第八十三話 大切な人
残暑が続く真夏日、蝉の鳴き声はこれからも果てしなく続きそうだ。
軽井沢に到着し、図書館までは徒歩十分とかかる。数歩で服に汗がまとまりつき、自然とタオルで汗を拭う。
「暑いなー。ほんまに暑い。異常やな」
本間はタオルを何度も四つ折りにしながら言った。
「そうですね。でもあと少しです。スパイダーを倒せばヒーロー界に未来が見えます」
「倒せばの話やろ。そこまでが大変やねん」
「そうですけど……本間さんは何故ヒーローになろうっと思ったんですか?」
「……人のことよりまず自分からやで」
「……すいません。僕は昔いじめられていて苦しかった事がありました。便器移動の能力に目覚めてからもヒーローとして活躍出来るのかなと不安にも思いました。でも自分が出来ることから少しずつやろうと思ってから少し価値観が変わりました。そうやっていくうちにウルフや仲間と出会って……」
「今の自分がいるんやな?」
本間は急に立ち止まっていった。後ろに見える夕日が本間の背中をゆっくりと照らした。
「そうです。本間さんはどうなんですか?」ショーは改めて聞き返した。
「俺かぁ、俺はな……」
本間は口籠った。何でも率直に言う本間だが、こう言いにくそうにした事は見たことがない。
「もし良かったら教えて下さい」
「うーん、そうやなぁ。ショー、お前には大切な人がおるんか?」
「えっ!?」ショーは自分が聞き返された事に驚いた。
「大切な友達でもええで。自分が心の中から大切に思っている人や」
「大切な人……親友の亮やその友達の雫ですね。今はどこにいるか知らないけど、今の自分を支えてくれた大切な人です」
「そうか……見つかったらいいなその友達。俺みたいにはなるなよ」
「どういう事ですか??」
「大切な人……師匠に、裏切られたばかりに……」
その瞬間路線バスが横を通り、あとの言葉が聞こえなかった。振り返り路線バスを見ると、目の前には図書館が見えた。
「この話はやめや。またゆっくりとした時に話す。ショー行こうか」
そっと笑顔になり、本間は歩き始めた。その後ろ姿を見ていたショーは本間の過去を思い描いた。本間の影は夕日の影に照らされ濃く大きくなっていく。その黒い影にどんな人生があったのだろうか……