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「光の残像」

 




 1つの岩塊が荒野に叩きつけられた。岩塊は地面もろとも砕け、身を切り裂く巨大な刃と化し、ディロンに襲いかかった。


 男はその全てを避ける。光の線を描きながら。地竜も自身に近付かせまいと、魔力の岩を追加する。


 迫る光の残像。その上から、下から、正面から、背後から。あらゆる方向から無数の質量を飛ばし、潰しにかかる。


 ディロンはそれらをかわし、時には砕き、その距離を詰めていく。


 魔力の削り合いだ。ダロスは岩を生成しぶつけることに、ディロンは自身にかけたままの身体強化エンハンスに、それぞれ魔力を消費し続けている。先に尽きてしまえば、負ける。だが。


(この勝負、我が有利……!)


 この男、我を殺すのを避けている。なんのつもりかは知らないが、先ほどから殺気が感じられない。我には解る。これは熟練の戦士が殺気を隠しているのではない。本当に殺す気がないのだ。


 であれば、この男の狙いは我にギブアップをさせること。手加減した上で我に勝ち、あのサキュバスを諦めさせることがヤツの目的。


 それに対し我はヤツを殺す。手加減などせん。大体、我は動きが鈍い。こんなに遠くまで投げ飛ばされてしまったのだ。この男を気絶させてその間に町に戻るなど、そんな素早く動くことは出来ない。だから殺す。


 ディロンがあと1ステップで打撃の射程圏内、という距離にまで肉薄し、右足で地面を蹴るその瞬間。


「死ぬがいい!」


 ダロスが、大地を掴む足の裏から魔力を強引に地面に放射する。辺りの地盤がめちゃくちゃに裂け、そのひずみがディロンの右足に空を切らせた。右足に体重をかけていたディロンの身体はバランスを崩し、一瞬前につんのめる。


「くっ!」


 体勢を崩しても、目線はダロスに向けたままだ。ダロスは既に口を開き、岩弾の発射体勢に入っている。このままディロンが何もしなければ直撃コース確定で、この至近距離でまともにあれを食らったら、いくら身体強化エンハンスをかけていても大ダメージは免れない。


 岩というのは厄介なもので、対抗して魔力をぶつけて砕いたとしても、粉々に出来なければその欠片が飛び散る。硬い皮膚を持つダロスはそんなもの意にも介さないだろうが、ディロンにとってはそうはいかない。


 ディロンの体勢は崩れている。このタイミングでは、真正面から粉々に砕くことは出来ない。だから。


 前につんのめった身体。ディロンは前に出ている右手で素早く地を掴み、左足にかける身体強化エンハンスをさらに追加する。


 岩弾が、発射された。ディロンは右手を軸に、翼も利用して身体を強引に回転させた。身体強化エンハンスが集中した左足で、目の前に迫る岩弾を側面から蹴り飛ばす。


「バカな!?」


 彼方へと飛んでいく魔力の塊を見送らず、ダロスの驚愕する顔も見ず、ディロンはその身を一回転させ、素早く体勢を立て直す。そのまま真っ直ぐ地を蹴り、左の拳を地竜の胸に一撃、叩き込んだ。


「が……っ!」


 硬い皮膚を持っていようと、ダメージが全く通らないわけではない。意表を突くカウンターにあったダロスは思わず空気を吐き出す。


 だが、追撃は許さない。よろめきそうになる身体を強靭な精神力と魔力で無理矢理その場に留め、ディロンに反撃の拳を振り抜く。


「く……っ! 貴様ぁ!」

「…………」


 だがディロンは、それを容易たやすく受け止めた。自分よりも遥かに大きく、質量もあるはずのダロスの拳を、片手で掴み、ホールドしている。


「っ!」


 ディロンが一瞬息を詰め、逆の拳を連続して叩き込む。身体強化エンハンスを施された拳打の連続。その衝撃は、岩のように硬質な外殻ゆえに、また、受けられホールドされた拳ゆえに外に逃げていかず、ダロスを揺さぶる。


「あの子には近付くな」


 ディロンは口を開いても殴るのはやめない。光の残像を残す拳が、一撃一撃に重さを乗せて立て続けに放たれていく。無論、それをまともに受けているダロスに返事をする余裕などない。


 ディロンはダロスの目をじっと見る。まだ、戦意の光が失われていない。彼が殴るのをやめたら……いや、隙があれば反撃に転じてくるだろう。さすが地竜、そして魔王といったところか。


 最初からディロンは手加減している。もし本気で殺しに行っていたなら、ダロスは今頃小さな田舎町に死体を晒しているし、それでなくともディロンは身体強化エンハンスをほとんど体力の温存にしか使っていない。魔力が疲労を肩代わりしているだけで、自分の限界を超えた力は出していない。


 そんな風に加減はしているが、まだ戦意があるならなんとかしてそれを折らなくてはならない。


 ディロンは殴り付けるのをやめ、ホールドしていた手も放す。即座に魔力を雑に込めた拳が飛んでくるが、後方に飛び退いてかわした。ディロンは言う。


「思い切り魔力をぶつけに来い」

「何?」

「それを俺が真正面から潰す。そしたらお前はあの子を諦めろ」


 ディロンはこう考えた。思い切り魔力を込めた一番の大技を止めれば、いくら変態と言えどさすがに諦めざるを得ないはず。そうでなくとももう魔力が尽きているのだからボコボコにしてやればいい。


 この発言に、その自らが勝てる前提の態度に、ダロスは身体をわなわなと震わせる。


「いいだろう……跡形もなく消してくれるわ!」

「……小物っぽいセリフだ」


 怒り狂う地竜から魔力が立ち上る。その口を大きく開き、腕を地につけ、四足で身体を支える。


 こんなに溜めのある動作、敵と相対している時には使えるわけがない。ダロスが放とうとしているのは、城や要塞を落とす際に使い、実際にいくつもの要塞を一撃で沈めてきた技。


 土属性が付与された魔力が、ダロスの口を起点として平行に渦を巻く。周囲の土が巻き上げられ、固められ、いくつもの岩塊がダロスの周囲に浮き上がっていく。


 それらは1つに固まることなく、無数の巨大な岩塊としてダロスを取り巻いていく。巨大な地竜は息を大きく吸い込み、


「オオオオアァァァ!!」


 竜の咆哮ほうこうとともに、魔力を吐き出した。50を超える無数の岩塊が、ダロスの吐き出した魔力の勢いそのままに……音速でディロンを潰さんとする。


 土煙を上げながら、ディロンのいた地に質量が降り注ぐ。要塞を一撃で沈める威力。たかだか人型の魔族が耐えられるはずもない。


(まあ、防御はしているのだろうがな)


 そこまでバカではあるまい。が、防御込みでもこれを正面から受けて無事で済むはずがない。よしんば生きていても、そのまま我がケリをつけてしまえばいい。


 だが、砂塵が徐々に晴れたそこには、何食わぬ顔で岩塊をどけ、服のほこりを払うディロンの姿があった。傷を負っているようには、見えない。


「!?」

「約束だ。諦めろ」


 あり得ない光景に思わず瞬きをしたダロス。目が開かれた瞬間には、ディロンはダロスの目の前で既に右腕を振りかぶっていた。力は込められている。ディロンの右ストレートが、防御も回避も間に合わないタイミングで殻の薄い腹部に向けて振り抜かれる。


 何百メートルを飛ばされ、意識を失っていく地竜に認識出来たのは、光の残像が描いた、黒い服の男が駆けた軌跡だけだった。




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