第八十九話 サンクタリーヌとの戦い④
「ショー! 立ちあがれ! 早くしないと……!」本間は少し涙目になった。涙が頬を伝わり、感情が言葉に伝わる。
「終戦じゃな。本は……わしが持っているんじゃよ。もう少し恐怖に引き裂かれる顔が見たかったわい」
サンクタリーヌは袖口から本を取り出した。本の表紙にはペガサスの絵が描かれている。
「……あいつ。ショー! 本を見つけたぞ! 奴が持っている!!」
本間の叫び声も空しく積み重なった本はビクともしない。
「無駄じゃよ。一冊の本の重さを侮ってはいかん。大人でも自力で這い上がるのは難しい」
その瞬間サンクタリーヌの足元で本が少し動いたように見えた。次の瞬間本の中からショーが飛び出し、ペガサスの本目掛けて腕が伸びた。少しの所でサンクタリーヌは左に避け、身をかわした。
「油断は大敵じゃな。これが便器の移動能力か……」
「それをどこで!?」
「風の噂じゃよ……便器がないのにどうして?」
「何も実物だけしか移動出来るわけではない。絵で描かれたものもこの通りさ。さっき投げた本と埋もれた中で見つけた本とをつなぎ合わせただけさ」
なおもショーはサンクタリーヌに喰いつくように本を追った。サンクタリーヌは悉くショーの攻撃をかわしていく。
「惜しいな……君は面白い。あと十五冊か……自分の命を掴み取ってみせてみよ」
サンクタリーヌはショーを挑発し、本を動物餌のようにショーの前へ転がした。
ショーは何度も腕を伸ばすがいつもあと寸前の所で避けられてしまう。
本間はその姿をじっと見つめていた。ゆっくりと神経を指に集中させ、鳥籠床になにやら描き始めた。