第九十九話 軍師キンジョーの奇策
「こうやってみんなで車に乗るのも初めてやな」
分厚い雲から今にも雨が降り出してきそうな天気の中、ラッシュが呟いた。
「皆さんのお弁当作ったら良かったですね」
「リボン、今日はそういう日じゃないのよ」
アイは木に静止する小鳥を眺めながら言った。
「ショー、浮かない顔だけど大丈夫か?」マゴは顔を覗かせながら言った。
「うん……大丈夫」
「あんまり寝てないのか?」
「そうじゃないよ。ただ少し……緊張して」ショーはマゴと反対の景色の方向を見た。
「ショー体調が悪いならすぐに言え。そうでなければ今目の前にある事に集中しろ! 仲間に余計な気を遣わせるな」
ウルフはショーの思案を察知して、叱咤した。
「はい……わかりました」
煮え切れない空気の中、一同を乗せた車は西軽井沢へと向かった。それぞれが緊張を解そうと笑いを作るも、「決戦」という重荷が個々の心を重くしていく。
「そういえばどういう作戦で突撃するんですか?」
リボンは思い出したように尋ねた。出発前話す時間がないと言われ、そのまま車に乗り込んだ次第だった。
「ウルフとアイちゃんの侵入作戦やろ? バーナーやっつけたみたいに」
ラッシュは先日の妙案を振り返った。
「どうなんだ? キンジョー」運転しているウルフも助手席を横見に尋ねた。
「今回は相手がスパイダーともあってそういう作戦はしません」
「じゃあみんなで爆弾を投げて、一蹴する作戦か?」ラッシュは少し興奮気に言った。
「一般市民を巻き込む恐れもあるので、それもしません」
「じゃあどうするの?」みんなはキンジョーの方へ視線を合わせる。
「全員で玄関正面から突破します。ただそれだけです」
走行中の車が一瞬飛び上がった。全滅しない作戦をつくるっと言った当人の言葉とは思えなかった。