第七十話 バーナーの最期
「目標拘束間近!! ウルフさん、アイ! 至急座標二-六-二へ来てください!」
キンジョーはバーナーら四人が集まる少し離れた所から状況を報告した。
「それ以上近寄るな! ただじゃ置かないぞ!」
「なんや、防御バリアでも張ってるんかいな。そんな嘘もういらんねん」
本間はバーナーの両腕を後ろに取り、片膝をついて、バーナーの顔を地面に押し付けた。バーナーの色白な顔が一瞬にして、泥顔へと変化した。
「面倒くさいのは嫌いやねん。スパイダーの場所教えてもらおうか?」
「そんな奴は知らない。僕を誰かと見間違えているんじゃないのか?」
「間違っていません! 盗聴器で聞きました。Sってスパイダーの事でしょ?」
マゴはバーナーの顔に近づき、怖い目で威嚇する。
「それはお店の用語でスター=ビッグな人を表す用語さ。スパイダーって何だよ?」
「ブラック・ⅰ団って言ってたよ。重要なキーパーソンだって」
ショーはマゴの後ろから状況を見つめている。
「少し度胸試しといこか。今からこの道具でお前の爪の皮を一枚一枚剥ぎ取る。いつになったら観念するか、楽しみやわ」
「ひぃいいいい、それだけはやめてください。白状しますから」
「こいつ弱わ」
「まぁいいじゃない、暴力は苦手だし」ショーは緊迫した状況から逃れ、少し落ち着きを取り戻した。
「じゃあ聞かせてもらおうか」
「はぃい。スパイダー様……スパイダーはブラック・i団が誇る勢力拡大の重役者です。新しい開拓地へ行っては新人を団へ招き、そこでリーダーを育成する。その拠点が確立すれば、また新しい拠点へ。それは木を植え、実がなり、やがて森へと拡大するような育成方法をしています」
「やっぱりやっかいな奴やな。どこにいんねん」
「わかりません。人のいない所が好きとしか……」
本間はバーナーの髪の毛を目一杯引っ張った。
「いてて……わかりました。わかりました。確か詳しい場所はわかりませんが、西軽井沢の古城に住んでいると聞いた事があります。名前は高倉。本当にそれだけしか知りません」
「おっしゃあ、わかった。あともう一つ最近会った赤髪の姉ちゃんはどうした?」
「あいつは私を騙しました。あなた方もおそらく騙されているでしょう。あいつは邪悪な……」
その時、雨が降る中、天から一本の黒い矢がバーナーの顔をかすめて地面に突き刺さった。あまりの出来事に本間は一瞬バーナーから離れた。
「あ、あいつが……」
バーナーの黒目はテンになっていた。顔は天を眺めながら、ゆっくりと壁へともたれかかった。
「バーナーちゃん、駄目でしょ。言っちゃいけないことを言っちゃ」
雨の音と交じって聞こえる子供の声。笑ったり、時には泣いたりと奇妙な声が辺りを包みこむ。その時、バーナーの後ろの壁から黒い手が現れ、いきなりバーナーの顔を掴み込んだ。
「エンドレスゾーン。バーナに永遠の死を!」
「や、やめて……」
声が出る前に、黒い手はバーナーを一気に壁の中へと引きずり込んだ。全員はその出来事に立ちすくみ誰も動く事が出来なかった。そう誰も……。その脅威なる悪の力に一人一人なすべき事がなかった。
辺りには未だに降り続く雨と、バーナーが持っていた青いハンカチだけが取り残されていた。




