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ルームメイト  作者: けせらせら
32/44

5-4

 川村と別れた後、涼子は会社に戻る気にならず、そのまま帰宅することにした。

 葬儀のこともあったが、それ以上に川村から聞いた忠志の話が胸をしめつけていた。

 川村の話はいろんな意味で涼子にとってショックだった。

――たぶん君のことをずっと好きだったんだと思う

 その言葉がより一層、忠志の死を悲しいものにしていた。

(本当に……?)

 忠志の兄が事故にあった事も、実家に帰らなければいけなくなったことも、涼子は教えてもらっていなかった。

 なぜ、教えてくれなかったのだろう。

 なぜ、相談してくれなかったのだろう。

 だが、その答は涼子自身が一番良くわかっていた。

 川村が言っていたとおりだ。涼子が実家に帰るのをやめられないように、忠志もまた実家の両親の思いを裏切ることが出来なかったのだ。そして、その結果、二人が別れなければいけないという現実だけは決して変わることがない。

 忠志も同じことで悩み、結局、涼子と同じ答を出すよりほかなかったのだ。

 きっと忠志は自分が悪者になることで、涼子を傷つけないよう考えてくれたのだろう。忠志の優しさを改めて知って、涼子は胸のあたりが熱くなるのを感じた。

 川村から聞いた話を仙道に伝えたほうがいいのだろうかとも思ったが、結局、連絡するのは止めることにした。情報漏洩の件が事実だとすれば、当然、会社の役員たちも知っているはずだ。そして、いくら役員たちが隠そうとしても、仙道はしっかりと調べていくことだろう。

 自分が今更、話すほどのこともない。

 それにしても――

(いったいあの日誰と会っていたんだろう)

 川村から聞いた話を思い出していた。

 ぼんやりとした歩調でマンションにたどり着くと、エントランスホール脇に備え付けられているメールボックスの前に立った。

 メールボックスにはすでに『藤井寺/山辺』と二人の名前のプレートが貼られている。

(そういえばドアのネームプレートも替えなきゃ)

 ドアに貼られたネームプレーはまだ『藤井寺』と書かれているものだけだ。

 涼子はダイヤルを合せ、メールボックスを開いた。

 電話の利用明細書と一枚のハガキを取り出した。

 電話の利用明細書は涼子宛だったが、ハガキは奈津子宛のものだ。

 読むつもりなどなかったが、ふとそのハガキに書かれた文字が目に飛び込んできた。


『康平さん、晋平ちゃんが亡くなったこと、先日初めて聞き、私もショックを受けました』


 その一行を呼んだ時、見てはいけないものを見てしまったような気がして目を背けた。

(亡くなった……?)

 ふと、以前に奈津子の部屋で見た写真が頭のなかに思い浮かんだ。

(康平さん? 晋平ちゃん?)

 あの二人のことなのだろうか。

 いけないこととは思いつつも、涼子は再びハガキに視線を移した。

 差出人のところには『桑原京子』と書かれている。広島からだった。奈津子の実家が広島だという話は前に聞いたことがある。

 ――だとするとこの女性は奈津子の友人かもしれない。


『康平さん、晋平ちゃんが亡くなったこと、先日初めて聞き、私もショックを受けました。

 聞いた時は信じられませんでした。同じ夫と子供を持つ身である私にとって、事故のことは我が身のように感じられました。もっと早く連絡したかったのですが、私自身どう奈津子に向き合っていいのかわかりませんでした。

 今、どうしていますか? おばさんも心配してます。一度連絡してください。

 私に出来ることがあれば、なんでも言ってくださいね』


(事故……?)

 思わずハガキをメールボックスに戻し、階段を駆け上がった。

――私も冬まで一緒に住んでた人がいたんですけど、一人になっちゃって……

 初めて奈津子が部屋にやってきた時のことを思い出した。

 あれはこのことを言っていたのだ。

 そして、それは旦那さんと子供。

 奈津子の気持ちに、今の自分の思いが共鳴しているような気がした。


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