3-5
駅ビルに新しく出来た『マリアン』には多くの客が集まっていた。
この近辺では珍しいスペイン料理の店で、店内は華やかな装飾で彩られている。
客の多くは若い女性で、仕事から解放された仕事帰りのOLたちの表情は一様に明るく見えた。
そんななかに涼子たちの姿もあった。
「変な男?」
ざわめく店のなか、安村の声がひときわ大きく響いた。一瞬、周りの人たちの視線が安村のほうに注がれ、一緒にいた涼子と加奈子は困ったように顔を見合わせた。
「ちょっと声大きいって」
加奈子が安村をたしなめる。
「いや、だって変な男がうろついてるって言うから。ストーカーですか?」
「そんなんじゃないわよ」
と涼子が否定する。
変な男が涼子のマンション周辺にうろつくようになったのはつい最近のことだ。先日もマンションからすぐ近くにあるコンビニ前に立って、涼子の部屋の方向を見上げていた。
「それって藤井寺さんを見張ってるってことですか?」
「さあ……本当に私の部屋を見ていたかどうかはわからない」
「じゃあ、気のせいってことも」
「うん……でも――」
最初はただの気のせいかとも思った。
だが、昨日、会社から帰った時、若者は涼子の部屋の前で郵便受けから中を覗こうとしていた。そして、涼子の姿に気づいて若者は逃げていった。
「完璧にストーカーじゃないですか」
加奈子がスペイン風のピザを口にしながら言った。
「でも、あれって私のことを見てるっていうより、部屋のなかをうかがってるって感じだったのよね」
「じゃ、ルームメイトの……あの人を追いかけてるってことですか?」
「うん……」
その可能性もなくはない。だが、奈津子にも訊いてみたが、その若者について心当たりがないと言っていた。
「じゃあ、いったい何が目的なんでしょう?」
安村が首を捻った。
「それがわかってたら苦労しないわ」と冷たく加奈子が言う。
「そ、そうですね」
加奈子に言われ、安村は慌てて相槌を打った。
「警察に通報したほうがいいんじゃないですか?」と加奈子が言った。
「警察?」
あまり大げさにはしたくなかった。相手が誰なのかもよくわかっていないのだ。そんな状況で警察が取り合ってくれるかどうかもわからない。
「でも、何かあったらどうするんですか? ストーカーによる殺人事件なんて最近じゃよくあることですよ」
「やめてよ縁起でもない」
「用心はしたほうがいいです。とりあえず警察には言っておいたほうがいいですよ」
そういう加奈子をさえぎるように安村が口を出した。
「それってどうかなぁ。僕もいきなり警察ってのはちょっといきすぎのような気がしますよ。下手に刺激しないほうがいいかもしれません」
安村の言葉に涼子もうなずく。
「じゃあ、どうすればいいのよ」
加奈子が少しムッとした顔で安村を睨んだ。
「どうするって言われても……」
「結局、解決方法がないんじゃないの」
「でも、もう少し様子を見たほうがいいんじゃないですか。それより本当に覚えはないんですか?」
念を押すように安村が聞く。
「まさか。もしかしたら……誰かと勘違いしてるんじゃないかと思うんだけど」
涼子は答えた。
「そうですか……」
安村は考え込むようにして黙り込んだ。
「そんなに気にしないで。少し様子を見てみるから」
「何かあればいつでも連絡してください」
「ありがとう」
何かの勘違いであって欲しい。そう願っていた。




