第九十四話 黄昏の秘密
目を開けると二人は通路に横たわっていた。ショーはゆっくりと起き上がり、本間を起こした。
「戻ってきたんか……」
本間はまだリリーの件でショックから立ち直れず、しばしその場で座り込んでいた。周りを何度か確認したがサンクタリーヌと書かれた本は見当たらなかった。
「あのおじいさん、ヒーローだったんだね。どうしてブラック・ⅰ団へ入ったんだろう?」
「ああ……」本間は天井を見上げながら、なおも上の空で返事をした。
「ペシッ!!」静寂の間で痛快な音が部屋に広がった。
「何すんねん!?」本間は目を覚ましたかのように叫んだ。
「本間さんらしくない! いつまでそうやって後悔しているんですか? 立ち上がりましょうよ」
「お前に俺の何が分かるねん!」
「分からないですよ。でもそうやってずっと落ち込んでいても解決しない事ぐらいは分かります」
「……」
本間はくの字になった背中をピンと真っ直ぐにしゆっくりと立ち上がった。
ショーは一瞬怒られるかと身を縮めた。
「そうやな……その通りや」本間はそう呟き、来た道を歩いて行った。ショーはあわてて追いかけて行った。
本間は図書館を出て、ゆっくりと丘の上から街を見下ろした。消えかかりそうな夕陽がきれいに空を橙色に染めている。
「ショーありがとうな。今回は迷惑ばかりかけてすまんな」
「そんな事ないですよ。こっちこそあの時は助けてくれてありがとう」
「あぁ、今回の事みんなに内緒にしてくれへんか? 余計な心配はかけて欲しくないねん。みんなにはいずれ俺から話す。自分がもっと強くなって、自分の事を信用できるようになってからな」
「僕の事は……みんなの事は今でも信用してないですか?」
本間は小さく呟いたが、突然の突風で聞き取れなかった。
「今後も宜しく頼むわ。俺の事はラッシュって呼んでくれ。昔から落ち着きのない野郎でそう言われた事もあった。あとタメ語でな」
「……分かった。よろしく、ラッシュ!!」
「なんか犬の名前っぽいけどな」
二人は笑いながら丘の上から坂を降りて行った。夕陽はもう沈んだ後だが、二人の脳裏にはしっかりと焼き付いていた。
初めて二人で交わした男同士の約束。遠い苦手な存在が近く温かく感じた。




