第九十話 サンクタリーヌとの戦い⑤
「もう残り時間はないぞ」
ショーは腹から呼吸をし、息が落ち着くのを待った。残り時間が少ないというのに身体が追いつけず、心は焦る。
「くそー!!」
最後の力を振り絞り、サンクタリーヌに突撃したが、またもや紙一重で交わされ、本棚へとぶつかった。
「二度あることは三度ある……ほれ!」
地面が少し揺らいだかと思うと、またもや本の雨がショー目掛けて降り注いだ。ショーは声を出す間もなく本に埋もれてしまった。
「チェックメイトじゃな……残り一〇冊」
時間が経過するとともに本が一冊一冊燃えていく。ショーの死の影は目の前に迫っていた。
ショーは最後の力を振り絞り身体全身を使って動いたが本は少し動いただけで動けなかった。疲労と共に身体が動かなくなり、目を開けるのさえやっとのことだった。
「もう……駄目か」
瞼の奥には笑顔で笑う家族とヒーロー部のみんながいる。自分は果して役割を果たせたのかと今までの思い出が走馬灯になって思い浮かぶ。
少し目を開けるとほんの三〇センチ先にもう一人の自分がいた。
自分はもう身体から魂が抜けて、あの世へと旅立っていくのだろうか。
しかしもう一人の自分はゆっくりと人差し指を立て、口元に指を置いた。そしてゆっくりと笑うと次の瞬間メラメラと燃え始めた。
「きた!!」サンクタリーヌは声を荒げた。
「君の命は炎と共に浄化されていく。楽しみも苦しみもない世界へと渡り響いて行くのだ。アーメン!!」
本の隙間から瞬く間に煙が上がったと思うと、やがて小さな火が炎となって辺りを明るくした。
「もうこんな本はいらない。君にもしまだ命があるのなら取りにきてもええぞ」
サンクタリーヌは積み重ねられた本の前にペガサスの本を放り投げた。炎は生きる命を宿したように勢いよく燃え続けた。