第七十一話 くろいかげ
「バーナー……さん」ショーはバーナーの終わりをゆっくりと回想した。
「誰や?」
本間はバーナーが消えた壁から目線を上へ向けた。ショーとマゴも同じ方向を見る。
「逃がすか!」
本間はキンジョーがいる場所とは真逆の方向へ走り出した。
「二人は危ないからそこで待っとけ! 俺は陰に隠れていた黒い影を追うから。すぐに戻るからな!」
言葉が終わる前に本間の姿は見えなくなった。
「追っかけた方がいいかな?」
「大丈夫、本間さんにまかせようよ。それよりも……キンジョーさん~」
ショーは降りしきる雨を裂いてキンジョーを呼び寄せた。
「キンジョーさん、この壁の中から発信機って出てる?」
「ちょっと待てよ。いや、出ていないな。この場所にはないよ。バーナーがどこに行ったか、死んだかもわからない」
「そっか……」
「おい~大丈夫か!」ウルフとアイは雨の中、傘を差さずに走ってきた。
「アイちゃん! きれいな服びしょ濡れじゃん! 大丈夫なの?」
マゴはアイの姿を上から下まで心配そうに見つめる。
「大丈夫よ! 衣装の人に謝るし」
「アイ、結局部屋の中で何があったんだ?」ウルフは息を整えながら言った。
「内緒よ。目には目を、バーナーには女子の制裁をよ」
「何の事言ってるんですか?」
「何でもないよ。それよりも肝心のバーナーは?」
「壁の中に引きずり込まれていなくなったんだ。あの様子だと死んだかもしれない」
ショーは壁の方を指さして言った。
「何だと! そんなバカな!」ウルフとアイは目を見開いていった。と同時に作戦が失敗したことも悟った。
「何か聞けたのか?」ウルフはなんとか元気を振り絞って聞いた。
「はい……スパイダーの本名は高倉で、西軽井沢の古城に住んでいると聞きました。それ以外の詳細は何も……」
「高倉? その名前聞いた記憶が……」ウルフは深く首をかしげた。
「あるんですか?一体どこで!」ショーとマゴの二人はウルフに歩み寄った。
「駄目や、見失ったわ」本間が奥の方から戻ってきた。
「アイちゃん、無事やったんか? 俺が戻ったからもう安心やで」
「空気読め、バカ」アイはぼそっと言った。
「くろいかげはどうだったんですか?」マゴは二人の間に割るように入った。
「あぁ、どっか行ってしまったわ。確かにあの電信柱から誰かか覗いてたんや」
黒い矢に黒い手、そして影、真夏の夜はもうすでに深夜を回っていた。




