表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独なヒーロー達  作者: 林 秀明
93/153

第九十三話 最低の師匠

本間は尋常でないほどの汗をかいていた。ショーは遠くから見ても目で分かるほどきらめていた。


「やはりな……人を信用しない事と言動が少しばかり似ておる」


「なんで……そいつの……名前を」


本間は声にならないほどの大きさでそう呟き、そのまま地面へと倒れこんでしまった。


「本間さん!!」ショーは急ぎ、本間の元へ向かい、身体を持ち上げた。汗のせいか身体は異常な熱を帯びている。


「リリーって誰なの?」ショーの問いに本間は俯いたままだった。


「……俺に絵を、絵を描く楽しさを教えてくれた師匠や。ただ……」


「自分の彼女を奪い、挙句には死に追いこんだブラック・ⅰ団の精鋭団長」


「えっ!?」ショーはびっくりした顔をして本間を見た。本間は気力が抜けたように顔をかがめている。


「少し昔話をしてやろう。リリーは幼い頃から虚弱で親から虐待を受けていた。特に母親からな。それが心の根になり誰にも心を開かなくなった。人を信用する事もなかった。そんなリリーにも恋をする転機が訪れたのじゃ。その初恋の

人が……そこに座っておる男の彼女じゃ」


「えっ!?」


「リリーは男が絵を描く勉強をしたいと願っている心の隙をつき、何度も男と会い、絵を教え、親しむようになった。男はリリーの家に泊まるまで心開ける友になり、やがて彼女を紹介した。彼女と会っていく内にリリーは彼女とも親しくなろうとしたが、彼女はもうあの人と会いたくないと言った。男にはその理由は分からなかったがな。そしてこれで会うのは最後にしようと言った晩リリーは彼女をさらったのじゃ。男の目の前で堂々とな。その時初めて男が夢に溺れ、彼女の恐怖に気付いてやれなかったと後悔した」


「……」


「そして彼女は殺された。男は絶望に陥り、自分を憎み、人を憎み、人前から消えていったと聞くが……」


「……その通りや、よく知っているなじいさん。この能力に開花したのも師匠のおかげや。まさか今回助けられるとな」



どこからか風が吹いているのだろうか。時折本と本の隙間から風の鳴る声が聞こえてくる。


「もうわしの命も終わりじゃ。君達に会えてよかったよ」


「じいさん、どうすればリリーを打ち負かせる事ができんや。俺は……奴の呪縛から解放されたい!」


「もっと仲間を信じるんだ……いずれお前にもその大切さがわかってくるじゃよ」


「おじいさん、どうしてそこまで僕達に色々教えてくれるんですか?」

ショーは相手を助けるような悲しい目で聞いた。


「わしも以前はヒーローじゃったからよ。この世を、救ってくれ……同志よ」



まばゆい光が部屋全体を包み込んだ。ショー達は光に吸い込まれるようにゆっくりと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