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ルームメイト  作者: けせらせら
8/44

2-3

 食事会は2週間後の土曜日に行われることになった。

 招待することになったのは恵美と忠志、浦沢加奈子、そして加奈子とも仲が良い設計課の安村剛史の四人になった。安村は忠志の後輩でもある。ただ、招待といっても以前は皆、会社の同僚としてよく遊びに行っていた仲で、奈津子を紹介する場といったほうが近いのかもしれない。

 奈津子は大量の食料品を買い込み、前日から本格的にスープ作りをはじめている。人並みには料理をこなすことの出来る涼子でも、奈津子の料理に関する知識と手際の良さには改めて驚かされていた。

 夕方になって――

「あと2時間しかないわ」

 奈津子は困ったような声を出していたが、その反面表情は明るかった。

「本格的ですね」

「せっかく涼子さんのお友達が来てくれるんだから少しこだわりたいんです。それに毎日の食事の献立ととはまるで違うものを作れるから楽しいんですよ」

 奈津子は心から嬉しそうにキッチンを動き回っている。

 涼子は少しそわそわしながら、それを眺めていた。

(忠志さんがここにくる……)

 恵美との結婚式以来、忠志とはまともに顔を合わせたてはいなかった。きっと忠志は、もう自分に対する想いなどすっかり忘れていることだろう。それなのに自分だけが、あの頃の関係にこだわり続けている気がして嫌だった。

 ひょっとしたら奈津子が恵美たちを招待してくれたのは、自分にとって良いきっかけになるかもしれない。いずれ実家に帰ることは決まっていても、あと一年はこのまま仙台に残るつもりでいる。その間、ずっと二人を避けて過ごすわけにはいかない。

(早く忘れなきゃ)

 これを機会に、忠志のことをふっきりたかった。

「私、リビング片づけますね」

 涼子は奈津子に声をかけると、リビングの掃除をはじめた。とは言うものの日々、奈津子が奇麗に掃除してくれているので、ほとんど片づけるものなどなく、ほんの少し掃除機をかけるに留まった。

 珍しく奈津子の部屋のドアが開いているのが目に入った。部屋の窓が見える。そこからベランダに奈津子の布団が干されていることに気がついた。夕陽を浴びて、白い布団がうっすら赤く色づいている。奈津子は料理を作る忙しさで布団を取り込むのを忘れているようだった。

「奈津子さん、布団取り込んでおきましょうかぁ?」

「すいません、お願します」

 キッチンから反応があった。

 涼子はベランダに出ると、ぽかぽかと温かい布団を奈津子の部屋へ運びこんだ。

 奈津子の部屋に入るのは、彼女がここに引っ越してきてから初めてのことだった。恵美と一緒に住んでいた時も、お互いのプライバシーを大切にするために相手の部屋には出来る限り入らないようにしていた。

 部屋のなかには薄い黄色のカーペットが敷かれ、折畳みのパイプベッドと腰の高さまである木目調のチェストが置かれているだけで、他には殺風景ともいえるほど何もなかった。引っ越してきたときとほとんど何も変っていない。

 ふとチェストの上に飾られた写真に視線を奪われた。

 若い男性が小さな子供を抱いている。子供はまだ一歳にも満たないような愛らしい顔で笑っていた。

(誰だろう……)

 写真の右下に印字された日付から、それがわずか半年前のものだとわかる。

 奈津子の恋人かもしれないと思ったが、その手に抱かれた子供のことが気になった。

(不倫……? それとも離婚?)

 今まで知らなかった奈津子の過去の一部をちょっと覗いてしまったようで、涼子は慌ててそこから離れた。

――私も冬まで一緒に住んでた人がいたんですけど、一人になっちゃって……

 以前、奈津子が言っていたことを思い出した。

 自分と同じように、奈津子にもどこか心の傷があるのだろうか。


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