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ルームメイト  作者: けせらせら
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 涼子が勤める『フォーライフ』は防犯機器の設計から販売までを行っている。以前は業務用中心だったが、近年、一般の家庭用に新しい機種を販売したところその性能の高さから評価が高まり売り上げは世間の不況にも関わらず、順調に伸びていた。特に最近では上層部の方針で社内での設計開発に力がいれられている。

 間接部門の社員のほとんどが設計開発部に所属しており、設計一課から三課までが存在している。他には涼子が所属している総務部や経理部、営業部、顧客管理センター、システム、在庫管理を行う製品管理部が存在していて、そのの多くは一番町にあるビルに置かれていた。一方、製造部門に関しては富谷の工業団地内に工場を持っていた。間接部門、製造部門をあわせると800名あまりの社員がいた。

 涼子の席がある総務部には男性が3名、女性が2名の5人しかいない。

 小さな部屋には事務机が課長席を含め6個並べられ、そのうちの空いた一つの席に大きなプリンタが置かれている。部屋はいつもシンと静かで、パソコンのキーボードを叩く音だけがカチャカチャと聞こえている。

「先輩、聞きましたよ」

 隣の席に座る浦沢加奈子がそっと話し掛けてきた。

 加奈子は去年入社したばかりで、入社一年が過ぎた今でもどこか学生っぽく見える。大きな目とすっきりとした顎のライン。その容姿の可愛らしさと人懐こい性格から、男性社員からはかなり人気があった。

「何が?」

 一瞬、涼子は加奈子の言葉の意味が分からずに聞き返した。

「ルームメイト、決まったそうじゃないですか?」

 加奈子は明るく肩まである栗色の髪をさらりと揺らしながら、そっと涼子のほうへ顔を寄せた。

「どうしてそのことを――」

 といいかけてすぐにその話が加奈子まで流れたルートが想像出来た。

 ルームメイトの話をしたのは今のところ恵美だけだ。その情報は恵美から忠志に流れ、そして、その忠志から加奈子に伝わったのだろう。

 現在、忠志はシステム管理部に所属している。忠志はもともと設計部門の中心として働いてきたのだが、昨年の秋、突然、忠志は設計部門を離れてシステム管理部に異動となった。理由はよくわからないが、忠志本人の希望らしいと噂されている。それでも忠志は多くの設計部門の社員から慕われており、今でも多くの相談を受けているようだ。

 加奈子はそんな設計部門の男性たちに特に可愛がられている。人見知りしない性格の加奈子は誰とでもすぐに仲良くなるのが得意だった。

「川渕さんから聞いたのね。それにしてもずいぶん早いわね」

 奈津子のことを恵美に話してからまだ二日しか経っていない。加奈子の情報収集の速さにはいつも驚かされる。

「どんな人なんですか?」

「いい人よ。私より年上だし……落ち着いてる感じの人ね」

「でも、他人と一緒に住むって大変なんじゃないですか? なんかすっごく気を使いそう」

 加奈子がそれを言うのを聞いて涼子は妙に可笑しくなった。

「私はつい最近まで恵美と暮らしてたから、それほど違和感はないわよ……それに、あなただったら大丈夫よ。むしろ相手のほうが気を使うわ」

「そうですか? でも、例えば先輩と私が一緒に暮らしたりしたら、なんかいろいろと説教されそうで……」

 まだ25歳の涼子も21歳の加奈子にとってはずっと年上に感じるらしい。

「説教なんてしないわよ」

「そうかなぁ……先輩ってすっごくしっかりしてるように見えるから……」

 加奈子は自分で言って自分で納得するように肯いた。

「あなたの場合、まず一人暮らしするまでが大変なんじゃないの?」

 彼女の父親は経営コンサルタントをしており、上杉に大きな家を持っていた。加奈子は以前から一人暮らしを希望しているようだが、両親はそれに反対しているらしい。

「そうなんですよ。一人暮らししたいんだけどなぁ」

 加奈子はぼんやりとつぶやいた。それから何かを思い出したように声をあげた。「あ、そうだ――これなんですけど」

 そう言いながら加奈子は薄いベージュのブランド物のバッグから小さな写真のアルバムを取り出した。

「写真、プリントしたんですよ」

「あ、恵美の結婚式?」

 先日の結婚式には加奈子も出席している。

 涼子は加奈子がカメラで盛んに撮っていたことを思い出した。

 ぱらぱらと簡単に写真に目を通していく。

 そこには純白のウエディングドレスに身を包んだ恵美の輝かしい姿があった。

「ええ、恵美先輩、奇麗ですよね。川渕さんも恰好いいし、お似合いですよねえ」

 涼子はどう答えていいか困りながらちらりと加奈子の表情を見た。

 以前、涼子と忠志がつきあっていたことは加奈子も知っているはずだが、まったく気にするそぶりもない。だが、むしろ、そういうところが加奈子の良いところなのかもしれない。

「そうね……」

 涼子は加奈子に気づかれないよう小さくため息をついた。


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