第七十四話 リボンの決意②
「ようこそお越しくださいました。執事のバッファローです。今奥様をお呼びしますが故に」
丁寧な口調と共に白髪が目立つ老人が門前に迎えに来てくれた。
「ようこそお越しくださいました。玲奈の母です。お暑い中御苦労さま」
奥の部屋から黄色いドレスを纏ったご婦人が現れた。室内というのに日傘を差している。
「あの~」ショーは何かを言おうとしたがウルフに遮断された。
「お忙しい所すいません。美術部顧問の時寺と言います。この度は玲奈さんと連絡が取れず、心配になりご訪問させて頂きました。玲奈さんはいらっしゃいますか?」
「先ほども申し上げた通り、玲奈はいますが、体調を崩しており今は誰にも会いたくないと言っております」
「お花を添えさせて頂くことは出来ないでしょうか?」
「ご遠慮下さい。お越し頂いた旨は私の方からは伝えておきます……」
「アイちゃん!」
マゴはアイに視線を促した。アイは意図を察知し、黒眼から緑眼へと移し、人の心を探った。
「おい、ショー、あれ見てみ」
本間に言われるまま、ショーは左上二階の窓の一室に目を向けた。
純白のカーテンが掛っているが、中から誰かこちらを見ているような気がする。少しカーテンが開き、中からリボンの姿が見えた。
「あっ!!」
その声と同時にみんながこちらを振り向き、本間の拳が頭へと直撃する。
「すいません、こいつ珍しいものが好きで……気にしないでください」
「とにかくお引き取りください。元気になったらまた来てください」
玲奈の母はうっとうしそうに手をひらひらとさせた。
「そろそろまずいな。ショー、リボンが何か伝えようとしてるで。見えるか?」
ショーは再度二階の窓を見た。リボンが窓を少し開け、空中に指文字を書き始めた。リボンの指に沿ってシャボン玉の文字が中に描かれ始める。
「あ、あれは……!!」
「た、す、け、……て」
「もうお引き取りください、私も用があるので失礼致します!!」
荷物が崩れたような大きな音とともに扉は閉じてしまった。ショーと本間はその大きさに再度扉の方を見た。ウルフはがくりと肩を下ろし、みんなの表情は俯いていた。
「どうしましょうか?」
何とも言えない不安の中キンジョーは言葉を放った。キンジョー自身にも言葉の力はなく弱っている。
「とりあえず門まで戻るか……」
ウルフを始め、みんながぞろぞろと歩き始めた。
「ちょっと待て! 今あきらめて戻ってどうするや! もう二度とリボンには会われへんかもしれへんやで!」
「じゃあ、どうするんだ!! 侵入してリボンを助けるか? そんなのヒーローじゃねぇ」
「ウルフ落ち着いて!!」アイは二人の間に入った。
「ウルフには悪いけど、確かにあきらめるのはまだ早いわ。言わせてもらうけど、玲奈のお母さんは嘘をついているわ!」
みんなの視線がアイに集まった。その小さな小影をリボンはそっと窓から見つめていた。




