僕は、出会いたい
僕ちは生きる意味を探して散るに続く恋愛作品です。
恋愛小説としては、二作品目です。カクヨミの作品とはまるで違うジャンルですがこちらが私の世界観です。
いたらない点は、ありますがよろしくお願いします
僕は空に恋をしている。空は留まらない、自由に生きる。空はいろんな表情を僕に見せてくれる。あぁ、それはとても恋しいものだ……
「こらぁー宮坂、宮坂 結城! 何…… 窓の外見てる!」
静かに芸術を磨くはずの美術室に怒号が響く。周りは、作業を中断して僕の方を見てくる。周りの蔑んだ目が痛い。
「は、はい。す、すみません……」
僕は訳が分からないまま反射的に頭を下げた。
「分かっているの? 高校最後のコンクールの予選の締め切りまであとわずかなのよ!」
美術部の顧問である西園寺 薫が女なのに男勝りの口調でカレンダーに書いてある八月三十日をバンバンと叩いてる。
「分かってはいるのですが……」
八月三十日は、西園寺先生が言うように高校生最後のコンクール。夏に野球の甲子園あるように美術にも秋の甲子園がある。それが十月三十日に行われる全国高校生絵画コンクールだ。このコンクールには、全国から選び抜かれた絵が集まる。もし、ここで優秀賞でも取ったら将来は約束されるだろう。しかし、現実はそう甘くない…… まず、この甲子園を出るためには予選を通過しなければならない。そして、予選の絵の締め切りが八月三十日なのだ。
「予選の絵はできたのか? 結城!」
そう言って西園寺先生は、睨みつけるように僕の真っ白なキャンバスを覗き込む。
「ほぉー 斬新な絵だな。真っ白の絵とは」
「ははは、そうですかね!」
僕の肩に西園寺先生の手がポンと乗る。明らかに西園寺先生の手には力が入っている。
「先生は好きだぞ、そういう絵。でもな、今年のテーマはなんだった宮坂?」
西園寺先生がさらにキリキリと手に力を入れる。顔が笑顔なのが不気味だ。
「確か、絵のどこかに人物をいれること?」
そう、今年の絵は写実ではなく人物描写なのだ。空を愛する僕にとってそれは苦手分野だった。
「そうだな…… よくわかってる。で、君の絵のどこに人がいるのかな!?」
西園寺先生は、僕の白いキャンバスを指差して言う。もう僕の肩は、握りつぶされそうだ。これは、虐待ではなかろうか。周りからはクスクスとした笑い声が聞こえてくる。
「さぁーここでしょうか?」
キャンバスの端っこにちょこっと書いた、棒人間を指した。美術部で人を書けと言われて棒人間を書くのは僕ぐらいであろう。だが、僕にとって人を書くというのは棒人間を描くぐらいの芸術欲しか生まない。実際、人を描くことがあってもそれは景色という主人公を引き立たせるための脇役にすぎない。
「ほぉー 宮坂。お前、私をバカにしてるのか……」
西園寺先生の笑顔ががピカソの有名作品『ゲルニカ』のように怒りを表現しはじめた。
「ちょっ、ま、待って下さい! 今、案を考えていた途中で……」
「案に困ってるなら外に出て案を探しこい!」
僕は肩ごと引っ張り上げられて美術室からつまみ出された。つまみ出すときに、僕にスケッチブックと鉛筆を持たすのを忘れない西園寺先生はさすがだと思う。
「はぁー 案を探せと言われてもなぁ……」
気だるい思いをしながらトボトボと一人で学校の廊下を歩く。放課後の学校の廊下は、いつも騒がしく生徒達が行き来している廊下とは思えないほどに、シーンとしていた。
「しかし、この学校は広すぎるだろ」
僕の学校、県立水嶌学校は県のなかでは五本の指に入る進学校で文武両道を掲げている。しかし実際、力をいれているのは部活動であろう。運動から芸術まで全部で22個の部活動を抱えており、スポーツ推薦での入学も認めている。その幅広い部活動のおかけでグラウンドが二個、体育館二戸を備え持つ県一土地面積が広い学校になった。
長い廊下を抜け、一階へとつながる階段を下りていく。段々と土の臭いが混じってくる。六月終わりの独特の湿度によるむさくるしさに負けない、運動部の掛け声が聞こえてくる。
「何か、いい材料が見つかるかも知れないな」
