第八十一話 マリ姉と黒い影
灰色がかった空の下にファミレスの子供たちの笑い声が聞こえる。
大人が談笑する会話にソファーに横に寝そべる子供もいた。
その片隅に赤紫の髪色をした女と魔法使いのような黒帽子をずぼりとかぶった少年が異様な光景で居座っている。
「悲しくないの?」少年はメロンソーダを片手に呟いた。
「何の事?」
「バーナーの事だよ。彼の事気に入っていたんでしょ?」
「別に……そうでもないわ。彼に一度も身体を触れされたことがないし。私の本性も知らない」
「ふーん、ヒーローのお兄ちゃん達はどうなの?」
マリ姉はアイスコーヒーを置き、窓の外を眺めた。外には子供連れの親子が楽しそうに会話をしている。
「別に……特別な動きはないわ。脅威となることもないし」
「じゃあ殺そうよ」黒帽子の奥底から正面の目が光った。
「芽は早くから潰した方がいいしね。現にスパイダーの居所も読まれている。面倒くさくならないうちに一発でさ」
「分かったわ。あいつらは私が殺る。手出しはしないでね」
マリ姉はポケットから小銭を出し、机の上に出して去っていく。
「……あのさ」マリ姉が少年の横を通り過ぎようとした少年は発した。
「何よ」
「裏切っちゃ駄目だよ。僕はずっと見てるからね」
「……」
マリ姉は一瞥してそのまま去って行った。少年の身体からみるみる黒い炎が舞い上がった。それは一瞬の花火のように散り去り、ソファーの上に黒い焦げ跡を残した。誰もその様子を見ている者はいなかった…