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事件から三日後――
忠志の葬儀は、長町駅裏にある葬儀場でとりおこなわれた。
祭壇の脇に喪主として恵美が顔を俯かせ座っている。そのすぐ脇には忠志の両親、そして妹の美鈴の姿があった。
その様子を遠くから見つめ、奈津子は左手に持った数珠をぎゅっと握り締めた。
喪服を着た恵美の姿に胸が苦しかった。
今日の葬儀のことは昨夜、涼子から聞いて知ることになった。
――今、恵美にとって一番心を開けるのはひょっとしたら奈津子さんかもしれない。
涼子はそう言って、今日の葬儀の場所と時間を教えてくれた。
(かわいそう)
心から恵美のことを思った。
恵美の気持ちが痛いほどわかる気がした。
半年前、自らも恵美と同じように夫と子供を見送った。もし、あの事故がなければこんなことにもならなかったはずだ。
(そう……すべてはあの事故のせい)
恵美に対する哀れみや、罪の意識はあったが、それでも自分のやったことが間違いだとは考えたくなかった。
悔いるのは全てが終わってからでいい。それまでは憎しみ以外の一切の感情は捨てると決めたのだ。
今日、奈津子が葬儀に出席したのも、ただ恵美を思ってのことだけではなかった。目的は、もう一人の女を見つけるためだった。忠志と親しい女であれば、きっと葬儀に現れるだろう。
あの事故のあった夜、川淵忠志がホテルのラウンジで女と一緒だったことは興信所の調べでわかっている。興信所が調べたその女の人相や髪型などの特徴を奈津子は頭のなかで繰り返す。
(必ず来るはず)
奈津子は参列者の顔ぶれをそっと眺めた。
「奈津子さん――」
背後からの声に奈津子は振り返った。涼子だった。加奈子も一緒だった。他にも会社の同僚が多く参列しているようだ。
「恵美さん、きっと辛いでしょうね」
奈津子は恵美の姿を眺めながら言った。
「ええ……」
「涼子さん、そばにいてあげたほうがいいんじゃないですか?」
だが、涼子はそっと目を伏せた。
「そうね……本当はそうしてあげたいんだけど……」
その意味がわからずに、奈津子は不思議そうに涼子を見た。涼子と恵美が昔から仲が良かったことは知っている。だが、どこかその間がぎこちない印象も持っていた。
「涼子先輩がそばにいると、むしろ川渕さんのこと思い出すでしょうから」
加奈子の言うとおりかもしれない。
「そうですね」
「奈津子さん、一緒にいてあげてください。彼女、奈津子さんのこと信頼してるみたいだから」
涼子の言葉に奈津子は素直に頷いた。