第八十八話 サンクタリーヌとの戦い③
ショーはまず足元にある本を一冊ずつ確認していった。ペガサスの本の表紙を忘れないように何度も頭で反芻する。
「あんなんで見つかるんかいな。どうにかしやなほんまにやられてしまう」
本間は鉄格子の鳥籠を揺らしながら対策に喘いでいた。見つかるはずのないこの状況で何か策はないかと……程よくして上の方で何か明るくなっているのを感じた。ショーは上を見上げると一冊の本が燃えているのが見えた。
「まずは……一冊目。あと59分立てば君は確実に死ぬ。一冊目にして死なずに済んで運が悪くなくてよかったな」
サンクタリーヌの笑い声が不気味に部屋中に響く。いっそ狂乱して本を探したい所だが精神が崩壊しては相手の思うつぼである。
これは一種の心理戦だとショーは高まる恐怖を抑え、懸命に探し続けた。
そして……
四十冊目の本がちりちりと焼かれようとしていた。
「四十冊目……正直ここまで来るとは思わなかったぞい。君は本当に運がいい。だが手当りは全くないがな」
上の方も含め粗方は探した。だが一向に見つかる気配がない。時間の経過とともに心臓がバクバクと大きくなるのが分かる。
汗は床の上に滴れ、恐怖の影が今にも自分の背後に迫ってくる。
「ショー! あきらめるなー」本間は激を飛ばした。自分の出来る事はそれしかなかった。
「くそー!」
ショーは自分の足元にあった本をサンクタリーヌ目掛けて投げた。本はサンクタリーヌの残像を抜け、床へと落ちた。
「無駄じゃよ。君がペガサスの本を見つける事が君の勝ちだ。わしはあくまでその審判でしかない」
ショーは声に出す事無く本棚目掛けて思いっきり蹴りを入れた。本棚が一瞬ぐらついたかと思うと、無数の本がショー目掛けて落ちてきた。
ショーはなすすべもなく本に埋もれてしまった。
「ショー! 大丈夫か!?」
「そろそろ心が折れてきたようだな。人間の心は本当にもろいものよ」
本間が何度声をかけてもショーの返事はなかった。残りの本は十七冊となっていた。