「ロリコン(?)VS露出狂(?)」
ディロンは、ダロスを引き付けて町から離れられるよう考えた。こんな町中で戦闘するなど、周りへの被害が計り知れない。事実、ダロスの初撃によって図書館が半ば崩れている。
(だが……すぐに移動させるのは容易ではないな)
地竜の特徴は、その硬い身体。岩を固めたような厚みを誇る皮膚は、大きな質量を持つ。質量の大きな身体ということは、即ち素早く動かすことが出来ないということ。攻撃を避けながら誘導し、町の外に辿り着くまでに、多くの岩弾が町に降り注ぐことになる。
横っ飛びに飛んだディロンがダロスに目を向けると、ダロスは既に次の岩弾を吐き出す体勢に入っている。また避ければ、次は町に被害が出る。……迎撃するしかない。体勢を立て直す。
岩弾が、発射される。圧倒的な質量の塊が、圧倒的な速度でディロンを真っ直ぐ潰しに来る。
「ふ…………っ!」
一息。迫る岩弾に右の拳を真正面からぶつける。魔力によって作られ、ディロンに迫っていた岩が、塵のように砕け散る。
ディロンは隙を見せなかった。砕けた岩に紛れ、俺の姿はヤツからは見えないはず……。素早く前に身を躍らせ、ダロスの背後に回る。地竜は気配を感じたのか、振り向く動作に入るが、既に遅い。
「おおおぉ!?」
ディロンにその巨大な尾を掴まれた地竜の巨体が、浮き上がる。
「っ!」
ハンマー投げの要領で、ダロスを振り回す。回して。回して。回す。地竜に遠心力が加えられていく。
「うおおぉぉぉ!」
吼えた。烈烈たる気迫とともに、魔王を投げ飛ばす。狙うは町の外。コイツが自力で速く動けないのなら、俺が動かしてやればいい。そう考えたのだ。
巨大な地竜が、夕刻の空を飛んでいく。高く、放物線を描きながら。ディロンは自身の翼で飛翔し、その後を追う。投げた物体よりも速く移動するのは困難だ。追ってはいても徐々に距離の離れていく魔王を見失わないよう注目しながら、ディロンは考える。
(さて、どうするべきだ……?)
ディロンの目的は、ダロスがエカテリーナに近付くことを諦めさせることだ。殺してしまってもいいが、そこまでする必要もないと感じている。
無力化……いや、服を着ない変態をリーナの近くで野放しにしておくのは俺が不安だ。半殺しにしよう。
私情の込もった理由で、ディロンは半殺しに決定する。もちろん、龍族に服を着る文化がないことも、着られる服がないことも理解している。
そもそも俺は、戦いが好きではない。だというのにあのマッパ、硬いのだ。上手いこと半殺しになるように調節するには長期戦も覚悟しなければならない。
まず、殴る。そして、俺の声が聞こえている内にリーナを諦めると約束させる。聞き分けが良ければ五体満足で帰してやってもいい……か。
方針を決定したところでディロンは翼に魔力を込め、加速する。地竜は空を飛べない。空中で体勢を立て直す術を持たないどころか、あんな高さに身を置いたこともなかろう。ただただ、ディロンが投げた通りの放物線を描いて飛んでいくのが見える。
上手く投げられたようだ。このまま行けば町の外、荒野に着地する。
基本的に、魔界は不毛の地である。町があろうとも、成長していける草木があろうとも、魔界の大地の大半はやはり荒野なのだ。
長い空の旅をした地竜が、再び大地に帰還する。少し遅れて、ディロンも着陸する。
砂だらけになった地竜は、しかしその身に傷一つない。何事も無かったように身体を起こす。頑丈さが売りの種。そして、魔王を名乗るだけのことはあるようだ。
「ここなら、遠慮なく戦える」
「町を巻き添えにしたくないとでも言うのか……くく、甘い男よ」
「……マッパで常に硬い……お前のような卑猥なヤツは野放しに出来ない」
「その言い方をやめろぉ!」
ダメだ。こんな卑猥なヤツをリーナに見せるのはまだ早い。いくらあの子がサキュバスといってもだ。
ディロンは、その身に魔力を纏う。身体強化。身体の一部に魔力を乗せることで、その部位にかかる負担を魔力に肩代わりさせ、自身の身体能力の限界を超えた力を使うことが出来る。
「…………」
「光……? だと……?」
黒服の男の得意属性は、光。その魔力を纏う彼の身体が淡く発光する。
「…………」
「貴様、一体何も」
の、と言おうとしたダロスだったが、言い切らず首を捻る。反射的な行動。自称とはいえ、魔王たる彼は、戦の経験も豊富。身体に染み付いた回避や防御の判断は、簡単には失われない。
淡い光を放つ右の拳が、顔面すれすれを通過する。ダロスは左手に魔力を集め、ディロンに向けて乱暴に放つ。回避の為の緊急措置。その土属性の魔力は男を捉えない。光の筋を残し、ディロンが後方に飛び退く。
(この男……意外と出来るな……)
ディロンは、地竜のの顎先を狙って拳を振り抜いた。しかも、彼が喋っている最中にだ。基本的に、生き物は息を吸いながら集中することが出来ない。息を吸うその一瞬は、明確な隙。実際、ディロンが動いたのは「貴様、一体何者」の「一」のタイミングだった。しかし、それでもダロスはギリギリのところで回避してみせた。
(ペラペラと喋る余裕はない、か)
ダロスは首を鳴らし、気を引き締めている様子だ。魔王を自称するその竜が、淡く輝く黒い司書を見据える。
「たかだかちんけな田舎町の男と侮っていたが……戦のつもりでいかせてもらおう!」
2人だけの荒野で、魔族が激突する。




