プロローグ
大雨の中、夜空に浮かぶのは黒い飛行戦艦。
壁面にあるいくつかの小窓の一つだけに、小さな灯りはともっていた。
ロウソクの火がゆらゆらと揺れる。
薄暗い部屋の一角にあるデスクで、男は積み上げられた書類に目を通していた。
無表情に淡々と文字を読み流していく様は、まるで機械のよう。
切れ長な蒼い瞳を休めることなく、男は淡々と書類を読み進めていた。
「あの、シキさん。そろそろお休みになられた方が……」
戸惑いがちに声をかけたのは、椅子の横に控えていた大柄な男。
その男は、自信のなさ気な垂れ目を心配そうに細める。
大柄な男の問いかけに、ようやっと仕事を終えたシキ=リリナートは息をついた。
「すまないな。先に休んでいてもよかったぞ」
「い、いえっ、そんな!」
書類の整理を始めるシキに、大柄な男――エディル=メイアは安堵のため息をつく。
「なかなかに厄介な案件ですね、こいつは」
エディルはそう言うと、表情を引き締め不満そうに眉根を寄せた。
そんな彼を視線だけで一瞥し、シキは無言で資料に目を落とす。
資料に載っている男の写真と、その男が引き起こしている数々の事案。
それらに再度目を通して、シキは資料をデスクに置いた。
「いくら性悪貴族の屋敷だからって、上層部の許可もなしに潰していくのは、違反行為です!」
何も言わない上司に、エディルはますます不服そうに目を細める。
そんな部下の憤りに、シキは目頭を揉みながら立ち上がった。
「今日は早い。お前ももう休め。それとあまり大声を上げるな。みんなが起きる」
「えっ……は、はい。すみません……」
あまりにも呆気ないシキの反応に、エディルはバツが悪そうに頭をかいて奥の部屋へと消えて行く。
彼の後ろ姿が見えなくなるのを確認すると、シキはもう一度先ほどの資料を拾い上げた。
まだ年若い青年の写真と、数多の破壊活動の経歴。
「破壊者、か……」
蒼い瞳を一瞬揺らめかせて、シキは雨の打ちつける小窓の外――暗闇の彼方を見据えた。




