第八十四話 ザ・レファレンス
図書館は急な左カーブの道の丘の上に立っていた。市民図書館として町の中では小規模だが、夏休みもあって平日でも人が溢れていた。
「学校の図書館以外で図書館に来たの初めてだ。こんなにもいっぱい本があるなんて」
ショーは目を丸くして言った。
「俺も小学校の時はそうやったで。あの人と会うまではな……」
「あの人?」
「すまん。今のは忘れてや。レファレンス係りの人に聞こうか?」
「レファレンス?」
「そうや。自分が探したい本をその場所(棚)へと導いてくれる人や。奥の化粧濃いおばはんがそうちゃうか?」
本間が視線を送る先を見ると、図書館ではお目に掛けない化粧品販売をしてそうなおばちゃんが座っていた。
「あれに聞くんですか?」
「そう……あれや」
「この辺りの地域の詳しい文献を探しているんですが?」
「あら珍しいわね。夏休みの宿題? 私も宿題には苦労してねー。最後まで残すタイプだったの」
「そんな所です。この地域に昔からある大きな古城があると聞いて、それについて調べたいんです」
「そんな城あったかねー。最近建物の開拓が多くなってね、見晴らしがいい景観も損なわれて観光客が少なくなったのよ」
「そうなんですか、古城の本はどこにあるんですか?」
「ちょっと待っててね」
おばちゃんは肌のノリが悪いか検索をする前に自分の顔を鏡で覗き込んでいる。
「すいません、急いでいるんですが……」
「あらごめんね。最近乾燥肌に悩んでいて……あったわ。この本は地下の書庫にあるわね。取ってきますから番号札四番で待っててくださいね」
司書おばちゃんは重い腰を上げ、面倒くさいと言いながら、奥の扉へと歩いて行った。
「みんなあんな感じなんですか?」
「いや、あれはスーパーヘビー級やな。あんな図書館員見たことない。人員が足りへんかもしれんけど、世も末やな」
本間のその言葉にショーは少し苦笑いした。