。


「若いやんちゃな子の派閥があるとかないとか」

「はっきりせんな!」

「その若い子が意外とそれっぽく支持を集めてて、ちょっとした団体になってるらしいんだ」

「魔界に来るのか? いつ?」

「さあ? ただ、その団体の中ではその気運が高まってるらしいから、勢いで来るかもね」

「愚かだな! 自らの手勢だけで魔界を落とせるものか!」


 それは青年も思う。支持を集めてしまったその若者とやらは、自分に力があると勘違いしているのだろう。完全に酔っていて、正確な判断が下せなくなっている。


 魔法少女は興奮している。「攻めて来ないかな、戦争したいな」というのが見え見えだ。青年も、本当に攻めてこられて不意打ちで無駄な被害が出てもしゃくだからこうして彼女に伝えている。


「その時は、協力してくれるかい?」

「もちろんだ! 敵の好きにはさせん! 若造め、徹底的に潰してやる!」


 ノリノリだ。これなら大丈夫だろう。天界から攻勢があっても、彼女は察知して素早く対処に向かってくれるはずだ。


(んー、でももう1人くらい欲しいんだよねえ)


 天界や人間界が本気で攻めてくるならともかく、今回のようなケースなら青年と少女だけでもなんとかなる。それどころか、青年1人でも追い払えるだろう。声をかけた何人かの内、召集に応じたのは彼女だけだったが、彼女がいれば特に不安はない。


 だが、彼が想像するメンバー……今回声をかけた中の誰かや、あるいは所在不明の何人かの内の誰かが、もしあと1人いてくれたなら。それなら魔界に一切の被害を出さず、さらには天界の軍勢を1人も逃がすこともなく、残らず消滅させることが出来る…………完全試合パーフェクトゲームになる。


 くく、と喉を鳴らして笑う。どうせゲームをするなら、パーフェクトにしたい。その完膚なきまでに叩きのめした後の征服感は、どんな愉悦にも勝る最高の快感だ。


「じゃあ、アタシも少し天使の気配に気を配っておこう! 久々の戦か……楽しみだな!」


 魔法少女はウキウキしながら帰ろうとする。……おそらく、気分が晴れたからトランプタワーをやり直すのだろう。


 僕は扉を直さないと……いや、多分城内もだろうなあ。それを考えると青年は少し気が重い。だが、そんなことは表に出さず、微笑みのまま魔法少女に告げた。


「頼りにしてるよ。第六天魔王……ノブナガ」






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