第八十六話 サンクタリーヌとの戦い①
目を開けると目の前が真っ白だった。かと思うと目が慣れ、壁には天まで届くかのような無数の本が360度壁中に埋め尽くされていた。
「ここはどこ?」
ショーは目を擦りながら立った。床一面にも無数の本が散らばっている。本間へ掛けたはずの返事はない。
「ショー無事か~?」
後方の上の方から部屋中に響くような声が聞こえる。後ろを振り返ると本間が鳥籠のような鉄格子の中で手を振っていた。
「大丈夫です! 本間さんは?」
「特に大丈夫やわ。でもこっからどないしても抜け出されへんねん。起きたらこの中やわ」
「僕も今気付いたとこです。ここは一体どこなんだろ?」
上を眺めると小さくではあるが窓から青い空が見える。太陽の光と前方の机にある燭台の光が部屋全体を包んでいた。
「ようこそ、選ばれし者よ。いや忌まわしき者と言うべきか」
積み重ねられた本の下からぬっと黒い影が現れた。本が落ちる事にその原型が明らかになってくる。
「誰だ!?」
ショーは空手の型をとり、攻撃態勢にうつる。
「わしの名前はサンクタリーヌ。この間を司る者じゃよ。そなた達が参ったのに誰だとは失礼な奴じゃのう」
地面に着くほどの長い髭を触りながら老人は杖をついた。顔には無数のシミとしわが至る所にある。
「……すいません。ここはどこですか? 本の中に吸い込まれたらここにいたんです」
「ショー! いらん事聞くな! 俺らは罠にかかったんや。そいつは敵やぞ!!」
本間の言葉にショーははっとした。再度攻撃態勢に移り、相手の出方を伺った。
「あいつは正解。君は不正解。真面目な奴ほど不幸になる世の中じゃよ」
サンクタリーヌは杖を天にかざし、何やら呪文を唱えた。すると上から一冊のペガサスの絵が描かれた本が老人の元へと舞い降りてくる。
「これは君の生きた人生の指南書。生きて帰りたければこれと同じ本をこの部屋から探し出さないといけない」
「どういう事だ?」ショーは心臓が委縮する感じがした。緊張の糸を切らないように歯を食いしばる。
「死のゲームの開始じゃよ」サンクタリーヌの真っ黒な歯がにやっと笑った。