僕は下靴に履き替え運動場へ歩き出した。服にたまった暑さを逃すように襟元をパタパタと仰ぐ
―― 何回目の材料探しだろうか……
自分は、決してコンクールに対してやる気がないというわけではない。僕なりに三年間頑張って絵を描いてきたし、絵も好きだ。ただ、その気持ちに比例して人を描くという意欲が湧いてこない。
「ふぅー 外は暑いな」
スケッチブックをうちわ代わりに自分に向かって扇ぐ。うちわの風が汗を冷やし、一時の涼しさを味あわせてくれる。僕は自分を仰ぎながら、いつもの定位置に座り込んだ。その場所は木陰で体を休められ、運動場全体を見渡せる素晴らしい場所だった。もっとも、運動場全体を見渡せるのは最近気づいた。この場所の一番は、空がよく見えるということだった。
「今日の空も美しいなぁ……」
太陽が傾き始め、ほんわかと茜色に染まる空。やっぱり、人ではこの表情を描くことはできない。そう思ったら僕は、鉛筆を手にとってスケッチブックに空を写実しはじめた。空は一瞬一秒で表情を変える。僕は当初の目的を忘れて、今見た片想いの空の表情を頭に焼き付け書き上げた。
「や、やっぱり空はいい!」
自画自賛してしまう作品が出来上がった。僕は彼女のようにその絵をハグした。部活動の練習中で人目も多かったが気にしなかった。リア充どもは人目の前でイチャつくことを躊躇するだろうか…… 否! そう、僕は今リア充なのだ!
「やだ…… 誰、あれ?」
「シッ、早く行きましょ!」
何人かのバレー部らしき女子がそんなことを言って僕の前を通りすぎて言った。しかし、声を生で聞くとやはり恥ずかしくなるもんだ。僕はすぐにスケッチブックを体から離した。
「さて…… 帰るか」
また今日も真っ白か……
現実を見ると憂鬱な気分になる。最後にもう一度運動所を見つめたとき、僕は一人の女の棒高跳びの選手が棒を傍に置き準備しているのが目に入った。
「今から飛ぶのか…… 」
僕は何気なく、その選手に目がいった。金髪のロング髪の毛を後ろで一本に束ね、真剣な眼差しで前に立ちはだかるバーを見つめている。陸上部のユニフォームに身を包み、胸は心細いが露出したお腹はスポーツ女子らしくパッカリと割れている。ガッ、ガッと地面にスパイクのつま先をあて調子を確かめ、手首と首をクネクネして柔軟する。そして、近くにあった滑り止めで手を真っ白にして棒を持つと彼女は助走に入った。
タッ、タッ、タッ、タッ
陸上のトラックに刻み良い足音が響き渡る。
ガシッ
彼女がボックスという棒を支えるところに棒を刺すと、
ギシ、ギシ、ギシ
彼女の負荷により、棒が今にも折れそうなぐらいしなり始めた。棒が力を溜めている証拠だ。
グイーン、グッ、グッ
棒がしなりの限界を越え、人を空高く備え付けられたバーまで人を導く。
「ここまでは、芸術を感じるんだが」
僕は棒高跳びの選手を書こうと思ったことがある。完璧な助走、完璧な棒のしなり、完璧なフォームが出来ないと決して飛ぶことが出来ない。理不尽で脆く、芸術に繋がる所が思った。けれど……
「人間が棒を離し、バーを越え空に舞い上がるときがな」
高跳びの選手が空へと舞い上がったとき、彼らがちっぽけな存在に 見えてしまう。人がメインの今回のコンクールでは、不適合なのだ。まぁ、これも僕が空を愛してる証拠なのだが……
―― 空ぐらい自由で、空にも負けない存在感ある人がほしい ――
ズバッ
彼女がバーを越えようとしていた。棒高跳びの基本的な動作、伸展からターンへと体が流れていく。
―― なんだ……?
僕にいつもと違った感覚が流れる。どうして今僕はこの選手を見ていたんだ? いつもならあの瞬間は空しか見えないのに……
ドン
彼女が背中からマットに落ちる。
「やったぁー!!」
彼女が声を上げる。バーは、綺麗に静止したまま止まっている。彼女は先程の彼女とは別人のように、まるで生まれたての赤子のように喜んでいる。
―― あの時、僕はどちらを見ていただろうか。 空か彼女か…… ――
蝉が鳴き始めた7月1日梅雨の名残を残しながら今日も収穫なし……
コンクールの締め切りまであと2ヶ月。
これから、随時更新していく予定です。またのご来店をお待ちしております