第九話 国語の教師
翌日翔太は4限目の国語の授業で夏目漱石の「こころ」を読まされた。昨日早退の扱いを受け、遅れを取り戻すためにと時寺先生より愛の指導が始まったのだ。
授業が終わり、翔太は昼休みで一人で弁当を食べようとしたら、先生が
「飯食ってからでいいから、ちょっといいか? 少し話があるんだ」
と声をかけてきた。昨日、今日何かしたかと考えたが、特に思い当たる節もない。
翔太は弁当を食べ終え、呼び出された「音楽室」へと向かった。
音楽室へ着くと、時寺先生がすでに待っていた。
「来たか、悪いな。そこのドアをちゃんと閉めといてくれ。ここなら音が漏れないだろう」
先生は意味深な事を言う。一体何の話しで呼び出されたんだろう。
先生はピアノ椅子に腰かけ、翔太は前の机椅子に座るように促された。
「さて…人生生きていくうえで基本って大事だと思うだろ?」
「はい!?」少し裏返った声で返事をしてしまった。一体何の事だ。
「運動を始める前には準備運動が基本、音楽の基本はドレミだろ?」
「はぁ…」
「国語の基本は何だと思う?」
「本を読む事ですか?」翔太は何とかなく答える。いつまで続くんだろうこのやり取り。
「半分正解だな。読む事は読む事でも、相手の心情になって読む事が大切だ。そうすれば作者の描く心情が深くわかる。」
「一体何の話しですか? もう戻っていいでしょうか?」翔太はイライラしながら言った。
「やっぱり回りくどい事は俺には向いていないな。わかった、率直に言おう。お前ヒーローだろ?」
突然の質問に言葉を失った。今までヒーローである事は絶対に隠してきた。家族にも友達にも、一体なぜわかったんだ。胸に矢が突き刺さったような衝撃を受ける。
「図星だな…お前の今のその顔を見て、さらに確信したよ」
「なぜ…分かったんですか?」翔太は恐る恐る聞いた。言い逃れない現実が心を蝕む。
「昨日の火災現場でヒーローが出動したのを小耳にはさんでな。現場へ急行したら、お前の姿が見えたよ。最初は疑心暗鬼で信じなかったが…」
「先生!! どうかみんなに絶対に言わないでください。みんなに話したら僕またいじめられちゃう。もう小学校の僕には戻りたくないよ」
翔太は泣きながら言った。今でこそいじめは鎮火しているが、この事をきっかけにポップコーンがはじけるように、また過熱するんじゃないかと感じたからだ。
「何か…あったのか、話してみろ。ゆっくりでいいから」
時寺先生は翔太の肩をゆっくりと触り、なぐさめるように言った。
翔太は昔トイレでいじめにあった事を話した。